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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年11月号

ワールドナウ

びわこミレニアム・フレームワーク
―モニタリングに関する地域ワークショップから

高田英一

ワークショップの概要

びわこミレニアム・フレームワーク(BMF)とは、2002年10月に滋賀県大津市のハイレベル政府間会合で新しい十年の政策ガイドラインとして採択した「アジア太平洋障害者のための、インクルーシブでバリアフリーな、かつ人権に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」のことです。

BMFはそのパラグラフ60で、ESCAP総会決議58/4(2002年5月22日)は、ESCAP事務局長に対し、「アジア太平洋障害者の十年」の終了までの2年ごとに、その実施の進捗状況に関する報告書をESCAP総会に提出することを求めるとしています。

そのためESCAPは達成状況の評価とBMFの実施に必要な行動を確認するため2年ごとに会合を開催し、この会合には政府省庁、NGO、障害者の自助団体及びメディアによって構成される各国の障害者問題国内調整委員会の代表が招かれ、国及び地方レベルでのBMFの実施状況を評価する報告書を発表し、障害者の自助団体は、この評価活動に積極的に参加することを求められる、とあります。

今回の会合はこの趣旨に沿ってESCAP主催によって招集されたもので、2004年10月13日から15日の3日間、タイ国バンコク市内の国連会議場で開催されました。会合には各国政府代表、国連機関の他NGO代表としてアジア太平洋障害フォーラム(APDF)からジュディ・アン・ウィー議長、JBムンロ副議長、松井亮輔事務局長、世界ろう連盟から小椋武夫と私など多数が出席しました。

BMFの実施進捗に関する指標

会議は国連ESCAP事務局長キム・ハクスー氏のあいさつで始まりました。次いで議長団選出、ワークショップ議題の採択があり、八代英太議員のビデオでのあいさつがありました。

続いて長田ケイ国連障害専門官がワークショップの目的について説明しました。2002年5月に採択されたBMFは慈善に基づいたアプローチから決別して、インクルーシブでバリアフリーな、かつ人権に基づくアプローチに決定的に転換しました。そしてBMFの達成のためには、国内行動計画、障害者権利条約、計画のための統計と共通の定義、地域に根ざしたアプローチ・自立生活の強化という四つの戦略領域及び行動のための七つの優先領域の解決が必要であるとしました。また今回、会合の中心的な目的が計画のための統計と共通の定義に関わる、「モニタリングのためのBMFの実施進捗に関する指標(インジケーター)」(以下「指標」)の開発にあることを明らかにしました。

続いて秋山愛子国連障害専門官補佐が「BMFの概要とインクルーシブでバリアフリーな、かつ人権に基づく社会に向けて」と題して、BMF達成のための戦略について説明しました。それによるとBMFには先に述べた四つの戦略領域と七つの優先領域において、政府の政策決定や計画立案に役立てるため、2004年から2005年にかけて障害関連のデータ集積、分析システムの開発と障害者の置かれた状況を統計学と政策方針に基づいて評価するための「指標」の作成を支援する。2005年には政府が市民団体と協力し、BMFの目標及び戦略の実施に向けた、5か年の総合的国内政策もしくは国内行動計画の開発を支援するとしています。目標達成とは決して抽象的なそれにしてはならず、そのために統計学と政策方針に基づいて評価するための「指標」の作成が重要であることを明らかにしたものと思います。

これを受けて、最初にクリントン・ラプリー氏(国際法律事務所計画サービス主任・国連「障害者権利条約」顧問)がBMFの実施、成果及び不十分な点について、検証する「指標」について説明しました。

「指標」にかかわるグループ討論

第2日より「指標」にかかわるワーキンググループによる討論があり、小椋及び私は「権利に基づいた包括的な政策開発グループ」に入りました。そこで私たちは障害者に関する政策を確立するとともに、財政的にもその政策実現を保障すべきであること、さらに財政、通信交通、観光、環境、都市開発、治安などのすべての政策にもバリアフリーの観点が取り入れられることの必要性を強調しました。こうしたことも当然「指標」において考慮されるべきであるという主張です。

