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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年10月号

行政・学校・地域に要望し期待すること

特別支援教育に望むこと

東京都知的障害者育成会

2003年3月に出された最終報告の基本的な理念「今までの養護学校や特殊学級の場による教育から、個々のニーズにあわせた特別な支援の教育への転換」は、時代や社会の動きに合った構造的な改革の取り組みとして高く評価できます。しかし、その内容がわかりにくく、今後の具体的な展望が見えないことから、私たち知的障害をもつ子の親たちの間には、不安や混乱がまだまだ多くあります。

特に、昨今の小泉内閣の三位一体改革に伴う義務教育費国庫負担金の削減などを目の当たりにしますと、理念はともかく、特別支援教育に向けての財源の確保など夢のまた夢と消えてしまうのでは、と思うのは悲観的過ぎるでしょうか。

文部科学省は、モデルケース事業など準備段階のことはさておき、実際の実施にあたっては、できるだけ各自治体の裁量に委ね、それぞれで創意工夫をしてほしいという考えです。教員数にしろ教育環境にしろ、今ある限られた資源を有効活用していこうというのです。地方自治体が独自の施策を進めることの重要性は理解しますが、この改革の推進に必要な基盤整備(多様な専門職の導入・教員の資質の向上・一般国民への理解啓発等)がまだまだ進んでいないなかでは、やはり国の財政的支援は不可欠であろうと思います。

さらに、この改革にあたっては、乳幼児期から卒後にわたる生涯を見通した支援のつながりのために、文部科学省は厚生労働省等関係機関との連携も図っていくとしていますが、地方自治体レベルになると依然として縦割り行政の枠はなかなか崩れないのが実情ではないでしょうか。掛け声倒れにならぬよう、現場の地方自治体は柔軟に迅速に取り組んでいっていただきたいと思います。

最終報告の内容に関しては、紙面の都合上、特に心配な点をいくつかあげておきます。

特別支援学校のセンター的機能について

今までも、養護学校と地域の小・中学校とは二元行政とも言われ交流学習すらおぼつかなかったところもあります。養護学校の持つ情報や専門性を地域へ開放し、理解促進を図るという理念は理解できても、現実にどのように通常学級や特別支援教室との関係を持つのか、その機能・役割や責任の所在が明らかにならなければ、ヘタをすると責任の譲り合いになる可能性もあります。今後の十分な検討が望まれます。

また、教育支援の地域での継続性を考えるときに、放課後や長期休暇中の子どもたちの活動の場を確保し地域の支援者を育てるという役割も、養護学校のセンター的機能の中に組み込んでいってほしいと思います。

コーディネーターの役割について

障害をもつ子どもにとって何が最適な教育かということを見極めるためには、まず何よりも、保護者がその子の障害特性を理解し適切な対応ができるようにならなくてはなりません。そのためには、コーディネーターの役割が非常に大きくなります。単に学校の中でその役割をだれかに振り分けるのではなく、各自治体が子どもが生まれた時点から、障害児を持つ親が普通の家族生活を営み、自信と愛情を持って子育てができるよう家族を支援し、障害児教育に関して専門的な助言をする仕組みをつくり、コーディネーターを配置する必要があると思います。

報告では、コーディネーターの役割と人材の確保が明確ではなく現実味に乏しく感じます。コーディネーターに権限を持たせ、処遇を手厚くしていくことを、今後、行政として実施していくなかで特に取り組んでいってほしいと思います。

特別支援教室について

今までは、障害のある子どもが、通常の学級へ通い地域で生きていくにはさまざまな困難が感じられ、それを乗り越えていくのは容易ではなく、「小規模で同じような仲間のいる安定した場所」で、「無理をすることなく自分らしさを存分に発揮できる」と感じて安心感を得ていた本人や保護者に対し、今回提示されている特別支援教室のあり方はあいまいで、職員配置なども不明で、まだまだ不安が多く納得できるものではありません。これもまた今後、モデルケースなどで十分に検証すべき点であると思われます。

通常学級の教員の理解について

教育というものは障害児かどうかには関係なく、本来、個別の一人ひとりのニーズに合ったものでなければならず、その意味でも今まで以上に一般の教員の資質と力量が問われてきます。教員とは、常に工夫を凝らし一人ひとりに合った教育を作り出していく創造力の必要な職業なのです。

障害のある子どもを特別な子どもととらえるのではなく、社会全体として心のバリアを取り払っていくことを肝に銘じてこれからの教育に取り組んでいってほしいものです。

(鷲頭(わしず)みち 東京都知的障害者育成会教育部会委員)