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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年12月号

認定する立場から

身体障害の診断

伊藤利之

1 はじめに

身体障害者福祉法の目的は、「身体障害者の自立と社会経済活動への参加促進の援助、および必要に応じて保護する」ことにあり、とくに対象年齢に制限はない。しかし、このうち「社会参加を援助する」いわゆるリハビリテーションに関するサービスについては、早期リハビリテーションを実現するためにも、発症後のできるだけ早い時期に本法が適用できる仕組みが必要で、手帳認定の条件や再認定制度など、見直さなければならない課題が多い。一方、「保護」についても、高齢者では介護保険によるサービスが導入されたことから、法制度間の整理・統合が必要である。

2 早期診断と再認定

本法の診断にあたっては「障害の固定」が前提となっており、再認定については、発育・発達が予想される小児や増悪・緩解を伴う疾患を対象に必要最低限にとどめることが原則である。とりわけ脳卒中などでは、発症から3か月程度を経過した後、最終的に残ると予測される障害程度をもって診断することになっており、リハビリテーション過程において身体障害者の更生施設を利用するには、障害認定の事務終了後の発症から4か月以上を要することになる。

発症早期からのリハビリテーションの有用性が一般的にも認められるようになった現在、比較的若年の脳卒中片マヒ者が社会・職業リハビリテーションを開始するのに、発症から4か月以上の期間を要するようでは先端モデルとはいえない。現状では疾病や障害が社会復帰を妨げているというより、むしろ人為的に作られた社会制度が妨げになっていると言わざるを得ないであろう。

この問題をとりあえず解決するには、福祉事務所などの事務作業量が増えることにはなるが、再認定制度を積極的に利用することである。すなわち、意識障害がなく全身状態が安定しているなら、障害が固定すると思われる6か月~1年後に再認定することを前提に、発症後1か月以内に「最終的に残存すると予測される障害の程度」をもって診断することを原則にすることである。

3 人工関節置換などの診断基準

大腿骨頸部骨折などの治療として人工関節が使用されるようになって久しく、最近の治療材料や医学技術の進歩は治療成績の安定化を示している。しかし、人工関節や人工骨頭の置換術は、置換に先立って大腿骨頭を切り落とすため、本法の認定では、「股関節機能の全廃」と見なして4級相当になる。一方、変形性股関節症のために著しい機能障害を有する障害程度は5級相当であり、人工関節置換術を受けて股関節機能が良くなったにもかかわらず重症度が上がって4級になるという、だれもが矛盾を感じる認定となっている。

人工関節はいちいち装具を装着する手間がなく、現在では、感染や磨耗などにより再置換術のトラブルに遭遇する危険性も低い。このため、骨頭を切り落としたからといって機械的に「股関節機能全廃」とする必然性はなく、置換術後の機能制限や行動制限において等級を判断するか、とくに制限がなければトラブル発生の時点で再度診断をすればよいとの意見も多い。この問題は「心臓ペースメーカー」など他の人工臓器においても同様で、術後の不安定さが付きまとった過去とは違い、いずれも医療による治療の範疇として取り扱われるべき問題になりつつある。

4 高齢者の認定

本法における「保護」のイメージは、社会参加促進の援助が困難な重度障害者に対する介護を意味しており、加齢に伴って機能が低下していく高齢者をイメージしたものではない。しかし、多くの地方自治体で身体障害者手帳1・2級の所持者を対象に「重度障害者医療費助成制度」を施行していることから、90歳を越えた高齢者が重度な機能障害に陥ったとして身体障害者の診断を求めてくることも少なくない。

若年の障害者については、障害特性の評価に依拠した更生援護のサービスが有効と考えられる。しかし高齢者では、疾病や外傷による障害がそのまま全体としての障害を表すのではなく、加齢や安静に伴う精神機能の低下、廃用症候群などの二次的な障害が全体の障害の主原因になっていることが多い。このため、とりわけ後期高齢者では更生援護のサービスより介護サービスに関するニーズが主体となっており、介護保険が導入された時点で本法の「保護」に関する役割はほぼ終了したといえよう。

また、後期高齢者については、他の同年齢の人たちと比べて特別な障害を負ったとは考え難いことが多く、障害の定義も曖昧にならざるを得ない。むしろ今後は、介護サービスを中心に医療や義肢・装具などのサービスを加え、高齢者に対するサービスの統合を図るべきであろう。

5 おわりに

社会保障制度全体の見直しの中で、身体障害者福祉法の主な問題点と当面の対策を例示したが、根本的には、身障・知的・精神の三障害を統合した総合福祉法の制定が待たれるところである。

(いとうとしゆき 横浜市総合リハビリテーションセンター長)