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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年10月号

行政・学校・地域に要望し期待すること

「障害は個性」と認め合う教育を

NPO法人えじそんくらぶ

特別支援教育の現状と課題

これまでの特殊教育では、重度の障害のある子の支援が中心で、学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、アスペルガー症候群を含む高機能自閉症は、教育現場では理解されず、単に「怠けている子、親の躾が悪い子」として、教育的支援は、ほとんど皆無でした。教育委員会や校長先生もその存在さえ知らず、「お母さんの気にしすぎです」とか「親のせいで子どもが不安定になっている」などと言われ、傷ついた親がたくさんいました。また逆に勉強熱心な現場の先生が、がんばっても親の理解が得られず、空回りしてしまうケースもありました。

特別支援教育の導入により、ADHDなど軽度発達障害がすべての教育関係者に理解され、生徒児童の特別なニーズに合った支援が有効に実施されることは多くの関係者の願いです。

しかし、待ち望んでいた親の期待を打ち砕くケースもあるのです。ある学校で、モデル校になり特別支援教育による加配がつきました。「特別な先生」がべったりこの子の横につき、クラスメートにも特別とわかる支援をすることになり、その加配の先生が来た日だけ、その子どもが学校に行くのが嫌になり、不登校になったのです。つまり「違うことをやる子」を受け入れられないクラスでは、子どもたちから、「さげすみ」や「やっかみ」のことばが出て、その子の居場所をなくしてしまうことがあるのです。同じクラスの生徒一人ひとりが、「私たちは、みんな違う存在であり、違いを受け入れ認め合う」という意識が最も重要であり、これこそが特別支援教育を成功させるキーポイントだと思います。

見えない障害への理解

よく、「障害なのか個性なのかわからない子はどうしたらいいのか」と聞かれますが、診断名のない子は、個性なので、学校生活で困っていても、そのままでいいのでしょうか。障害のある子だけではなく、いろいろな面で問題を抱えた子すべてに、関係者と連携し早期に対応し、二次的な問題防止につながる支援が理想と思います。

軽度発達障害は「見えない障害」です。そのため一件何の障害もないように見えることから来る、「周囲の無理解のことば」がうつや不登校、反抗的態度など二次的な問題が「見える障害」より深刻になることがあります。WHOが2001年に発表した、ICFの新しい障害のモデルから見るとこのような二次障害は環境因子により、「人為的に作られる障害」といえるのではないでしょうか。

一方で、ADHDなどをまったくご存じなくても、クラス内での生徒同士や先生との信頼関係がすでにでき、その子の特徴をよく見てくださって、適切な先生のご指導により、普通クラスでうまくいく場合もあります。

つまり、特に「特別支援教育」と大きな看板をつけなくても自然な形で支援する先生は古今東西いるところにはいるものです。社会には、いろいろな人がいて、助け合って生活しているわけですから、このバリアフリーの感覚を身につけるためにも、学校には「いろいろな子がいることが、自然」という感覚が大切であり、いろいろな子が普通学級で学ぶことが理想だと思います。

実際、アメリカでは、重度の脳性マヒで車いすでチューブでの食事、排せつをしている子どもが、普通教室では、障害のない生徒と共に学んでいます。しかし、日本では、「違っていると変」という差別意識が社会一般で根強いうえ、「障害者は別の施設」でという考え方が一般的であり、「障害者のためのバリアフリー政策」はハード、ソフトともに不十分です。そんな中では残念ながら「障害は個性」という感覚が持てないのが現状です。

障害は理解と支援で個性になる

この主旨は、「理解と支援がなければ、障害は障害以外のなにものでもない」ということです。器質的な障害があっても、理解と支援という環境因子があれば、活動制限や参加制約が少なくなり、そのとき「個性」になるのではないでしょうか。

それを実現させるためにも幼稚園や保育園の段階から違いを受け入れる「心のバリアフリー」の教育が必要と思われます。一斉授業ではなく、個に合った指導を通常クラスで実施するには、先生の意識改革とクラスの受け入れ態勢が重要なのです。「みんな違ってみんないい」ということばがありますが、このように、日本の学級でも「違い」を受け入れ、お互いを尊重する心が育成されることを心から願っています。

現在、特別支援教育の導入の試みの中で、賛否両論あります。しかし、今一度、障害とは何か、理想の教育、家庭、社会とは何か、日本人一人ひとりがじっくり考える機会になればと思っています。

(高山恵子(たかやまけいこ) NPO法人えじそんくらぶ代表)

●えじそんくらぶHP
 http://www.e-club.jp