音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年9月号

知り隊おしえ隊

スキューバ・ダイビングを始めませんか!

白石義正

ダイビングを始めたきっかけ

毎年7月、海の日の連休に沖縄へスキューバ・ダイビングに出かけています。そもそもスキューバのライセンスを取ったのもこの沖縄で、それ以来毎年沖縄へ来ています。

私がスキューバのライセンスを取ったのは6年前で、何かの雑誌で「障害者の方でもスキューバ・ダイビングができる」という記事が目に飛び込んできたのがきっかけです。もともと水泳はやっていて泳ぐのは好きなのですが、スキューバ・ダイビングとなるとライセンスを持っていなければダメだとか、車いす使用者だと余計に入っていけない世界なんじゃないかと思って諦めていました。ですから、その記事を見た時はこれだと思いました。

さっそくショップへ連絡をしていろいろお話を聞きました。ショップ名は「マリンハウスおきなわ」と言って、やはりバリアフリーを考えているお店でした。一概に障害をもっているといってもさまざまな障害がある訳で、その人がどういう障害があるのかということを踏まえたうえで、こういうところをサポートしてあげようとか、ここを手伝ってあげれば健常者と同じように自由に海中遊泳できますよという考え方のお店でした。

私がライセンスを取った6年前は、まだそういった考え方のお店は少なかったと思います。今ではバリアフリーの考え方が多方面に浸透してきていますので、沖縄のショップだけでなく、各地方のいろんなお店で障害をもっている方でもライセンスは取りやすくなってきているようです。

初めての海の中

ライセンスを取るには学科と実技の二つを学習していかなければなりません。と言っても、県や国が主催する免許みたいなものではなく、講習を受けて一定の基礎知識と、海の中での必要な動作ができれば各ダイビングショップでライセンスを取得できるのです。

学科は、テキストに添って何時間か講習を受けます。テキストのやり方もいろいろあって、ダイビングショップに行く何週間か前にテキストを事前に郵送してもらって自己学習をしておいて、当日ダイビングショップで試験的なものをし、理解しているかどうかを判断するやり方と、インストラクターからみっちり講習を受けて最後に試験的なものをするやり方とがあります。私はダイビングに興味はありましたが、いざ潜るとなると海の中の知識などは全くなかったので、インストラクターからきっちり教えてもらうほうを選択しました。でもその選択は、日中は実技で夕方ショップに戻り、夜講習を受けるというハードスケジュールでした。おかげで初めての3泊4日の沖縄旅行はほとんど観光なしというものになりました。

1日目は日中はプール実習で、普通のプールでウェットスーツの着方やダイビング器材の取り付け方などを教えてもらいました。私は握力がほとんどありませんので、器材の取り付けなども手伝ってもらいました。一式取り付けが終わるとレギュレーターを咥(くわ)えてプールの中で呼吸ができるかを試しました。そして水中を10メートルほど泳ぎました。普段プールで泳いでいるといっても、プールの底を息をしたまま泳ぐというのは、何か新しい発見のような気がしました。その後夕方にショップへ戻り、講習を受けました。

2日目はいよいよ海洋実習で船に乗り、港から40~50分ほどのダイビングポイントへ行きました。そこでハプニングがありました。船には強いと自負していた私が船酔いしてしまいました…。頭がくらくらして気分が悪くなりもうダメだと思っていたら、インストラクターは慣れたもので「大丈夫、大丈夫、全部胃の中のもの出しちゃって!」とあっけらかんと言うではないですか。言われたとおり海へ胃の中のものをほとんど出すと幾分ラクになりました。

そしてついに海中に潜る時がやってきました。器材のチェックをして一式装備し、レギュレーターを咥えて海中へドボ~ンと…。そこは地上の景色とは全くの別世界で神秘的なものを感じました。珊瑚礁の根が一面に広がっていて、そこを巣にして熱帯魚の群れがたくさん泳いでいました。初めてダイビングをした時、感動するという意味がわかりました。ほんとに自分も魚になったような感覚で優雅に海中を泳げるのです。地上のように平地な構造ではなく珊瑚で成り立った凹凸のある溝をゆっくり海中遊泳しながら進んで行くのは、まさに地上では味わえない楽しみ方だと思います。

