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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年4月号

家族会の立場から

重度の高次脳機能障害をもつ人への支援を考える

田辺和子

今年2月4日の「モデル事業・拠点機関等連絡協議会」において事業の到達点の概要が示された。時まさに、1週間後の、障害者自立支援法の閣議決定に向けての大詰めの時である。

高次脳機能障害が国政の舞台に上がりはじめた90年代後半には、各地の家族会では、現行法にいかに高次脳機能障害を組み入れていくかということが最大の課題であった。なかでも身体障害者手帳の取得を望む声は高かった。しかし、モデル事業が始まり、行政の考えを間近で聞くことが増えると、行政にはもとよりその考えはなかったことが分かってくる。結局は、高次脳機能障害が問題となり始めた時期から示されていた「精神障害者手帳により対応」という方針が、改めて確認されることとなった。

もっとも、モデル事業が実施されている間に、高齢者には介護保険、身体・知的分野には支援費が導入され、実施が始まったかと思う間もなくその欠陥から、福祉の体系そのものの変革が必要となっている。4日の連絡協議会では、福祉体系との整合性や整理ということばが繰り返された。

厚生労働省は、障害者自立支援法を示し、これまで三障害に分断されてきた手帳の相互乗り入れを進める、としている。確かに障害の種別を越えなければ、地域での暮らしは成り立たないであろう。不経済でもある。しかし、それは現実の場ではそれほどたやすいことではない。就労支援のためにジョブコーチ制度があり、職務内容の検討があるように、福祉関連施設などの相互利用の時は、受け入れ機関や当事者を支援する制度が必須である。それがないと、相互利用は進まない。具体的には、受け入れ施設には「高次脳機能障害加算」や、施設や本人を支援するための指導、さらには、高次脳機能障害者の受け入れを確保できる「高次脳機能障害者枠」というようなものの創設が望まれる。地域の既存の資源が利用しやすくなるような仕組みづくりが必要である。

モデル事業が始まってから、関係機関や全国の家族会などの努力で高次脳機能障害への認知度は、格段に上がったと思う。しかし、昨年10月発表の「改革のグランドデザイン(案)」では、「重度の」高次脳機能障害が制度の狭間にあることが指摘されている。

サークルエコーは、設立して7年、高次脳機能障害をもつ人30余名を中心に、家族や支援者200名からなる団体である。当事者の9割近くが低酸素脳症の後遺症によるもので、食事や着替え、歯磨き、トイレなどADLレベルの介助を必要としている人も多い。そのような特徴から、小団体ながら会員は全国各地の広い範囲から集まっている。

週末、渋谷(東京都)で開いている「えこーたいむ」では、原宿ウォーキング、食事会、情報交換、などの活動を行っている。重度の高次脳機能障害について、行政や社会へ情報を発信し、遠隔地の会員とも交流をするための重要な拠点でもある。家庭では、家族のケアに1日の大半を使っている人たちが、サークルエコーを、重度の人たちの権利を守る場であるとして、社会的責任さえ感じながら会を運営している。

重度の人たちへの関心の薄さを憂慮していた私たちは、モデル事業の構想の検討が始まったころ、日常生活の支援を必要とする人たちも対象とするよう数度にわたり申し入れを行った。「生活介護支援」も事業のひとつの柱となったことを評価している。しかし、私たちが考えているようなレベルにある人たちが受け入れられ、支援を検討されたという例は例外的といえるほどのものであった。モデル事業の拠点機関となったリハビリテーション病院も、「それほどの人たちは」と受け入れてくれない、という電話が私たちのところにしばしばかかってきた。

私たちは、重い脳障害の人たちでも、大変ゆっくりした歩みではあるが、少しずつ向上していくのを活動の中で見てきた。また、他から分断されて重度の人という一群があるわけでもなく、脳障害を負った人たちは、なだらかに広範囲に分布しているはずである。重度の人たちへの支援があってこそ、高次脳機能障害をもつ幅広い層の人たちが対象となる。しかし、リハビリテーション病院に受け入れられないならば、その実態は、なかなか行政には伝わりにくい。重度の人たちのための対策が進みにくいのは当然である。

高次脳機能障害は狭間の障害と言われてきたが、その支援策の検討の過程でさらに狭間をつくり出すということがないよう、改めて要望したい。

(たなべかずこ サークルエコー事務局)