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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年10月号

わがまちの障害者計画 東京都府中市

府中市長 野口忠直(のぐちただなお)氏に聞く
市民との協働により障害のある方の社会参加を促進!

聞き手:小野隆(おのたかし)
(日本障害者協議会事務局長、本誌編集委員)


地図

東京都府中市基礎データ

◆面積:29.34平方キロメートル
◆人口:237,571人(平成16年8月1日現在)
◆障害者の状況(平成16年4月1日現在)
身体障害者手帳所持者:6,115人
愛の手帳所持者:1,098人
精神障害者保健福祉手帳所持者:622人
◆府中市の概要:
府中市は、新都心新宿から西方に約22km、東京都のほぼ中央に位置する首都東京の近郊都市です。市内には企業の工場なども多く、また、府中駅周辺の再開発も進行中で、商工業がますます盛んになる一方、浅間山、けやき並木、多摩川などの自然や大国魂神社などの歴史文化財も多く残り、これらが調和したまちとして発展を続けています。他の自治体と同様に、少子・高齢社会への対応や循環型社会の構築などを課題としています。
◆問い合わせ:
府中市福祉保健部障害者福祉課
〒183-8703 東京都府中市宮西町2-24
TEL 042-335-4545 FAX 042-368-6126

▼福祉の地域化の流れの中で、府中市ではどのようにして、障害のある方を含む市民の方々と新しい施策を作る努力をされてきたのでしょうか。

本市は武蔵の国の中心でもあった歴史の古いところです。旧来からの住民と新しく高度経済成長期以降、人口が急増してきたこともあり、「地域」という概念からとらえますと、都市化の進行、家族形態や意識の変質等を抱えていてその中での福祉、障害者福祉問題に対応していくことが課題になっています。

一例をあげますと、この町には「大国魂神社」という伝統ある神社があり、毎年5月に大祭が行われます。「祭り」は大勢の市民が力を合わせなければできません。この「協働して事に当たる」という習慣が根付いているのではないかと思うのです。住民自治というと少し硬いですが、そういう気風があるのでしょう。障害者福祉に関しても行政が手を出す前に、障害のあるお子さんの父母が中心になって「作業所」づくりを自分たちの資金で立ち上げられて、それを市が後押ししていく、という経験もあります。現在では作業所が22か所ありますので財政支出も大変ですが、みんなで支えあっていくという考え方はこのようなところにあると思います。

新しい市民となってくる方々は、確かに私のようにこの土地で代々生活をしてきた者たちとは多少の考えの違いはありますが、府中市が作り上げてきた良い方法には理解をしていただくように努めております。もちろん行政は全市民のものですから、障害者福祉の問題でも見解の違いは十分に話し合いをしながら進めていくように心がけています。

▼具体的な障害者福祉の課題の中で最も大切なことは何だと考えられますか。

まず、障害のある方と一般の市民との交流やふれあいの場を十分に確保すること、そのためにはさまざまなバリアの除去こそが課題だと思います。バリアフリーには「心」と「物」における二つのバリアフリーがあると思いますが、「心のバリアフリー」は障害のある方に対する理解を進めること、さらにそこに新旧住民の融合を図り、協力しながら障害のある方と「事」に当たっていくことが大切だと思います。「物のバリアフリー」についても、交通アクセスや道路整備、住宅等民間の建物など問題が山積しており、解決のためには地道な努力と多くの方々の協力が不可欠であると思います。

具体的には、府中市福祉計画(障害者福祉分野)では、バリア除去のために、次の4本の柱を立てています。1.「利用者本位のサービスの実現のために」、2.「安心して暮らしつづけるために」、3.「地域で支える福祉をめざして」、4.「ともに歩む地域をめざして」です。

▼これら4つの柱は、それぞれどのような課題を含み解決に向けて取り組んでおられるのでしょうか。

一つ目の柱の中心としては、利用される障害のある方に配慮した「相談体制」の拡充があげられます。社会福祉協議会のふれあい福祉総合相談のほか、地域生活支援センターは、心身障害のある方を対象に2か所、精神障害のある方には1か所あり、これらの施設については、それぞれ社会福祉法人に運営を委託しています。

また、昨年の支援費制度導入により、基本的には「措置」から「契約」への転換が行われました。利用者と業者の立場が明確にされたわけです。本市としては、利用者と業者との間でわかりやすい情報の提供を行うこと、併せてトラブルにも対応できる体制づくりが必要と感じています。これには地域生活支援センターにあたっていただいておりますが、その利用者数も増加してきておりますので、今後この業務の役割は大切になってくると思います。

二つ目の柱では、地域で安心して暮らしていくための条件として、安定した生活の維持が必要となります。年金だけで生活をすることは難しいので、「働く場」の問題は避けられないものです。そこで就労支援を大きな課題と考えています。本市には養護学校が3校あり、毎年卒業生の進路が課題になっています。現在の景気状況の下で解決を図ることは、一地方自治体の問題を超えています。さらに、精神障害のある方の社会的入院を解消し、地域で生活する方向が打ち出されています。これらの方々の「働く場」をどうするのか、いわゆる「受け皿」づくりも緊急の課題になってきています。

来年、職場への適応を支援するジョブコーチを導入することを検討しているところです。将来的には、都立の生活実習所の民間移譲を受けて、就労支援的な場所として活用し、作業所と連携していく構想も考えているところです。

