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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年11月号

わがまちの障害者計画 大阪府八尾市

八尾市長 柴谷光謹(しばたにみつなり)氏に聞く
市民参画で「ともに創るノーマライゼーション社会」を実現

聞き手:成田(なりた)すみれ
(横浜市総合リハビリテーションセンター福祉部職能訓練課長、本誌編集委員)


地図

大阪府八尾市基礎データ

◆面積:41.71平方キロメートル
◆人口:274,676人(平成16年9月1日現在)
◆障害者の状況(平成16年3月末日現在)
身体障害者手帳保有者 9,058人
(知的障害)療育手帳保有者 1,354人
精神障害者保健福祉手帳保有者 774人
◆八尾市の概況:
大阪府の中央部の東寄りに位置し、西は大阪市に、北は東大阪市に、南は大和川を境として松原・藤井寺の両市と東南部の柏原市に、東は生駒山脈を境にして奈良県に接している。聖徳太子や弓削道鏡のゆかりの地として、また河内音頭の本場として知られる。大阪都心部から20キロメートル圏内の「住工商農都市」。地理的に恵まれ、産業が発達し、府内屈指の工業都市である。
◆問い合わせ:
八尾市保健福祉部障害福祉課
〒581-0003 八尾市本町1-1-1
TEL 0729-24-3838 FAX 0729-22-4900

▼平成15年5月に策定された「八尾市障害者基本計画―ふれあいプラン―」についてお聞かせください。

本市では、平成10年(1998年)4月に第1次「八尾市障害者基本計画~ふれあいプラン~」を策定し、障害者のニーズに対応した施策や事業を推進してきました。

この間において、障害者福祉のニーズの多様化・高度化が進み、利用者自らがサービスを選択する支援費制度の導入、また市民団体、NPO法人あるいはボランティア団体等による支援活動の場が拡大するなど、障害者を取り巻く社会情勢も大きく変化してきました。こうした状況を踏まえ、今回のふれあいプランは、平成15年度(2003年)から19年度(2007年度)までの5年間における後継計画として策定しました。

本計画では1.基本的人権に基づく社会づくり、2.リハビリテーション思想に基づく障害者の主体性と自立性を尊重する社会づくり、3.ノーマライゼーション思想に基づく共に生きる社会づくり、4.バリアフリーの考えに基づく全ての人が住みよい社会づくりを目標に、市民、関係機関、行政がそれぞれの役割を果たし、お互いを尊重しあう市民参加の取り組みを通じて、引き続き障害者施策を推進し、「ともに創るノーマライゼーション社会」の実現を目標としています。

八尾市障害者基本計画概要

施策分野 施策 内容
1.住まう 1-1 在宅支援サービス充実
1-2 グループホームの整備
1-3 住環境の整備
1-4 障害者防災対策の充実
障害者の在宅生活支援や防災など、まちづくりにおける安全性の確保を図る施策です。
2.働く・はげむ 2-1 一般雇用の促進
2-2 多様な働く場の確保
2-3 働くことへの支援
障害者の自立につながる就労を支援する施策です。
3.学ぶ 3-1 学校教育の充実
3-2 生涯学習の充実
3-3 啓発・広報活動の充実
障害児・者の学ぶ場や機会をつくるとともに、自己実現の一つとして、学校教育や生涯学習の充実を図る施策です。
4.遊ぶ・つきあう 4-1 交流の促進
4-2 文化・レクリエーション・スポーツ活動の促進
4-3 ボランティア活動の推進
障害者の余暇活動や自己実現の充実を図る施策です。
5.出かける 5-1 コミュニケーション手段の確保
5-2 移動手段の整備
5-3 建築物の整備
5-4 公共交通機関などの整備
社会参加に伴う障害者の外出を支援する施策です。
6.健やかに生きる 6-1 保育・療育の推進
6-2 保健サービスの充実
6-3 医療サービスの充実
障害児・者の健康づくりを支援する施策です。
7.知る・参加する 7-1 情報サービスの提供
7-2 相談サービスの充実
7-3 推進体制の整備
本人がサービス利用を選択するための情報提供や、相談の充実に関する施策です。また、施策の実施段階で障害者をはじめとする市民参加に関わる施策です。

▼この基本計画は市民参加型で作られたと聞いております。障害当事者およびその家族などの参画もあったのでしょうか。また、身体障害者だけでなく、知的や精神障害の方々の参画はどのように行われましたか。

基本理念や「ともに創るノーマライゼーション社会の実現」の考え方を軸に、計画づくりや実施過程における協働の取り組みとして、施策推進でのあらゆる段階へ障害者や介助者、ボランティアなどを核とした市民参画を図る点が本市の計画の大きな特徴です。

計画策定時の具体的な取り組みは、障害者を中心に構成するワークショップの開催、ワークショップ参加者による事業提案をするための市民ミニフォーラムの開催、さらにそこでの意見や提案を施策や事業実施に反映させる仕組みです。ワークショップのメンバーは、三障害の当事者、家族、支援関係者およびボランティアなど50名です。

