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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年6月号

施設の解体

国立のぞみの園の取り組み

田中正博

地域移行を進めて行くうえでの背景

国による障害者施策は、ノーマライゼーションの理念の下、基本的な方向として「地域生活支援」をキーワードに進められている。平成15年4月には支援費制度が施行され、特に身体障害者や知的障害者の方々の間でその推進が図られてきた。この流れは、平成2年の福祉八法の改正から始まり、在宅福祉事業の法定化、平成12年の社会福祉基礎構造改革を経て、支援費制度へと続いてきている。

また政府においては経済財政運営と構造改革に関する基本方針として、平成16年のいわゆる「骨太の方針」の中で「重点強化期間」の主な改革に「人間力」の抜本的強化としての戦略の検討を掲げている。具体的には、「障害者の雇用・就業、自立を支援するため、在宅就労や地域における就労の支援、精神障害者の雇用促進、地域生活支援のためのハード・ソフトを含めた基盤整備等の施策について法的整備を含め充実強化を図る。」としている。

一方、平成13年12月に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」において心身障害者福祉協会は独立行政法人とすることが決定された。これを受け、平成14年の8月には厚生労働省障害保健福祉部に「国立コロニー独立行政法人化検討委員会」が設置され17回にわたる議論があった。

結果として、平成15年10月1日には新法人として「独立行政法人重度知的障害者総合施設国立のぞみの園」が設立されたのである。その際、厚生労働大臣から示された中期目標は、その期間を15年10月から20年3月までの間とし、この間に入所者数を3割から4割に縮減することが示された。利用者の支援目標として「自立のための先導的かつ総合的な支援の提供」と「地域で暮らせるための受け入れ態勢の整備」を掲げ、従来の「保護及び指導」を中心とした支援目標からの転換が図られることになった。また一方の課題は効率的な業務運営体制の確立として、「柔軟な組織編成」「内部進行管理の充実」とともに、「業務運営の効率化に伴う経費節減」として、最終年度には13%以上の節減が求められているところである。

現在利用者の平均在籍年数は30年で、平均年齢は55歳、最高年齢は84歳である。出身地は43都道府県にわたる。

地域移行の基本姿勢

独立行政法人となる以前は、地域生活移行推進本部(本部長:理事長)の下に、地域生活支援準備室を設置し、本格的な取り組みに備えていたが、平成15年10月の独立行政法人化を機に地域生活支援室を立ち上げた。さらに16年4月には組織再編を行い、施設部門を統合し、より一体的かつ効率的な運営を行うとともに地域生活移行への取り組みを充実強化するため、室を部へ昇格させるとともに、居住部門や作業支援部門を合わせ「総合施設」とした。その際、地域支援部に地域移行に専任で取り組む部門として地域移行課を設置し、推進体制を強化した。

地域移行課が事業を推進するうえで基本としているのは、次の4点である。

  1. 利用者の気持ちを大切にする
  2. 保護者の意向を尊重する
  3. 受け入れ先と連携を図る
  4. 必要に応じて再入所を認める

まず、この基本を踏まえ、次のような手順を移行の方針とした。

ア.地域生活への移行を推進するための内部の実施体制を整え、イ.職員研修会や実習等により職員の意識改革を図り、ウ.地方公共団体や関係団体等の各方面に対して、当法人の取り組み方針などの理解を深め、受け入れに関しての支援と協力を得ることができるように求める。エ.利用者本人や保護者の地域生活に関する理解を深めるように説明会などを実施し、オ.日常の個別支援では自立支援に向けての支援を行い、かつ施設内の宿舎や民間アパートを活用した地域生活の体験事業を実施する。これらの取り組みを通して、カ.関係地方自治体などの協力の下に、入所者一人ひとりについての移行プランを作成する。キ.また、調査研究の分野では地域生活への移行に視点を当てた調査や研究を実施する、こととした。

地域への移行者数については数値目標が示された当時、多くの関心が寄せられたが、現在は、数値はさることながら、プロセスに重きを置いた取り組み方をしている。入所者一人ひとりの意志や要望などに則した新しい支援目標に向けてどのような方法で方向転換をしていくのか、その求め方が重要である。支援目標を立て入所者のよりよい暮らしを想像しながら、具体的な支援を創造し、利用される方の意志が反映されるような支援をめざしている。