三つ目の柱は、既存の地域生活支援センターを中心とするサービスに加えて、新規事業として、「見守りネットワーク」システムの構築を考えています。現在の障害者福祉サービスで救い上げられていない方々、たとえば単身で生活している障害のある方で、介護保険制度も利用されていないし、近隣の人たちとも交流がない。こういう生活実態がよくわからない方で、支援を必要とされている方に対しての災害や不測の事態が生じたときの支援策についてです。身体障害のある方などの場合、緊急通報システムを利用できる方はよいのですが、孤立した生活をしている方に対する新しいシステムを考えています。生活地域で近隣の方の協力を得ながら、行政が後押しをしていく。郵便配達や新聞配達などの方にも協力をしていただき情報を得ることなども検討しています。さりげない市民の協力をいただきながら、地域で支えあうシステムを作りたいと思っています。

四つ目の柱は、ノーマライゼーション=共生社会の創生ということが言われていますが、なかなか難しい問題でもあります。物心両面のバリアの除去については、まず「物のバリアフリー」の面では、本市では「福祉のまちづくり条例」に基づく環境整備を進めています。その中では、市民参加の協議会を設け、道路の段差や勾配、点字ブロックなどの細かい整備基準まで協議をしていただき、改良を進めています。そして「心のバリアフリー」の面では、障害のある方が社会に出て行く機会を作り、一般市民の方々との交流を図り、お互いに知りあうことが大切です。それぞれの地域でのイベントを開催したり、お祭のような行事にも障害のある方に参加していただく、見物しやすいような計らいをすることも必要です。同じ社会に住んでいる者同士なのだから、付き合うことも知ることも必要ですし、そうすればボランティアも自然発生してくるでしょうし、先程お話しました「見守りネット」にも発展していくことでしょう。

▼どこの市町村でもいろいろな方法で取り組んでいることと思いますが、府中市ならではというセールスポイントはどういう点でしょうか。

市民の考えを優先し、それを行政が応援する。もちろんそこに障害のある方にも積極的に参加していただく。先ほど申し上げましたが、養護学校の父母会が行政に先駆けて作業所作りなどを進めてこられたことなどが行政にうまく生かされているように思います。市民の考えることや要求を出発点とすること、市民や障害者団体と行政の信頼関係ができているので、今後もうまくいくという思いがあります。

本市では、高齢者、障害者問題など地域福祉各分野の分科会を作り、福祉問題全体の中で障害者問題を取り上げてきました。福祉計画立案のための場として、「地域福祉計画等検討協議会」をつくり、当事者の団体の方、関係機関の方など30人ほどの委員の方々と約2年間かけてじっくり検討しました。これが本市のセールスポイントといえると思います。

▼これからの障害者施策をどう展開していこうとお考えですか。

今後は、市民の力を大切に育てていくことが重要と考えています。NPO法人化への協力も力を入れていきたいことです。「市民が主役」、これはすべてのことに言えることですが、特に福祉問題に関して、この言葉は忘れてはいけないでしょう。

住民を大切にするということは、いわば「地域性」を重視することです。グローバリゼーション日本版ともいう形で、全国各地で同じような「障害者計画」が策定されることは好ましいことではありません。行政主導・中央主導ではなく、障害のある方を含めた市民参加による地域に合った計画作りが重要です。そうでないといくら立派な計画でも実ることは難しいと思います。

▼府中市では、「市民との協働により障害のある方の社会参加を促進」をスローガンに掲げて、計画の実現を果たしつつあります。本日はどうもありがとうございました。

府中市の障害者施策(府中市福祉計画の障害者福祉体系 参照)

体系区分 主な施策(定式化したもの)
情報提供体制の充実
  • 地域生活支援センターでの各種講座、勉強会
  • パソコン購入費用の助成
  • 手話通訳者の派遣
相談体制の整備
  • 地域生活支援センター(ピアカウンセリング)
  • 身体・知的障害者相談員
障害者の参加の促進
  • 障害者福祉団体への助成
  • 地域生活支援センターなどでのフリースペース貸出
保健・医療・リハビリテーション体制の強化
  • 児童デイサービス事業による療育(支援費、市立心身障害者福祉センター)
  • 医療費助成
  • 身体障害者の機能訓練(市立心身障害者福祉センター)
在宅サービスの充実
  • 心身障害者(児)ホームヘルプサービス(支援費)
  • 精神障害者ホームヘルプサービス
  • 知的障害者等ガイドヘルパー派遣(支援費)
  • 心身障害者デイサービス(支援費、市立心身障害者福祉センター、身体障害者デイサービスセンターなごみなど)
  • 補装具、生活用具などの給付と助成
  • 福祉タクシー(タクシー料金の助成)
  • 心身障害者緊急一時保護・レスパイト事業(支援費)
学習機会の拡大
  • 地域生活支援センターなどによるパソコン講習会
  • 障害者プール開放
就労支援体制の整備
  • 知的障害者雇用事業、障害者授産施設、小規模作業所等への支援
経済的支援体制の強化
  • 各種手当、年金
住環境の整備
  • 知的障害者グループホーム(支援費)
  • 精神障害者グループホーム
  • 知的障害者援護施設、身体障害者療護施設(入所施設)
  • 心身障害者住宅費の助成
  • 重度身体障害者(児)住宅設備改造費の給付
支えあいのネットワークの推進
  • 地域生活支援センターを中心とした生活支援体制の充実、地域交流
障害者への理解啓発の促進
  • WaiWaiまつり(障害者の日記念事業)
  • 心の健康フェスティバル
  • 福祉まつり(ふれあい文化祭)
  • 障害者軽スポーツ大会