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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年4月号

障害者権利条約への道

手話と言語

大杉豊

[言語には音声言語と手話があり、コミュニケーション手段には音声言語、手話の他、指点字、点字、拡大文字、要約筆記、及び人による朗読支援、情報通信技術などによる補完的あるいは代替的な手段が含まれる。]

言語とコミュニケーションを前記のように整理する、全日本ろうあ連盟の考えは、2003年に採択された障害者の人権に関する条約バンコク草案第1部第2条(定義)に明記されています。

とくに言語が音声言語と手話の両方を含むという定義は、国連障害者の権利条約特別委員会(以下特別委員会と略)において、世界ろう連盟が手話を言語として一貫して認知することに最重点を置いたロビー活動を展開し、声明文を発表するといった取り組みの土台となっているものです。

2005年1月末に開催された第5回特別委員会で手話と関わりの深い第13条(表現の自由等)についての議論がありましたが、代表を派遣した外務省の報告によれば、「特に情報へのアクセスの文脈においては、手話・点字の使用の円滑化といった伝統的な意味における自由権(国家権力からの個人の自由)と社会権(国の政策や措置により個人に実現される権利)が交錯する内容となっていることに留意を要する」ことと「手話の言語性について否定する意見はなかったが、具体的規定振りや、『国民手話』の扱い等については、今後の議論に委ねられている」とのことです。

ろう者の立場で言えば、手話を使ってコミュニケーションをはかる権利と手話通訳を介して社会参加をはかる権利が保障されるべきということになります。しかし、世界の国々を見ますと、日本のように手話通訳制度の発展などがあっても、手話そのものが公用語のひとつとして認知されていないために、手話で生きるろう者の自由権が奪われている国もあれば、逆にろう者に手話を使う権利が法的に保障されていても、手話通訳者の養成や通訳派遣制度の発展が追いつかないために社会参加が進まない国もあります。それで、障害者権利条約が手話を言語と定義するとともに、この定義が自由権と社会権両方の側面から保障されることへの期待が高まっています。

外務省の報告では「国民手話」という新しい言葉が紹介されていますが、これは「それぞれの国の手話」としたほうがわかりやすいでしょう。それぞれの国で手話によるろう者同士あるいはろう者と健聴者のコミュニケーションが広がり、標準となる手話を確定し普及していく施策及び手話通訳の養成を含む手話通訳制度が確立され、広く利用されることが望まれます。

第6回特別委員会(本年8月予定)では教育に関わる第17条についての議論が予定されていますが、ろう者にとっての最大の関心事は手話による教育の必要性を権利条約に明記することです。手話が言語のひとつとして定義されるのであれば、手話による教育の妥当性も導かれるはずです。この第17条について、世界ろう連盟は声明文で次の修正案を発表しています。

[ろうの子どもは自分達のグループの中で教育を受け、その国の手話と音声・書記言語のバイリンガルな使用者となるべきである。又、その他に外国の手話や音声・書記言語を学習する権利も有する。各締約国は、ろうの教員及び手話に精通している健聴の教員の雇用を確保することにより、手話による質の高い教育を提供できるよう、法的、行政的、政治的、その他必要な措置をとる。]

ろう児個人が一般校で健聴児とともに学ぶ方法に勝るものとして、ろう児の集団において言語である手話による教育を行う方法で、一般社会で生きていく力をも身につけさせられるという考え方を主張しています。

国連障害者の権利条約における手話やろう者の人権規範をめぐる議論は、国際的にも、国内でも広く議論されることが望まれます。しかし、手話を使って生きる世界各地のろう者抜きに進められてはなりません。

全日本ろうあ連盟は本年5月に全国ろうあ者大会(北海道札幌市)で権利条約をテーマとする研究分科会を予定しています。また、世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局は9月中旬に、中国・上海で開催する代表者会議において権利条約についての情報と意見の交換を行う予定でいます。

さらに、世界ろう連盟は9月末に「わたしたちの権利―わたしたちの未来」のテーマで国際会議をフィンランドで開催し、国際障害者問題特別報告者、人権委員会、インクルーシブ開発局など国連の関係者による報告を中心に、ろう者と手話に関わる課題についての国際的な意見集約と議論を深める予定です。

(おおすぎゆたか 全日本ろうあ連盟本部事務所長)