音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年11月号

提言

精神保健福祉法改正にあたって
―基本問題への提言―

日本精神保健福祉士協会

今般の「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下「法律」)の改正は「定時改正」であるとともに、当該法律を含めた「障害保健福祉関連法改正」という大きな流れの中にあります。

厚生労働省が提示した「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」では、(1)障害保健福祉施策の総合化、(2)自立支援型システムの転換、(3)制度の持続可能性の確保の三点を基本的視点に、改革の具体策のひとつとして、身体・知的・精神障害の福祉サービスに係る共通部分を総合化する「障害福祉サービス法(仮称)」を次期通常国会に提出するとしています。

一方、精神障害固有の問題については、「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(9月2日)に基づき、「入院医療中心から地域生活中心へ」の改革を進めるため、精神保健福祉対策本部中間報告(2003年5月)に基づく3検討会(※)の最終まとめを踏まえ、(1)国民の理解の深化、(2)精神医療の改革、(3)地域生活支援の強化を今後10年間で進めるとし、法律改正をはじめとする施策群の実施につなげるとしています。

さらに、三位一体改革による財源問題等を背景に、障害保健福祉施策と介護保険制度との関係についても別途検討が進められています。

こうした政策動向を見据えつつ、ここでは現行法が抱える基本問題に絞って指摘し、改正の方向性を提言します。

なお、本稿執筆時において、組織的な提言(要望等)は最終的な詰めの段階にあることから、私見であることをご承知おきください。

■基本問題と改正の方向性

身体及び知的障害は個別の福祉法のもと、各種福祉サービスが提供されていますが、精神保健福祉法は、医療・保護、保健、福祉に関わる条項が並立した体系であり、むしろ現行法が成立するまでの変遷から見ますと、福祉に関わる条項は「付加的」と言わざるを得ません。

「自立」や「地域生活」等を支える基盤整備には、本格的な福祉法制が必要であり、「医療」と「福祉」を切り離して、福祉に関わる新たな法整備を図ることが最大の課題であると考えています。その際、法体系の選択肢が厚生労働省の示す「障害福祉サービス法(仮称)」となるのかどうか、今後の法案作成作業を注視しなければなりません。

一方、医療については、精神障害に特化した固有の法体系としないで、一般の医療施策への統合をめざす時期ではないでしょうか。特に「精神科特例」を早期に改め、救急医療体制の整備を含めた通院医療主体の精神科医療への移行が可能となる診療報酬体系の確立が求められます。医療と福祉の法体系を切り離すことは、双方の関係性を絶つということではなく、むしろ各々の分野を尊重しながら、現場においては緊密な連携が必要であることはいうまでもありません。その連携においては、精神医療・保健・福祉分野に携わる精神保健福祉士が有効な職種として果たすべき任も重要と考えます。

■「精神障害者」の定義

当該法律第五条では、「精神障害者」を「精神分裂病、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者」と定義しています。つまり、この法律では「精神障害者=精神疾患のある患者(persons with mentally disordered)」になります。一方、障害者基本法第二条では、「障害者」とは「身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」と定義し、障害者(persons with disability)としての「精神障害者」としています。

精神障害者は、疾病と障害を併せ持ち、それらは相互に影響しあう特性がありますが、医療・保健施策(治療等)と福祉施策(生活支援や就労支援等)の法体系を含む精神障害者の政策分化を進める中で、「精神障害者」の定義の二重構造は、明確な整理をする必要があります。なお、現行の用語問題として、まず「精神分裂病」は「統合失調症」に変更すべきです。

■個別条項の改正点

その他、改正すべき個別条項について、現行法の条項を併せて列挙します。

1.市町村へのサービス実施主体の完全移譲と責任の明確化(第二条関係)。2.精神医療審査会の第三者機関としての独立及び委員構成の見直し(精神障害者及び精神保健福祉士の参加規定の導入)(第十二条~第十五条関係)。3.「保護者」規定の見直し(廃止を含め)(第二十条~第二十二条関係)。4.医療保護入院制度の見直し(廃止を含め)(第三十三条、第三十四条関係)。5.精神保健福祉センター及び保健所への精神保健福祉相談員の専従配置の義務付け(第四十八条関係)。6.「社会復帰施設」の名称変更(「未社会復帰者」のニュアンスからの脱却)(第五十条関係)。

■最後に

当該法律改正を含んだ障害保健福祉施策の一大改革が、「財源問題」を抱えながらも、決して矮小化することなく、精神障害者が他の国民と同等に、一人の生活者として人権が尊重され、自立生活が可能となるような環境作りに向けた支援体制の確立につながらなければなりません。限られた時間の中での法律改正作業や国会での審議過程等において、私たち精神保健・医療・福祉に関わる多くの関係団体が連携し、真の改革がなされるよう、早急な共同行動が必要であると考えています。

(※)心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会、精神病床等に関する検討会、精神障害者の地域生活支援の在り方に関する検討会

(坪松真吾(つぼまつしんご) 社団法人日本精神保健福祉士協会事務局長)