しかしそう思えるようになるには、何回かダイビング本数をこなしてある程度の余裕が出てきてからの話です。海景を見るのは後回しで、まず砂地の海底でマスクを取ってまた付ける練習や、肩に背負っている重器材をすべて外してまた取り付ける練習などをします。重器材をすべて外すといっても呼吸はしないと死んでしまいますので、口に咥えているレギュレーターだけは絶対に外さないのでご心配なく。

ひとつ大事なことがありました。それは耳抜きです。海底に着くまで約10メートルあるとして、そこに行くまでにだいたい3メートル間隔で耳の鼓膜が引っ張られる感じがして強烈に痛くなってくるのです。それは深く潜って行くと、水圧で耳の鼓膜の神経が内側に押されるからです。それを解消するには鼻を摘まんで空気が外に逃げないようにして、思いっきり空気を充満させてやるのです。そうすると鼓膜の神経が元に押し戻されて痛くなくなります。これがだいたい3メートル間隔で痛くなってくるので、そのたびに耳抜きをして深く潜っていくのです。

最初に取得できるライセンスカードはCカードといって、潜ってもいい水深が18メートルまでと決まっています。そこはさすが沖縄だけあって透明度は抜群で、18メートルの水深でも海中ははっきり見えるし、太陽の光が眩しいくらいに入ってきますので、すごく明るくて快適でした。

それから海中遊泳を満喫しようとするなら中性浮力をマスターしなければなりません。私も最初は海底や珊瑚に掴まりながらインストラクターの後を付いて行きました。この中性浮力は、海底でBCジャケットに空気を少し入れて体が浮く状態にします。そしてゆっくり足ひれで進んで行き、海中遊泳を楽しむ訳です。私のように足の力がない人は、平泳ぎの状態で進んで行きます。最初は無駄な力が入っていて平泳ぎで進んで行くのはけっこう疲れるのですが、本数をこなしていくと無駄な力も抜けて快適に海中遊泳を楽しむことができます。でも海の中のうねりがあるところは、なかなか前に進まない時もあります。そういう時は無理せずにインストラクターに引っ張ってもらうほうが賢明です。

3日目は少し余裕ができて周りの海景や水中写真なども撮ってもらいました。そして3日目の夜、学科のテストがありました。テストといってもかしこまったものではなく、選択式の問題でこの3日間ほとんどマンツーマンで教えてもらっていたし、やはり自分の興味があるものは吸収しやすくてだいたい理解できていたと思います。おそらく学科テストで落ちる人はほとんどいないだろうと思いました。そして晴れてライセンスカードを受け取った時は、なんとも言えない達成感がありました。

現在の目標・楽しみ方

今では3年前に結婚し、妻にもスキューバライセンスを取ってもらい、夫婦そろって毎年沖縄へは1回、その他グアム・サイパンなどへ出かけています。

今の私の目標は水中写真を上手く撮ることです。水中ではやはり光が大事ですので、ライトがうまく当たってその対象物の色がはっきり出るかどうかがポイントです。問題は手ぶれです。水中では地上のような止まった動きがなかなか難しいので、特に足の力がない私には尚更…。どうしてもいいシャッターチャンスを逃がしがちです。それにシャッターボタンも水圧で少し硬くなっています。水中写真が撮りやすいポイントは、まず海のうねりがない落ち着いたところで、珊瑚や海底などで自分の体が動かないようにして、熱帯魚などの対象物をファインダーの真ん中で捉えるようにすることです。あまり泳ぎ回っている熱帯魚より一定の場所から離れない熱帯魚のほうが撮りやすいですね。そういう意味でもイソギンチャクを棲家(すみか)にしてそこからあまり離れないニモ(カクレクマノミ)なんかが人気です。

今から始めようと考えられている方へのアドバイス

こんな感じでダイビングはだれにでもできるスポーツだと思っています。ただお金がかかるのが辛いところですが…。障害をもっておられる方で今からダイビングを始めようと思っている人や興味をお持ちの方へアドバイスさせていただけるなら、スキューバ・ダイビングは船酔いと耳抜きさえクリアできればだれにでも楽しめるスポーツです。まずはお近くのダイビングショップか、インターネットでバリアフリーのダイビングショップを探してみてくださいね。

楽しい趣味がひとつ増えますよ!!

(しらいしよしまさ 兵庫県明石市在住)

●日本バリアフリーダイビング協会(沖縄)
 TEL 098―869―4957
 FAX 098―867―4034