「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年4月号
列島縦断ネットワーキング
神奈川 横浜市における知的障害者のサッカーの取り組み
~地域ぐるみの協働事業~
小山良隆
本誌2002年6月号「合言葉はエンジョイフットボール!(58~61頁)」では、横浜市における障害者サッカーの活動報告を寄稿させていただきました。今回は、横浜F・マリノスの新たなカテゴリーとして始動した、知的障害者対象の横浜F・マリノス「フトゥーロ」(スペイン語で希望という意味)についてご紹介します。
1 横浜F・マリノス~フトゥーロ~誕生の経緯
横浜市域を中心に、障害のある人たちへのスポーツ・文化活動の支援を行っている障害者スポーツ文化センター横浜ラポールでは、横浜市を拠点とする横浜F・マリノス、市域のスポーツ振興を統括する(財)横浜市スポーツ振興事業団と共に、障害者サッカーに関する「協働事業」を1999年より実施してきました。
皆さんの記憶にも新しい2002年FIFAワールドカップ、INAS―FID知的障害者サッカー世界選手権(もうひとつのワールドカップ)が盛大のうちに終了し、横浜市においては「サッカー変革の時期」を迎え、今までと「ひとあじ違った振興策」が求められました。
そして2004年度、今までのプログラムのノウハウを生かしながら、国内では初めてとなる「Jリーグチーム下部組織の知的障害者チームの結成」に取り組み始めました。
その背景には、「地域に密着したチームづくり」をめざしている横浜F・マリノスふれあいサッカープロジェクトの理念があります。
このプロジェクトでは、性別・年齢・サッカーキャリアや障害の有無という枠にとらわれず、行政・市民・クラブが一体となり、地域社会でサッカーにふれあう場を提供する活動を行っています。
2 活動内容
参加者は、13歳から38歳(平均年齢25歳)までの幅広い年齢構成となっています。横浜市内の在住者が大半を占めていますが、市外からの参加者も電車やバスを乗り継いでトレーニング会場までやって来ます。若い年代の参加者へは、できる限り自力で移動ができるようにしていくことも、社会勉強の一つとして大切にしています。日本代表チームの一員として、国際大会の経験がある選手から、公式戦にはあまり出場したことのない選手まで、技術レベルもさまざまです。
指導者は、横浜F・マリノストップチームのコーチとして、Jリーグの優勝を経験している木村浩吉総監督、Jリーガーで活躍し、ユースチームなどで指導経験豊富な小林慎二監督を中心に、障害児・者へのサッカー指導実績のあるスタッフが加わり「質の高い指導」を心がけています。
平成16年度と平成17年度における活動内容を下表に示します。16年度では流動的であったクラス分けを17年度の新チームでは、年齢や技術レベルに基準を設け、より明確に行いました。
強化クラスではサッカーの基本となる個人の技術力の向上、選抜クラスではより実践的なグループやチーム戦術を大きなテーマとして、取り組んでいます。
昨年は、普及と交流を目的としている全日本知的障害者サッカー交流大会に強化チームが参加しました。チーム結成後、初の公式戦で勝利を挙げることができたことにより、日頃のトレーニングの重要性と勝つことの喜びを味わいました。競技性を重視した全日本知的障害者サッカー選手権大会東日本大会で4位となった選抜チームは、残念ながら上位2チームに与えられるチャンピオンシップ大会への出場権を得ることができませんでした。しかし、上位チームとの実力の差やチームや個人の課題を知ることができ、次回へのステップとなりました。
技術力の向上や試合で「ばてない体力」を作っていくためには、今までのトレーニング回数ではレベルアップが難しいことから、今年はさらに回数を増やし、対外試合も多く組んでいく予定です。そうしたトレーニングで養われた体力や精神面は、学校生活や社会でも必ず役立つでしょう。
3 今後の課題と未来
「だれもが参加しやすいプログラムの実践」へ向けて、「障害」ではなく、あくまでも「サッカー」に重点を置いています。とはいえ、さまざまなレベル差によって生じる課題は指導上無視できません。
サッカーに限らずスポーツの普及・振興では、年代や技術レベルに合わせたアプローチが不可欠です。そこで現在は、「障害の程度」「サッカーの技術と理解度」「年齢」をもとに対象者を限定しています。
活動内容
平成16年度 | 平成17年度 | |
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参加者と指導者数 | 参加者 40名 指導者 7名 |
参加者 50名 指導者 9名(予定) |
クラス | 強化クラス・選抜クラス | 強化クラス・選抜クラス |
トレーニング回数 | 20回(2回/月)日曜日 | 40回 日曜日 平日夜間(5回/月) |
参加条件(対象) | サッカーがうまくなりたい13歳以上で大会に出場した経験がある | |
大会への参加 |
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チームの目標 |
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上図は、横浜市におけるプログラム実施状況とニーズを表しています。サッカー教室を定期的に実施する地域の訓練会や横浜ラポールサッカー教室修了者が、保護者を主体とした自主活動グループとして活動を継続するなど、サッカーを楽しむ環境は少しずつ整いつつあります。
このような人たちから「マリノスに入りたい」と目標とされるような魅力のあるチームであることも、このチームの存在価値の一つかもしれません。
そのためには、年代や障害特性によるクラス分けでジュニア世代を掘り起こし、チャンピオンシップ大会への参加や日本代表選手を輩出するような競技志向のチームとして確立すると同時に、数年後に控えた横浜F・マリノスの、みなとみらい地区への球団移転を契機に、さらに発展した形で「ふつうに知的障害者がサッカーを楽しんでいる!」そんな環境を作りたいと考えています。
また、こうした横浜F・マリノスフトゥーロの活動を通じて、これまで以上に障害の有無にとらわれない活動が地域で増え、地域総合型クラブのような組織結成に向けたモデルとなればいいと思っています。
そして、横浜F・マリノス以外のJリーグのチームにも、同じような知的障害者のカテゴリーができて、近い将来に対抗戦や交流ができれば! などと夢はさらにつづきます。
(こやまよしたか 障害者スポーツ文化センター横浜ラポールスポーツ課)