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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年12月号

障害者権利条約への道

差別の定義

金政玉

障害者権利条約の策定作業を行った第4回特別委員会(本年8月23日~9月3日)では、後半から、基本的に非公式協議となり、コーディネーターと各条担当のファシリテーターの進行のもとで各条文(第4条―締約国の一般的義務、第5条―統計及びデータ、第6条―障害者に対する肯定的態度、第7条―平等及び非差別)の条項について討議が行われた。ここでは、条約の要に位置づけられる「差別の定義」(第7条)の内容を紹介する。

1.差別の形態に関する四つの類型

【草案第7条2項(a)】

「差別とは、あらゆる区別、排除又は制限であって、障害のある人が平等な場ですべての人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする目的又は効果を有するものをいう。」

【同条2項(b)】

「差別は、あらゆる形態の差別(直接的、間接的及び体系的な差別を含む。)を含むものとし、また、現実にある障害又は認識された障害を理由とする差別を含むものとする。」

日本国内の現行法においては、具体的な差別事象が発生した時に対応できる「差別の定義」にかかわる明文規定がない。障害を理由とする「あらゆる区別、排除又は制限」や「あらゆる形態の差別」の中にすべての差別事象が含まれるのは当然だが、個別具体的にさまざまな要因によって日常的に発生する差別事案に対して、その事案がなぜ差別に該当するのかを説明できる解釈指針が必要となる。

「あらゆる形態の差別」を草案第7条2項(b)に従って類型化し、それぞれの特徴づけをすると、およそ次のようになる。

  1. 直接差別:加害者の意図性が明確な場合(障害を理由に職場等から意図的に障害者を排除するなど)
  2. 間接差別:加害者に意図はないが、無知や無理解、一方的な決めつけ等によって、結果として差別事象が放置される場合(例、車いす使用者がエレベーターのない2階のレストランを利用できないなど)
  3. 体系的な差別:制度上の差別的取り扱い(例、無年金障害者の問題や欠格条項による門前払いなど)
  4. 認識された障害による差別:現行法制の障害の定義には該当しないが、社会が認識する障害への意識、偏見等による差別的取り扱い(例、「ユニークフェイス」等の顔面に疾患・外傷のある人でつくるセルフヘルプグループの人、AIDSを発症していないHIVポジティブの人、過去に障害の経歴があった人、「発達障害」とみなされる人など)

2.「差別の免責事由」について

【草案第7条3項】

「差別は、正当な目的により、かつ、その目的を達成する手段が合理的かつ必要である場合には、締約国が客観的かつ明白に十分な根拠を示す規定、基準又は慣行を含まない。」

本条項は、既存の人権諸条約にはどこにも明文規定はない。たとえば運転免許試験の聴力、視力にかかわる適正基準の場合を考えても、資格取得に必要な要件(技能等)を満たしているかどうかで個別的に判断されるべきで、特定の障害に対して「合理的理由」をもとに一律の基準によって制限することになれば、差別の放置・助長につながる恐れがある。第7条で位置づけると、「あらゆる区別、排除又は制限」に適用される可能性があり、各条の実体規定との関係で、既存の人権諸条約よりも権利性の水準が下回るものになりかねない。

特別委員会では、差別の例外を設ける同規定については、誤解を招く危険性が高いため、削除する方向で討議を継続するとともに次の脚注を加えることについても合意が得られた。

「一部の代表は、自由権規約一般的意見18号の文言、すなわち、『別異取扱における区別の基準が合理的かつ客観的な場合であって、かつ、その区別がこの条約の下で正当化される目的を達成するために行われる場合には、別異取扱は必ずしも全て差別となるわけではない』を反映すべきであるとの見解を示した。」

3.「合理的配慮」と差別禁止との関係

【草案第7条4項】

「障害のある人に対して平等の権利を確保するため、締約国は、(略)必要かつ適当な変更及び調整と定義される合理的配慮を提供するためのすべての適当な措置(立法措置を含む。)をとることを約束する。ただし、このような措置が不釣合いな負担を課す場合には、この限りでない。」

「合理的配慮」に関する規定は、既存の人権条約にはない新しい概念として注目されている。障害の種別等による個別的ニーズ(職場における段差等の解消や情報機器の改造、必要に応じた手話通訳や要約筆記の配置等)に対応した「合理的配慮」を講じないことをもって差別とみなすかどうかについては、「不釣合いな負担を課す場合」との関係で討議が継続されている。

国内的課題としては、雇用主やサービス提供者が「不釣合いな負担」に関する説明責任を果たしたかどうかを含めた「合理的配慮を提供する」ことの欠如が明らかである場合については、差別とみなすことを審査・認定する第三者機関の設置が必要になってくると思われる。今後の議論に注目をしていきたい。

(きむじょんおく DPI障害者権利擁護センター所長)