「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年10月号
行政・学校・地域に要望し期待すること
一人ひとりの可能性を伸ばす教育を
全国重症心身障害児(者)を守る会
はじめに
当会は、昭和39年6月13日に創設しました。当時の国の福祉は、障害が重く社会復帰できないものには及びませんでした。私たちは「たとえどんなに障害が重くても真剣に生きているこの命を守ってほしい」と訴え、また「社会の一番弱いものを切り捨てることは、その次に弱いものが切り捨てられることになり、社会の幸せにつながらないのではないか」と訴え、理解を深める運動を行ってきました。
今日、このように、どんなに障害が重くても、一人ひとりに合った医療・福祉・教育が行われ、子どもたちのわずかながらも伸び、成長していく姿に親として大変感謝しています。
今後の特別支援教育の在り方について
平成15年3月に出された最終報告では、「障害の程度等に応じ特別の場で指導を行う『特殊教育』から、障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う『特別支援教育』への転換を図る」という考え方に基づき、1.「個別の教育支援計画」の作成、2.特別支援教育コーディネーターの配置、3.広域特別支援連携協議会等を各都道府県で設置・システム化、などさまざまな取り組みが進められています。
一人ひとりのニーズを正確に把握し、乳幼児期から学校卒業後まで一貫した教育的支援を行う、学校と関連機関が連携し、地域社会全体で支援していくなど、その内容は親にとって励みとなるものであり、大きな期待を寄せています。
当会では、一人ひとりのニーズに合わせて可能性を最大限に引き出す教育と、医療的ケア体制の整備が特に重要だと考えています。
5月に行われた中央教育審議会(第4回)のヒアリングでは、当会から北浦会長が出席し、次のような可能性を引き出すことに成功した二つの例を挙げ、意見を述べています。
当会の要望
(1)可能性を引き出す教育
ある施設で、外見上何の反応も示さない脳に重度の障害をもつ子どもに脳波の検査をしたところ、母親の声に反応を示す波形が見られました。今まで自分の存在さえわかってもらえてないのではないか、と不安を抱えて介護を続けてきた母親は、涙を流して喜び、それから、子どもに頻繁に声かけをし、身体をゆすって話しかけるようになりました。すると、何の表情も見せなかった子どもが4年ぶりに初めて笑顔を見せてくれるようになったという事例を紹介しました。
また、昨年11月に個展を開いた北浦尚氏は、生後7か月で種痘が原因で脳炎になり右半身まひ、寝たきりの重症心身障害となりました。24歳の時に都内の施設に入所し、職員の方々の熱心な療育によって40歳で寝返りを打てるようになりました。48歳の時、一人の指導員がおもちゃを転がしている彼の姿に「指が動かせるのではないか」と筆を渡したのがきっかけで、うつ伏せのまま唯一動かせる左手で筆を持ち、「なぐり描き」をするようになりました。「筆を放したら色を変えたい時」など職員の方が注意深くそのサインを読み取り、彼はその才能をぐんぐん伸ばし、ついに57歳で個展を開くことができました。当日会場には200人以上が訪れ、「心を揺さぶられ、生きる力をもらった」「無心、ひたむきさに感動した」など、多くの感想が寄せられました。
このようにどんなに障害の重い子どもであっても、必ず内に秘めた能力や力を持っています。その力が周囲の人々に大きな勇気や希望を与えることもあります。たとえ瞬き一つ、指一本であっても、発信しているサインを読み取ることによって、その潜在能力を引き出し、可能性を最大限に引き伸ばすことが真の教育ではないかと考えております。
(2)医療的ケアの充実を
障害の重い子どもが安心して安全な環境で学ぶためには、養護学校における医療的ケアの体制整備は欠かせません。
昨今、人工呼吸器や吸痰・吸引などの機器を使いながら在宅で頑張っている方も増えています。常時医療を必要とする子どもたちには、親が学校に待機しケアを行っていますが、その負担は厳しいものです。特に、介護の中心にある母親にとっては、学校から帰っても介護が続き、家族の世話、他の兄弟のことなど、休まる時がありません。また、親が病気の時は、学校を休ませなければなりません。親離れ・子離れ、本人の自立のためにも、親の付き添いなく学校に通うことが、子どもの成長につながります。
重い障害の子どもにとって、教育は教育だけでなく、福祉と医療が一緒になってはじめてできることです。
当会では、長く養護学校における医療的ケアの充実を訴えてきましたが、平成10年度から文部科学省では養護学校における医療的ケアに取り組み、厚生労働省と連携して事業が展開され、非常にうれしく感謝しております。
養護学校における看護師の配置、教員の専門性の強化、緊急時における対応や、医療・福祉関係者等とのネットワークづくりなど、さらなる体制の整備をお願いしたいと思います。