後で考えましたが、軍事政策にもバリアフリーの観点をぜひ取り入れるべきと思いました。軍事政策のバリアフリー観点といえば死者、負傷者、障害者となる人を最少限にとどめること、そのリハビリテーションを重視することになるでしょう。しかし、そういう観点は結局、核兵器であれ、軽火器であれ、人を殺傷する武器そのものを使用しない、廃止することに行きつきます。すると軍事政策そのものが成り立たなくなりますが、それはそれでよいのではないでしょうか。そもそも文化、文明社会においては人を殺傷する、人権軽視の最たるモデルというべき軍事政策ほどいかに科学的な装いをまとったとしても非文化的、非文明的なものはありません。人権尊重の高まりと反比例していずれなくなる運命にあると思います。BMFがその突破口となれば、障害者こそ世界を救うと言えるのではないでしょうか。

各グループの成果は3日目の全体会議に持ち込まれ、「指標」に関する作業文書とともに論議されました。「指標」作業文書は、第1部・障害者に関連するデータと統計、第2部・「指標」の確認と開発、第3部はいくつかの「指標」、から成り立っています。この膨大な「指標」に関する作業文書を紹介することも、それに先だって十分理解することは非力な私にとって困難を極めますので、一部を紹介するにとどめますが、次のような内容です。

第1部が問題にしているのは、国連統計部、経済・社会問題局、世界保健機関(WHO)などが、障害に関する統計・データの収集と提供のために、障害の定義について、多くの重要な概念的及び実質的な取り組みを行ってきたこと。しかし、いまだにすべての人が合意できる、国際評価のための障害の定義のないことが、BMFの目標・戦略の進捗状況に関する実際的、信頼性の高い、タイムリーな情報の収集を疎外しているのが現状であることです。これは国際生活機能分類(ICF)といえども人権の側面に触れないために限界が指摘されているようです。さらに「障害者権利条約」の第3条定義に関わっています。

第2部は、「指標」には量的な尺度と質的な尺度があるといいます。さらに総合的(いくつかの要素をまとめたもの)と、個別的(一つの要素を示すもの)な「指標」があること。国連開発計画が算出する「人間開発指数(HDI)」ESCAPの「ジェンダー指数」が紹介され、またアジア太平洋地域では、「指標」の基礎となるデータ不足が指摘され、それらのことを考慮した「指標」作りの具体的な方針が示されました。

第3部では、「指標」の概要はBMFの実施に関する質問状に基づき、個々の指標に沿って、BMFの目標を達成するための行動案を導き出すことにあるとしました。また、概要はBMF実施の前提条件を示す指標とBMFの目標及び実施進捗状況を示す指標の二つがあるとしました。

以上の作業文書に沿って「指標」が決定され、それの達成度についての質問状が政府やNGOに発せられることになります。

なお、BMFは各国の標準手話、点字、触手話の開発、調整、普及を政府に求めていますが、手話は点字などと異なり音声言語と同等の言語であることを最初に確認することの必要がありました。しかし「障害者権利条約」に先立つBMFにそれが欠けている不備があるので、新たに「政府は手話を国の公式言語と認めている」ことを、「はい」「いいえ」で答える質問を「指標」にかかわる提案書に加えることに成功しました。

今後第2次「アジア太平洋障害者の十年」の中間期に当たる2007年には、「指標」を踏まえたBMFの改訂が予定されています。BMFを採択した2002年ハイレベル政府間会合では、私たちの準備が不足していたことを痛感しています。今回の「指標」論議を踏まえて、障害当事者の立場から2007年のBMF見直しの時によりよいBMFのために新たな提案を検討する必要があるでしょう。

会合は、3日目に「BMF目標の完全達成に関する共同声明」を採択して終了しました。

(たかだえいいち 世界ろう連盟名誉理事)