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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年3月号

障害者権利条約への道

特別委員会の動向
―第5回委員会を中心に―

松井亮輔

2005年1月24日~2月4日ニューヨークの国連本部で開催された第5回特別委員会には、昨年10月末正式に発足した日本障害フォーラム(JDF)から、政府代表団に顧問として加わった弁護士東俊裕氏なども含め、全体で8名が参加。この正式発足に伴い、JDFは特別委員会にもNGOとしての登録を認められた。同委員会に出席している大部分の障害NGOなどから構成される国際障害コーカス(以下、コーカス)には、すでに第3回特別委員会からJDF準備会として参加している。

第5回特別委員会までの経緯

今回は、第3回および第4回特別委員会に引き続き、2004年1月特別委員会のもとに設置された作業部会で作成された障害者権利条約草案(解説付きの日本語版は、長瀬修・川島聡両氏により昨年明石書店から出版されている)をたたき台として、同条約の成案づくりに向けての政府間交渉が行われた。

第3回特別委員会では、草案1~24条(3条[定義]と25条[モニタリング]を除く)、前文の一部および国際協力についての第一読が、また第4回特別委員会では前半に、前回残された前文の一部、条約名称、条約構成、草案3条および25条についての第一読ならびに、各国から出された修正提案をベースに、草案1~15条と(草案に追加された)24条第2次案[国際協力]の再検討が、それぞれ、NGOも発言を認められる「公式協議」ですすめられた。そして、後半では、調整がほぼついている草案1条[目的]と2条[一般的原則]を除く4条[一般的義務]、5条[障害のある人に対する肯定的態度の促進]、6条[統計及びデータ収集]および7条[平等及び非差別]第4項までについて、NGOは発言を認められない[非公式協議]が、コーディネーターであるドン・マッケイ・ニュージーランド国連大使を中心に行われた。非公式協議は、条約草案の各条文について各国政府などから出されたさまざまな論点を整理し、コンセンサスづくりをめざすものではあるが、コンセンサスが取れない条文内容については、次回以降の協議に委ねられることになる。

第5回特別委員会の到達点

当初は、前半には、第4回特別委員会で残された草案7条第5項から第15条[地域社会における自立した生活及びインクルージョン]までが非公式協議で、そして後半には、草案16条[障害のある子ども]以下の条文の再検討が公式協議で、それぞれ行われることが予定されていた。しかし、各条文について予想以上に議論が多く、実際には前半では、草案11条[拷問又は残虐な、非人道的な若しくは刑罰からの自由]までのみ、そして後半では草案12条[暴力及び虐待からの自由]から14条[プライバシー、住居及び家族の尊重]までの非公式協議にほぼ終始した。前半および後半ともそれぞれ1時間程度の公式協議の場が設けられ、コーカスなどに発言の機会が与えられたとはいえ、そこでの発言が政府間交渉に与えた影響はきわめて限られたものと思われる。

今回検討が予定されていた15条第2次案[障害のある女性]、24条第2次案[国際協力]ならびに草案16条~25条の再検討は、第6回特別委員会(今年8月1日~12日)に先送りされた。

このように条約の交渉に予想以上に時間がかかっていることを憂慮したコーカスでは、条約の早期実現をめざすためにも、次回の特別委員会では残りの草案16条以降の条文については再検討を省略し、ただちに非公式協議に入るよう求めている。その要請が認められると、第6回特別委員会もNGOの発言が認められない非公式協議を中心にすすめられることになるが、コーカスなどの意見をその交渉に反映させるためには、公式協議の場を今回以上に確保する必要があろう。

筆者にとっては、特別委員会への出席は、2回目(最初は、2002年7~8月の第1回特別委員会)であるが、第1回と比べ、途上国、とくにアフリカおよびアラブ諸国からの参加国やわが国も含め、障害当事者を政府代表団の一員として派遣している国(全参加国約85か国のうち3分の1ぐらい)が増えているのが、きわめて印象的であった。

日本にも知人が多い、タイ政府代表を務めたモンティアン・ブンタン氏(タイ盲人協会会長)は、特別委員会(会合時間は、原則として10時~13時、15時~18時)の前に毎朝9時から開かれるコーカスの打ち合わせ会議にも必ず出席し、非公式協議ではコーカスでの議論も踏まえて発言するなど、まさにNGOサイドと政府サイドの橋渡し役を積極的に担っていたのが、注目される。

また、第1回特別委員会以来、議長を務めてきたルイス・ガレゴス・エクアドル国連大使は、コーカスの求めに応じて、意見交換の場を設けるなどを通して、できるだけNGOサイドの意見を吸い上げるための努力をしてきている。