▼ワークショップについて、もう少し詳しくお聞かせください。

ワークショップでは、まず障害者や介助者、ボランティアなどの参加者が“顔が見える”関係をつくることから始まり、そのうえで参加者の生活ニーズや意識の違いなどについて意見交換し、理解や共有化を図りました。そして障害種別や個々の生活上の問題点の整理と議論を経て、協働の視点で施策への具体的な関わりとして事業提案を検討、まとめていきました。5か月間、月1回土曜日の半日を利用して行いました。

参加者個々人にとっては毎回が学びの場、新たな人との出会いや人的ネットワークを深めていく機会となり、楽しい経験でもありました。

事業提案については、公民協働の視点の下、課題の解決策について、自分たちができること、だれか(団体)と協力してできること、行政と共にできることの三点から内容の検討を図りました。最終的に提案は施策推進協議会や障害者フォーラムの場を経て、計画へと反映させました。このように、市民の意見が施策に結びついた結果、計画に対する市民の関心が高まり、計画の進行管理に市民の参加を得る契機となったことを振り返ると、障害者を中心とした参加者の力を育み、引き出すことになったこれらの取り組みは、重要なことだと考えます。

表1 ワークショップの経過

回/日時 獲得目標 内容 ポイント
第1回
7/27(土)
10:00-12:30
ワークショップの理解
現状と問題点の共有
  1. ワークショップの流れ説明
  2. ミニ講演会
  3. 団体の活動報告
  4. 直面している問題点について意見交換
顔なじみの関係づくりを図る
第2回
8/31(土)
2:00-4:30
市の社会資源等について学習する 八尾市の障害者福祉の現状と課題について学習 八尾市の障害者福祉の学習会
事業提案について宿題を出す
第3回
9/21(土)
10:00-12:30
事業提案について発表し、相互理解を深める
  1. 事業提案について発表
    障害者基本計画に盛り込む施策や事業
  2. 提案内容について意見交換
協働の視点で提案書をまとめる
  • 市民がすること
  • 団体と協力すること
  • 行政がすること
  • 実施のスケジュール
ワークショップの成果や今後の取り組みについて確認する
第4回
10/5(土)
10:00-12:30
事業提案をまとめる
  1. 協働の視点で事業提案をまとめる
  2. 班で共有する
第5回
12/21(土)
10:00-12:30
ワークショップのまとめ
今後の取り組みについて
  1. ワークショップの成果や今後の取り組みについて確認する
  2. フォーラムの事業提案発表の準備をする

▼市長さんが大切にしていらっしゃる“市民参画”“施策に市民の目線をきちんと入れていく”ことの実現でもありますね。

そうです。市民参画は障害者施策のみならず産業振興、介護保険や高齢者保健福祉、地域福祉など市政の計画すべてにおいて実施すべきことと考え、実際、各種施策立案段階で行っています。これには市の施策に関心を持つ市民も多く、参加希望者も増えている背景もあります。本市では常に市民の感覚や市民の目線を大切にし、市政のさまざまな場面において市民の参画や参加を尊重し、施策や市民サービスを進めています。

▼最後に計画策定での苦労や、現状、今後の課題などについて少しお聞かせください。

計画づくりは、平成14年度1年間という短期間で協議会、ワークショップ、障害者フォーラムなどを次々と行っていくというハードなものでした。

ワークショップ実施にあたり、参加者に対し、市民と行政の協働の視点に立った議論をお願いしてきましたが、最初はなかなか受け入れられていないようでした。回を重ねていくうちに参加者同士の理解だけでなく、協働の事業展開の大切さが理解され、市民と行政の距離が縮まったのではないかと考えます。

その後の市民参画の取り組みは、平成14年度のワークショップを受け継ぐ形で15年度には計画の進行管理を行うためのワーキング会議を協議会の下部組織として立ち上げて、4回実施し、事業提案を出してもらいました。ワーキング会議は、単にメンバーが意見を述べるだけでなく、次回会議での課題を宿題としてあらかじめ調べるなど、刺激的な会合となっています。

さらに16年度は、多くの市民に議論の場を開くため、ワーキング会議のメンバーを公募し、現在、24名の参加者で市民の目線からの事業の評価やワーキング会議が中心となって実施できる事業についての議論が行われています。

今後の課題として、ワーキング会議で話し合われた議論の内容を協議会へしっかりつなぎ、施策推進に活かせる体制の整備を進めていきたいと思います。

図1 計画検討関係組織図
図

▼今回の取材を通して、八尾市での市民参画による障害者計画策定は、「ともに創るノーマライゼーション社会の実現」への具体的で実証的な取り組みでもあると思います。

市民の目線、市民参加や市民参画を尊重する同市の姿勢から、今後も障害者施策のより一層の推進を進めていくことができる土壌をしっかりと実感しました。ありがとうございました。