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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年4月号

モデル事業の取り組み

北海道におけるモデル事業の取り組み

堀享一

モデル事業の概要と取り組みの特徴

北海道における高次脳機能障害支援モデル事業は、北海道と札幌市の共同実施として平成13年度より行われてきた。現在は支援拠点機関である北海道大学病院(以下北大病院)、札幌デイケアセンター(精神障害者通所施設)、作業所コロポックル(小規模作業所)を中心として、精神保健福祉センターやリハビリテーション科・脳外科等の医療機関、障害者職業センター、前年度までモデル事業に参加していた札幌市内にある精神科の手稲病院(精神障害者入所施設、障害者生活支援センターを併設)、市町村の保健センター、当事者団体等で支援ネットワークが構成されている(■図1■)。北大病院ではさまざまな検査・評価による診断と基本的なリハビリ訓練及びケースワークが行われ、その後訓練の継続や緊急避難的入院についてはリハ科・精神科等の医療機関との連携を、生活訓練や社会適応訓練については作業所やデイケアセンターに通いながら障害者職業センターや保健センターなどと連携を取りつつ社会復帰に向けた支援を進めることになる。

以上が北海道におけるモデル事業に関するシステムの概要であるが、北海道での取り組みの特徴は以下の4点にまとめられる。

1)モデル事業が始まる数年前に当事者団体が活動を開始していたが、高次脳機能障害に対する系統的な取り組みはモデル事業までは不十分であった。

2)モデル事業の開始により札幌市を中心としたネットワークは形成されつつあるが、札幌以外の地域の医療・福祉サービスの供給体制が不十分である。

3)北大病院には高度な診断機能と一定の治療・訓練体制は整っているが、それらを地域の医療・福祉機関に提供するシステムが十分に整備されていない。

4)モデル事業の開始により高次脳機能障害に対する関心は高まっているが、系統的な治療・リハビリテーション・社会的支援を経験する機会が少なく、機能的なネットワークが十分に形成されていない。

モデル事業登録者の実態

高次脳機能障害者の地域分布をモデル事業登録者40名について見ると、札幌市に約3分の2が集中し、残りの3分の1が北海道の各地に分布している。過去2年間に北大病院に入院した高次脳機能障害者52名の地域分布でも同様の傾向が見られ、北海道の人口分布の約2倍の集中度を示している。これは札幌市に高次脳機能障害者の比率が高いというよりも、地方の高次脳機能障害者が十分に把握されていない傾向を示すと思われる。

前述の高次脳機能障害者52名の退院後の社会参加状況を見ると、作業所11名(21%)、障害者職業センター9名(17%)に加え、積極的には社会参加ができずに自宅にいると思われる「その他」11名(21%)の計59%は何らかの通所によるサービス支援が必要と思われる。実際にこれらのサービスを受けている対象は札幌在住者が多く、自宅にいるであろう「その他」の多くは札幌以外に在住する(■図2■)。サービス施設の有無が社会参加の形態に影響を与えていることも推測され、生活圏内にサービス施設が十分に存在しない「一極集中型」とも言える問題点と考えられる。これらの特徴は、他の自治体にも存在することのように思われる。

望まれるサービス基盤の整備

モデル事業の開始以来、北海道では高次脳機能障害に対する関心の高まりが見られ、関連する学会・講習会でも数多くの演題が発表され参加も多いが、まだ実践的なネットワークにはなりえておらず今後の働きかけが必要である。

平成18年度から高次脳機能障害に対してもサービス提供が予定されている。利用可能となる施設は飛躍的に増大するが、その一方で高次脳機能障害に対応するノウハウを施設側がどう準備するかという課題が存在している。これらの施設の多くは高次脳機能障害者を経験した例は少なく、高次脳機能障害に対する認知度は低いことが予想される。また、サービスのマネジメントを行う市町村の窓口でも、外見上その障害が分かりにくく、意欲の低下や病識の欠落などの社会的適応障害、記憶障害などを有する高次脳機能障害者に対して円滑にサービスを提供する(サービスを受けることを納得させる)ことにも困難が予想される。

しかし、これらの課題を平成18年までに十分に準備することは不可能と思われる。一般施策化は必要なことであるが、それによって高次脳機能障害者が「高齢者」などの他の障害のサービスに埋没する恐れも考えられる。高次脳機能障害者がその障害の特徴に応じた有効なサービスを受けられるようなマネジメントとサービス施設の対応が必要である。たとえば、北海道や札幌市が高次脳機能障害とその社会的援助に関するエキスパートによってサポートチームを構成し、全道の市区町村に対してマネジメントや対応のノウハウに関する援助を行い、社会的サービスの定着と充実をより促進するよう努めるなど、さまざまな努力が必要と思われる。

(ほりきょういち 北海道大学病院リハビリテーション部)