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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年10月号

行政・学校・地域に要望し期待すること

行政と学校および地域への要望と期待
―35年の教育行政活動から―

日本自閉症協会

教育を受けさせるために親の会を発足

昭和42年に日本自閉症協会を発足させた目的は、当時入学を許されない自閉症の児童が大多数でしたので、自閉症児のための学級作りから活動を始めました。そして通級制の「情緒障害学級」を設置することができ、重度の児童のために固定制学級もできました。

現在、その学級も養護学校全入が打ち出されてから、その学級から自閉症の児童は養護学校へ通学する数が増加してしまいました。

自閉症の児童の教育の専門性を求めて、情緒障害学級を設置して、対人関係や言葉の問題を抱えて、人生を送ることを改善するためには、地域の学校の中に良い環境を作り、クラスメートから人間として生きるリズムを取得させたかったのです。いわゆる現在叫ばれているノーマライゼーション(一人ひとりが人間として当たり前に生きる)の先取りをやってきたのです。

しかし今日「21世紀の特別支援教育の在り方」の理念の中の基本であるノーマライゼーションはいろいろの形があるでしょうが、障害者が差別されないためには、教育現場が今までと違った態勢や、環境を変えていかなければならないと、痛感いたしております。

しかし自治体の現場は、大変革を迫られて混乱することが想像されます。それをしっかりと指導するのが、文部科学省の指導力と、自治体を説得する熱意にかかっているものと確信しております。自閉症協会も文科省と手を携えて頑張っていきたいと思っております。

そのための法改正も文科省は始められておりますが、障害児の親として心から願うことは「法律は人間を守るものであって、人間をそれに合わせるものでない」ということを心から願っております。

地域社会の支援の受け皿をどう作るか

障害をもたない社会の方々が、障害者に対して同じ人間として受け止める心を多くの方々に持っていただくためには、幼児期からの療育、教育の時期に培っておかなければならないのだと思っております。障害をもたない児童も、もつ児童も教育の時期は、人間形成においての一番大切な「土台作り」の時期と考えております。この時こそ「肌と肌」を接するなかで、理解を持ってもらうことが大切な時期だと私の経験から申し上げたいのです。

今一番教育現場で欠けているものは何かと思うとき、友達を思いやる心と、自分に感謝する心だと考えます。障害をもつ児童が、一生懸命生きようとする姿と共に育ってこそ、精神面の豊かさが、感謝が生まれるのではないでしょうか。そのためには担任教師の暖かい指導力と、クラスを纏(まと)める愛情なくしては実現できません。教職員の資質の在り方の原点は、ここにあると思っております。

「個々のニーズに合った教育」とは、この原点がなくして、一人ひとりの児童の指導計画は成り立たないと思います。そして家庭で、子どもと共にある母親と担任との児童を中心に捉えた信頼関係が成り立たなければ、個々に合った正しい指導計画は、成り立たないと感じます。学校と家庭の状況をしっかりと融合して、創意工夫することを願うのみです。

また担任を支える学校全体の教員が一丸となり、話し合い、助け合うことも忘れてはなりません。

自閉症協会としての要望

  1. 自閉症の教育実践研究を行うモデルパイロット校を各都道府県に設置する
  2. 小中学校における特別支援教育の推進体制の整備
    • 通常学級での一人ひとりのニーズに応じた対応を願う
    • 通常学級での児童・生徒の障害理解の推進を願う
    • 特別支援教室の教員配置と全校開設を願う
  3. 教員の専門性と教員免許を特別支援学校の教員全員が保有すること
  4. 拡大版母子手帳(仮称)の実現を願う
  5. 個別の教育支援計画の作成にあたっては、保護者の参画を明確に規定してほしいと願っている

まとめとして

日本自閉症協会として文科省にこのような要望を提出しておりますが、ノーマライゼーションを実現させるためには、障害種別ではそれぞれの立場で異なる問題もあると思いますが、教育大改革の今、一丸となって協力体制をつくり、社会を変えて行く方向で努力すべきと思っております。それによって障害者が社会の一員として差別されずに、「人間として豊かに、幸せに、責任を持って生きて行ける」と思い、願うからです。

(須田初枝(すだはつえ) 日本自閉症協会副会長)