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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年11月号

提言

精神保健福祉法見直しにあたり精神障害者本人の求めること

全国「精神病」者集団

私たち全国「精神病」者集団は1974年の結成以来精神衛生法撤廃を掲げ、一切の強制入院・強制医療制度の撤廃を訴えてきた。強制の撤廃は世界の精神障害者の願いであり、そうした要求は国連障害者権利条約制定過程において、作業部会草案に反映され、草案では強制入院・強制医療が拷問として禁止される文言が明記されたことは歴史的勝利である。

国内においても日本障害フォーラム(JDF)準備会の権利条約への要望として、強制入院・強制医療の撤廃が文章化されたことは、今までにない障害種別を越え、そして当事者団体、支援者団体、家族団体の立場を越えた団結として特記されるべきことである。

精神保健福祉法見直しにあたってまず私たちの主張は、この法の撤廃、そして世界一の精神障害者隔離収容の実態を解決するための時限立法としての「精神障害者復権法」の制定(注)、そして全障害者を統合した障害者福祉法と障害者差別禁止法・権利法の制定である。さらには精神障害者のみを差別的に予防拘禁する心神喪失者等医療観察法の白紙撤回である。心神喪失者等医療観察法については、国際障害者同盟もその施行に反対する手紙を首相と厚生労働大臣、法務大臣に出しているところであり、国際的にもこの法律の行方が注目されている。

しかしながら即精神保健福祉法の撤廃が不可能であるとしたら、即時に改革されるべきこととして以下を述べる。

(1)精神保健福祉法の対象者として入院中の者については公費で弁護士をつけること。

(2)私たちは一切の閉鎖処遇・隔離・身体拘束を否定し、すべての精神病院において出入り自由になることを要求する。

しかし即それが困難であれば、以下を求める。

  1. 保護室収容および身体拘束の際は、24時間最低1人の看護が寄り添う、一対一の看護を法定化すること
  2. 閉鎖処遇・保護室監禁に際しては、国連被拘禁者処遇の最低基準である、1日1回1時間の屋外運動を保障すること。

〈国連被拘禁者最低基準規則第21条(1)〉

屋外作業に従事しない被拘禁者は、天候が許す限り毎日少なくとも1時間、適当な屋外運動を行うものとする。この基準はほとんどすべての精神病院閉鎖病棟で守られていない。重大な人権侵害が日常化し、こうした処遇は日本政府も批准した拷問禁止条約にも違反していると言わなければならない。

〈拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約第1条〉

この条約の適用上、「拷問」とは、身体的なものであるか精神的なものであるかを問わず人に重い苦痛を故意に与える行為であって、本人若しくは第三者から報告若しくは自白を得ること、本人若しくは第三者が行ったか若しくはその疑いがある行為について本人を罰すること、本人若しくは第三者を脅迫し若しくは強要することその他これらに類することを目的として又は何らかの差別に基づく理由によって、かつ、公務員その他の公的資格で行動する者により又はその扇動により若しくはその同意若しくは黙認の下に行われるものをいう。「拷問」には、合法的な制裁の限りで苦痛が生ずること又は合法的な制裁に固有の若しくは付随する苦痛を与えることを含まない。

さらに病棟近代化予算等の施設基準において、鉄格子をはずし強化ガラスの窓とする条件をつけたことが、この問題をさらに深刻にしている。少ししか開かない窓のために換気が悪く、療養環境としては重大な問題が生じている。医療上の観点から言っても、ナイチンゲールの『看護覚書』を引くまでもなく換気は重要な問題であり、調査と問題解決が必要だ。

病棟の改善も必要だが、それ以前に保護室・閉鎖病棟の処遇基準において、被拘禁者の最低基準だけは守るよう即急に改革を求める。

(3)精神病院入院患者に現金所持の権利を認め、現金とりあげを行わないこと。そのための設備や支援の保障をすること。なお本人の希望により現金預かりをする場合があったとしても、現金管理料の自己負担が生じないようにすること。多くの精神病院で、生活保護の日用品費2万円ほどからあるいはそれすら取れない入院患者から、月3千円から6千円の管理料が徴収されている。家族が1万円を入れても本人の手元には4千円しか渡らないという理不尽な徴収がされており、即急に解決されるべきである。

(4)入院手続きの一環としての顔写真撮影を禁止すること。いまだ病状悪化を招くこうした慣行が横行している事態を即刻禁止すべきである。

(5)私たちに対する所得保障や介護保障のない中で、代替の医療保障が準備されないままの32条の通院医療費制度の制限ないしは撤廃をしないこと。

(6)障害年金のみで生活が成り立つように、年金額を設定し最低限の所得保障を位置づけること。さらに無年金者についても同額の所得保障をすること。

(7)私たち精神障害者の求める介護を地域で生きる権利として保障すること。

(8)病院地域を通して、私たち精神障害者の権利主張を支えるために、患者の権利擁護官あるいは障害者権利擁護官制度を確立すること。

(注)精神障害者復権法は、精神障害者本人である故久良木幹夫氏の提言されたもので、その基本理念は以下のサイトに掲載中である。http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Ocean/1255/plan.html

(長野英子(ながのえいこ) 全国「精神病」者集団会員)