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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年12月号

わがまちの障害者計画 東京都足立区

足立区長 鈴木恒年(すずきつねとし)氏に聞く
行政と区民とが協働で進める、障害がある人の地域生活支援

聞き手:石渡和実(いしわたかずみ)
(東洋英和女学院大学教授、本誌編集委員)


東京都の地図

東京都足立区基礎データ

◆面積:53.20平方キロメートル
◆人口:644,522人(平成16年4月1日現在)
◆障害者の状況(平成16年4月1日現在)
身体障害者手帳保有者 19,505人
(知的障害)療育手帳保有者 3,335人
精神障害者保健福祉手帳保有者 2,103人
(平成14・15年度交付数)
◆足立区の概況:
都東北部、埼玉県に接する住宅密集地。江戸期に千住宿が栄え、現在は首都圏東北部の要。区の玄関口である北千住駅は鉄道4線が交差するターミナル駅。平成17年にはつくばエクスプレス、平成19年には(仮称)日暮里・舎人線の開通など、交通網の整備により、今後一層の発展が期待されている。河川・公園が多く、豊かな自然にめぐまれている。地場産業は、くつ・かばんなどの皮革製品。
◆問い合わせ:
足立区障害福祉課
〒120-8510 足立区中央本町1-17-1
TEL 03-3880-5255 FAX 03-3880-5615

▼私は、東京都がケアマネジメントシステム検討のために足立区に委託している、「東京都支援費制度利用援助モデル事業」に関わらせていただいています。このなかで、足立区障害福祉センター「あしすと」の活躍や、関連機関の地域に根ざした、まさに「利用者本位の」支援に感嘆しています。このようなシステムがどのようにして築かれたのでしょうか。

足立区には早くから養護学校が多く設立されており、卒業後の活動の場として公立の通所施設をつくってきました。しかし、卒業生が増え続けるため、1985(昭和60年)年に、区の施設を一定期間利用した後、民間施設へ移行していただくという方法をとりました。当時は批判も受けましたが、今にして思えば、それが民間の力を活用しつつ、行政や企業など、それぞれの力を高めていくきっかけになったと思います。

足立区の新しい基本構想の理念は、「さまざまな区民・団体・企業と区役所が協働する『力強い足立区』を目指す」というものです。障害者施策は他の施策に先行して、このコンセプトを実践してきました。

▼足立区の障害者計画についてお聞かせください。

足立区では、平成13年度から17年度の5か年の『足立区地域保健福祉計画』を策定し、そのなかの障害者施策を障害者プランと位置づけています。特徴として、三つの点があげられると思います。

第一が、「公民の役割分担の明確化」です。障害者計画のなかで構想された「あしすと」が、2003(平成15年)年4月にオープンしました。公立施設と民間施設の機能を見直し、唯一の区立区営施設である「あしすと」を中心にサービスを展開するという絵を描きました。これまで障害者施策は行政主導という感がありましたが、足立区には力のある民間施設が増え、しっかりと事業を運営しています。公立施設が民間と同じことをする必要はないと考え、東西に分かれていた福祉センターの機能を組み立て直し、新たなプランを練りました。このときに、福祉事務所などの関係機関も含めて、それぞれがどのように動き、どこでつながっていくのか、その辺りの考え方をうまく整理できたと思います。それが現在、足立区の社会資源は連携がよくとれ、利用者本位の支援が図られていると評価していただけることになったと思います。

▼それが、ケアマネジメントのすばらしい実践につながっているのですね。

そうですね。ですから第二に、ケアマネジメントへの取り組みを、足立区のセールスポイントとしてご紹介できると思います。介護保険ではしっかりしたケアマネジメントの制度が組み立てられていますが、障害のほうは制度化されていません。しかし、支援費が始まる以前から、ケアマネジメントが重要になるだろうと考えていました。そこで、従事者養成研修に区職員を積極的に参加させ、東京都のケアマネジメント試行事業にも取り組みました。