そうした意味では、コーカスなどNGOサイドの意見は、政府代表団に入っている障害当事者代表やガレゴス議長などを通してある程度反映される仕組みがつくられていると言える。このことは、NGOの参加を認めた特別委員会の成果と評価できよう。

なお、特別委員会では、昼休みを利用して毎回のようにサイドイベント(第3回および第4回特別委員会では、JDF準備会も「合理的配慮」などをテーマにセミナーを開催)が計画されているが、今回は、前半には人権高等弁務官事務所主催のモニタリングに関する検討会が、そして後半には、世界ろう連盟主催のセミナー「言語権、国連の勧告・条約での手話の地位、国連加盟国の法律」、国際障害・開発コンソーシアムとハンディキャップ・インターナショナル共催のセミナー「インクルーシブ開発と障害者権利条約」および韓国政府・NGO共催のセミナー「条約上の障害のある女性問題」がそれぞれ開かれた。筆者も出席した韓国セミナーには、カリファ・アルタニ国連・障害担当特別報告者などがスピーカーとして招かれていたこともあり、優に100人を超す関係者が参加するなど、韓国のイニシアチブで提案された15条第2次案[障害のある女性]への関心の高まりがうかがわれた。

これらイベントは、いずれもそれぞれの分野の第一人者を招いての、内容的にもきわめてレベルの高いものだけに、特別委員会参加者以外にも周知されるような何らかの方法が講じられることが望まれる。

今後の課題と展望

非公式協議でコーディネーターのマッケイ大使が繰り返し強調していたのは、障害者権利条約は、1.既存の6大人権条約ですでに規定されている人権や権利を障害者に当てはめることであり、新たなものを追加することを意図したものではない、2.一般市民と同等の取り扱い・処遇・権利保障であって、一般市民以上の特別のものをめざすのではない、ということである。そうした共通理解の下にこの条約成案をつくるための交渉がすすめられているわけであるが、現在の交渉ペースでは国連総会に条約成案として提出しうるまでには、第6回特別委員会も含め、少なくともあと3~4回程度の委員会開催が必要と思われる。したがって、国連総会に条約成案が諮られるのは、早くて2007年秋あるいはそれ以降となるというのが大方の予想である。

コーカスに参加している、とくに経済事情が厳しい途上国の障害当事者にとっては、スポンサーがつかない限り特別委員会に継続的に参加することは、きわめて困難である。そのため、コーカスでは各国政府に対し、国連ボランタリー基金へのタイムリーな拠出を継続すること、ならびに障害当事者を政府代表団の一員として派遣している国に対し、それを継続するとともに、それ以外の国にも、同様の措置をとるよう要請している。

また、特別委員会での協議が長引けば長引くほど、参加保障のための資金確保が困難になることからも、できるだけ早期に条約交渉を終結するために必要な資源を充当するよう、求めている。

しかし、その一方では、世界盲人連合キキ・ノルドストローム会長に代表されるように、先進国の障害当事者団体関係者の中には、「条約の質を確保するためには、条約交渉に時間がかかってもやむをえない」という意見も少なくない。また、非英語圏の途上国の関係者の一部からは、「言葉の関係で対等の立場で議論に参加していくことが困難なため、そうした関係者にも配慮して、コーカスでの議論のペースをスローダウンすべきである」と先進国関係者主導のコーカス運営に厳しい批判もでている。

コーカスでは、第6回特別委員会に向けての準備として、草案16条から25条まで条文ごとにファシリテーターを決め、6月中旬をめどに修正案づくりをすすめることにしているが、前述したことにも象徴されるように、各関係団体の思惑に配慮しながら、コーカスとして意見集約をしていくのは決して容易ではないと思われる。

また、これまで特別委員会の議長を務めてきたガレゴス氏が、エクアドル政府からオーストラリア大使に任命されたため、退任が決まり、第6回特別委員会で新議長団が選出されることとなった。コーディネーターとして作業部会および非公式協議で中心的な役割を果たし、その采配ぶりに大きな信頼が寄せられているマッケイ大使についても任期の関係で、近い将来転出の可能性もうわさされている。条約成案づくりに向け、そのスピードと質の確保にどうバランスをとりながら条約交渉をすすめていくのか、これからその舵取りがますます重要になる時期だけに、仮にマッケイ大使まで抜けるようなことになれば、今後の条約交渉過程に微妙な影響がでかねないことが懸念される。

(まついりょうすけ 日本障害者リハビリテーション協会副会長)