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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年11月号

提言

転換点にある精神障害者施策の行方と法改正

全国精神障害者社会復帰施設協会

1 障害者施策一本化への動き

障害者施策は社会福祉基礎構造改革の流れの中で、措置から契約へと制度変更がなされてきました。立ち遅れている精神障害者施策も、措置制度改変の流れの中で他の障害者施策と同様の施策体系化が図られることを願っていましたが、基礎構造改革は措置制度の改革であり、その対象は身体障害と知的障害であるとされ、精神障害者施策はノーマライゼーション理念にそぐわない形で、他の障害者施策と区分されてきたのです。

ところが、措置から契約へと制度改革を行った身体、知的障害の新たな制度基盤である支援費制度が、発足後間もなく行き詰まるといった問題に直面しました。並行して精神障害者施策の在り方が議論されてきましたが、精神障害者施策もまた、その制度を支える補助金が三位一体改革によって不安定なものになりつつありました。その象徴的出来事が社会復帰施設の整備大量不採択問題でした。新障害者プランがスタートした年のことであり、だれもが予想だにしない出来事であり、精神障害者施策の今後に暗雲をもたらしました。

こうした状況にあって、国は障害者施策の全面的見直しを図らざるを得なく、基本法による理念の実体化を担保する新たな財源確保を視野に入れながら、制度設計の改革に取り組むことになりました。社会保障審議会障害者部会(以下部会と略記)も、支援費対象の身体、知的の分会と精神障害の分会に分けて議論してきた施策の方向性を一体化し、障害者施策の統合と再編を目途に、本来の部会機能である三障害合同の議論の場に、その論議を委ねました。このことによって、ようやく精神障害者施策が他の障害者施策と同じ土俵で語れる条件が整ったと言えます。

2 施策の進展を願い、介護保険活用に賛意

そこで、当面語られたのが持続可能な制度の模索でした。このことを裏付ける財源確保は避けて通れない課題です。その財源確保を図る選択肢の一つとして介護保険が浮上しました。財源は障害者福祉の理念に触れるものですから、当然のようにさまざまな意見が飛び交いましたが、その大半は介護保険の活用や統合に懸念を示すものでした。その中で精神障害者を支える施設を運営する私たちの団体(全国精神障害者社会復帰施設協会)だけが、介護保険の導入に賛成しました。それは以下の理由によるものです。

本来、障害者施策は生存権の保障と連動する事柄ですから、公的責任においてその支援が講じられるものです。ですから身体、知的の基本的施策は義務的経費によって賄われています。ところが、精神障害者施策は不安定な補助金という裁量経費によって賄われているのです。この現状を打破し、精神障害者施策の財源を他障害と同様に義務的経費にしたいと願ってきました。その選択肢の一つが介護保険でした。

ともあれ精神障害者施策を持続可能な制度にするための足掛かりを得ない限り、精神障害をもつ人々が、地域で普通に暮らせるために必要としている施設(社会資源)が消滅していくことさえあり得るという危機感からであり、そうした事態の発生ないし発生予測が生じることは、施設利用を望む精神障害者ニーズを無視することになると考えたからです。

3 今後の障害保健福祉施策と精神保健福祉法改正

こうした状況を改善し進展させる方策が、平成16年10月の部会に示された「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン)」です。筆者はこのグランドデザインを見て、大きな感慨を覚えました。それは身体、知的、精神の三障害を統合した「障害福祉サービス法(案)」が示されたことです。このことによって、精神障害者施策もようやく他障害者施策と同様の施策が実態化され、財源も同様の基盤で賄われるようになるといったことは、これまで夢のようなものでした。ぜひともこのグランドデザインが実現してほしいと願ってやまないものです。そのうえで、以下に精神保健福祉法の改正に向けた主要な論点をあげておくことにします。

1.グランドデザインに示された「障害福祉サービス法」の制定に向けて、精神保健福祉法との整合性が図れるようにしていただくことです。その主眼は医療・保健施策と福祉施策の分離と連携に関わることでしょう。具体的には、精神科医療が持つさまざまな機能を明確にし、その利用ゴールを示しながら、福祉施策につなげられるといった事柄です。

2.保健と福祉、医療と福祉などといった関係を円滑なものにするため、精神障害者を地域住民の一人として遇し、地域住民が抱える医療・保健・福祉ニーズに応えられるシステムを構築することです。それは市町村の役割を強化し、市町村による精神障害者福祉計画の義務化をはじめとした市町村責任の明確化を図ることです。

3.自立支援を推し進めるには、法でいう「精神障害者」の定義を見直す必要があります。それは「保護者規定」と連動するものです。

こうした見直しを軸にしながら、制度改正に関わる基本的視点に示された、障害者による自己実現・社会貢献を図れる制度へと移行することが可能な基盤整備が待たれていると言えます。

(新保祐元(しんぽゆうげん) 社会福祉法人全国精神障害者社会復帰施設協会理事長、東京成徳大学教授)