その結果、改めて、地域で暮らす障害者の生活支援は、通所施設だけでは限界があると感じたわけです。生活というものは24時間、365日動いていますが、通所施設はそのうちの1日5~6時間、年間で230日程度しか役割を果たせません。実際には、夜の暮らしや休日などの部分が大切なんですね。それをどう支えるか、障害がある人の生活を俯瞰的に見ながら、全体をコーディネートする人材や部署が必要だと考えました。それがケアマネジメントであり、区が担っていくのはこれだろうと考えたのです。もちろん、「あしすと」が単独でできることではなく、関係機関の連携が重要だと思いました。そこで、個別性や困難性の高い障害者の支援をしている関係機関に専門スタッフを配置し、情報を一元的に管理できる「あしすと」が支援する、簡単に言えば、そういう仕組みを作ったわけです。このシステムによって、福祉事務所も含めた公民の役割分担がさらに明確になりました。

▼そうですね。ネットワークの大切さを感じますね。区長のお話から、今の足立区の特徴と、実践の背景がよくわかりました。三つ目の特徴とは何でしょうか。

地域での生活を支える仕組みの、もう一つの側面として重要なのが権利擁護です。社会福祉協議会が担っている「地域福祉権利擁護事業」も、足立区では積極的に取り組んでおり、大きな成果を上げています。

障害者施策も支援費制度となり、契約に移行しました。障害者が受けたいサービスを選べるようになったと同時に、自分で選んだことに対する責任も生じてきました。そうしたサービスに関するトラブルや苦情を解決する仕組みとともに、さまざまな権利侵害への対応や、成年後見制度の活用など、取り組まなければならない課題はたくさんあります。こちらも専門スタッフが、さまざまな相談に応じながら、ますますその力を高めています。

▼すばらしいですね。足立区ではまさに、今の契約の時代や、地域生活の支援を先取りして行ってきたと言えますね。では、これからの展望についてお聞かせいただけますか。

これからの施策は、何でも行政がやるのではなくて、公と民とが協働でやることがポイントになってくるのではないでしょうか。そういう仕組みがすでにできているのが、足立区の強みです。

支援費制度の財源問題に端を発し、介護保険制度との統合が検討されています。厚生労働省が明らかにした、障害保健福祉施策改革の『グランド・デザイン案』の、今後の取り扱いも含めて、国はどの方向に行こうとしているのかを見極めなくてはと思っています。そのうえで、区としてどう取り組んでいくかが大きな課題となるでしょう。足立区の計画は平成17年度までのものなので、新しい計画策定にまもなく取り組みます。国の動向などが不透明な中での作業となりますが、これまで築き上げた基盤を、より自立支援の実現にどう近づけるか、新しい制度と現在の到達点にどう落とし込み、どこを伸ばしていかなければならないか、そこをしっかり見極めたいと思います。

▼区長室の棚に、3人のお孫さんたちとご一緒の、柔和な笑みを浮かべた区長の写真がありました。足立区で生まれ、育ち、区役所の職員として歩んでこられ、「足立区を愛している」ということを随所で実感させられました。これから、どのような新しい計画が策定されるのでしょうか。もうワクワクしてくる、というのがインタビュー後の正直な感想です。これからの足立区の地域生活支援の実践にますます注目したいと思います。本当にありがとうございました。


足立区障害福祉センター「あしすと」

平成15年4月の支援費制度施行と同時に開設した「あしすと」は、区立区営の障害専門の中核機関として、総合的な相談・専門相談・さまざまな評価・通所訓練・就労支援等を行っています。これまでの通所施設は、ともすれば施設における支援が中心となりがちでしたが、障害者の24時間の生活に着目した在宅生活支援へと視点を移し、施設目的の転換を図りました。

また、障害者ケアマネジメントの専門機関として、区内最初の障害者地域自立生活支援センターを設置し、区内在住の障害者児の地域生活を支援しています。通所事業においても、障害者ケアマネジメントに取り組み、通所者の在宅生活を支援しているほか、支援費制度の事業所指定を受けるなどの特色も持っています。

【相談部門】
自立生活支援室(市町村障害者生活支援事業)
 月・水・金・土 9:00~17:00
 火・木     9:00~20:00
雇用支援室(区市町村障害者就労支援事業)
 要予約
幼児発達支援室
 月~金 9:00~17:00
【通所部門】
社会リハビリテーション室(身体障害者デイサービス事業)
就労促進訓練室(知的障害者通所授産施設)
生活体験室(知的障害者通所更生施設)
幼児発達支援室(知的障害児通園施設)

◆足立区障害福祉センター「あしすと」

〒121-0816
足立区梅島3-31-19
電話 03-5681-0131(代)
FAX 03-5681-0138

(鉄骨造り5階建て、延べ床面積4403.32m

写真 足立区障害福祉センター「あしすと」