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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年3月号

列島縦断ネットワーキング

奈良 観光都市奈良
~清掃を通じてノーマライゼーションの実現~

小西英玄

大和は 国のまほろば
たたなづく 青垣
山隠れる 大和しうるはし
『古事記』

古代の大和―奈良盆地―を褒めたたえた歌として、もっとも有名なものの一つ。

みどりの山々につつまれ、のどかな田園のひろがり。それが古代奈良でした。また、飛鳥・奈良時代には、日本の福祉の原点がこの奈良にありました。聖徳太子は自ら薬を調合し、病人に分け隔てなく与えたと言われています。また、光明皇后によりハンセン病患者のためにつくられた施薬院や悲田院がありました。そんな、福祉発祥の地奈良。奈良県奈良市は人口36万人。中核都市。市政100周年。奈良遷都1300年。歴史的には話題の多い都市。しかし福祉的にみると話題性に欠ける都市。人口36万に対して知的障害者1500人、施設福祉は全国ワースト何番目?。在宅福祉も未整備です。しかし、三障害当事者、施設/作業所、そして行政がお互いに福祉ネットワークを創り共に運動、活動する方針で福祉を創造しつつあるおもしろい街です。

奈良市手をつなぐ親の会

リサイクル事業所

平成2年よりスタート。企業就職が困難であれば親が会社をつくればいいじゃないかの発想よりスタートした事業所です。現在54人の障害者と16人の職員(健常者)が就労しています。働く能力はあるが社会的に理解が得られず離職せざるを得なかった障害者、作業所では12分に力を発揮することができ、企業では理解さえあれば働くことができる能力を持っている障害をもつ人たちを対象に現在、1.資源(古紙、古着)回収事業、2.資源(大型家具、放置自転車)再生事業、3.空き缶選別事業、4.ペットボトル選別事業、5.ハイカラレンガ製造事業、6.美化促進事業、7.公衆トイレ清掃事業(薬師寺、唐招提寺等ユネスコ世界遺産登録地等のトイレ清掃)、8.公園緑地清掃事業(市街地の公園・トイレ)など8事業を奈良市より委託事業として受託しています。それ以外に重度心身障害者児施設・病院・学校の社会福祉法人より、リネン・メンテナンスの委託、ユネスコ世界遺産の春日大社のトイレ清掃など、民間法人からも業務委託を受けるようになりました。

広がりを見せた委託事業

14年前、このような仕事にわが子を就職させる親はいなく、1年間は保護者が交代で現場を担当しました。2年目に二人(障害者)が入社、現在27倍に増え、離職者があればすぐ、事業所内の作業所・ワークセンターに実習生として受け入れ、職業リハビリの後、就労に結びつけていきます。

奈良市は障害者福祉に対する理解はあり、比較的スムーズに事業展開ができました。仕事確保までは、運動体としての親の会が、確保後は事業体としてのリサイクル事業所が運営を担当しました。保護者は後方支援に回るという役割分担で展開を続けてきました。奈良市からの委託先は、環境清美部、企画部、経済部、都市計画部など各部署に広がり、福祉部が調整するシステムができています。

リサイクルを通じた環境づくり

環境問題と福祉問題。これからの社会問題、市民運動の大きなテーマと考えます。環境破壊により一番先に影響を受けるのは、子ども、老人、障害者という社会的弱者かもしれません。今私たちは、障害をもつ人たちがリサイクル事業を委託事業としてとらえるだけでなく、リサイクル事業を通じて環境づくりを行っていき、住みやすい、美しい街「奈良」を創っているんだという気持ちで取り組んでいます。タバコの吸殻、空き缶を道路に捨てる人が後を絶ちません。奈良市民一人ひとりがしなくてはいけないこと、奈良市民ができていないことを障害をもつ彼らが代わりに行っているのも事実です。

スタート当時、親の会としてもリサイクル事業は子どもの働く場所として位置づけてきました。それからリサイクル事業を推進する団体、そして生まれ育った街を住みよい環境の街にするための環境づくりの団体に変わりつつあります。

障害者の自律(立)と住みよいまちづくり

福祉問題としてみると、奈良市と共同で障害者の働く場を確保していると言えます。知的障害/精神障害/身体障害の三障害で構成していること。障害基礎年金と給料でグループホームで生活できる経済保障ができていること。仕事の場所としてのリサイクル事業所と生活の場としてのグループホームを持っていることなどから言えば、『障害者自立支援法』の考えに則していると言えます。施設運営に多額の税金を使うのではなく、障害者に仕事をしてもらい、その対価として委託料をいただくことにより障害者の自立、自律の両面を支えているのです。

彼らが、室内作業から街に仕事として出かけて行く。当然清掃作業を行うので街は美しくなりますが、それだけではなく障害をもつ人が街の清掃をすることにより、今まで街の美化に取り組んでこなかった市民の方が掃除を始めたことも大きな成果だと思います。

「ご苦労さん」「ありがとう」「頑張って」と感謝の言葉を市民の方からいただくようになりました。その言葉により、彼らは障害をもつ社会人として、自分が社会貢献していることへの自信に繋がっています。まさに彼らは『福祉で街づくり』を実践しています。

働いている彼らの姿を見ていると、「僕たちの街は僕たちで住みやすくするんだ」そして、「環境破壊による障害者が生まれないほうがいいかもしれない。もし、できるなら。そのためにも環境問題を私たちの手で解決するんだ」と言う姿がオーバーラップして見えます。

障害をもつ人たちが街に出て仕事をすることで、市民の方の障害者福祉の啓発としては最大の効果を得ていると思います。委託契約時の申し合わせ事項として、障害者だからといって業務内容を変更しない。その代わり障害者だからといって委託料を下げないという約束をしました。しかし、昨今の税収入減の影響を受け、1億円あった委託料も20%減という現状。これから大きく変わる福祉を思うと、私たちのめざしている方向は間違っていないと確信しています。日々現場で働いている彼らの姿。本当に頭が下がる思いです。必死で仕事をしています。彼らの人生を生まれてきてよかったと言える人生にしてあげたい。そんな気持ちで取り組んでいます。

夢があるから楽しいんです。楽しいから頑張れるんです。でも頑張る福祉ではなく楽しめる福祉を私たちはめざしています。

(こにしひではる 奈良市手をつなぐ親の会会長)

写真提供・長田耕治