地域移行を進める体制

地域移行を実践する組織として、「地域移行課」が専門部署として設置されている。同課は、平成14年4月に施設内グループホーム等の業務を所掌していた企画研究部が設置した生活体験ホーム「あおぞら」を所掌した係に深淵がある。15年7月には専任の「地域生活準備室」が新設された。15年10月には「地域生活支援室」と改称され、「地域移行係」を新設し、平成16年度4月には「地域生活支援室」を「地域生活支援部」に昇格し、同部に設けられた「地域移行課」内に「地域移行係」が設けられ「生活体験室」がおかれた。

「地域移行係」は、利用者がよりよい暮らしをのぞみの園を離れて求める際、移行先を出身自治体周辺に求められるよう情報収集している。良い環境が見つかれば、その情報をご本人とご家族に提供し、移行についての判断を仰ぐ。少しでも可能性を感じてもらえれば、のぞみの園から利用者の方を移行先にお連れしたり、ご家族に案内をして積極的に関わりを持つようにしている。現在(平成17年5月31日)までで、当施設を離れて地域移行された方は9人である。地域生活と言えるグループホームを生活の場とした方もいるが、まずは家族との関係を求めて出身地周辺の施設に移り、そこから地域生活をめざす方もいる。

「生活体験室」は、個別な生活体験を支援として提供する業務を行っている。今まで寮の生活しか知らなかった利用者に個別な暮らしを体験していただき、暮らしに具体的なイメージを膨らましてもらう。「こんなふうに暮らしたい」という意欲を、体験によって持てるように働きかけるのである。また、のぞみの園を利用している方に移行課からの情報が入った時に、機会を逃さず関わっていただけるよう準備を整える面もある。体験室を利用したことで地域移行に結びついた方は現在2人である。

「生活体験室」の始まり

生活体験ホームの「あおぞら」は、職員宿舎を改良し、男・女5人ずつ10人の利用から取り組みが始まっている。また平成14年10月からは、小規模な単位(ユニット)で家庭的な生活環境の中での利用者の支援を、一つの寮を改築して行っている。25名定員のスペースを二つに区切り7人と8人のユニットにし、生活の質の向上を図りつつ地域生活への移行をめざした。こうした取り組みの延長戦として平成15年10月には一般の賃貸アパートを2戸借り上げ、地域での生活体験の場を増やす機会として用意した。名称は急逝されたユニット利用者の名前に因んで「まち」とした。当初は、ユニット所属の利用者が順次入れ替わりで体験を重ねていたが、平成16年5月からは、5人の方が長期の利用を開始している。

また、平成16年11月には、のぞみの園の敷地から3キロメートルほど離れた法人所有の敷地に地域生活体験ホームを用意した。2階建ての木造で、居室として7部屋の個室があり、共有スペースとして、1階にはオープンな70平方メートルのフロアと2階には12畳程の和室がある。建物全体は身体障害のある方も利用しやすいバリアフリーになっており、浴室には天井走行のリフトがあり、エレベーターも設置されている。因みにトイレは5つある。

平成16年11月より、今まで紹介した地域体験の事業を一括して事業展開するほうが適切であるとして、生活体験室の所管とした。生活体験室の体制を整えるにあたり、各事業所の名称を統一することとし、生活体験事業をオープンハウスと称し、事業所のある地名をつけた後に愛称をつけるようにした。まちはオープンハウス八千代「まち」となり、あおぞらホームはオープンハウス寺尾「あおぞら」とし、新たな場所はオープンハウス乗附「くるん」と名付けた。

利用定員枠は、当初10名だった「あおぞら」は、職員宿舎に新たに2部屋を確保して8名増員し18名に拡大した。「くるん」は、新規開設にあたり、5名の関わりから始めることにした。「まち」は、所管をユニットから移し替えるだけで定員の変動はなかった。

定員が拡充された「あおぞら」と「くるん」の利用者を選定するにあたって、利用者への説明会を開催し利用者を募った。説明会には149人が参加し、その場で、「いつから入居できるのか」「どのくらいの期間入居が可能なのか?」「支援内容はどんなものか」と言った質問があがった。説明会がこのように盛会となった背景には、「あおぞら」や「くるん」での宿泊体験事業の積み重ねがある。「あおぞら」では、空いていた部屋を活用し男女1人ずつが一泊から二泊の体験宿泊をしてきた。延べで200人の方が利用した。「くるん」では事業を始める前の準備として、各寮から職員の付き添いを伴って3人の方が同時に一泊の体験宿泊を行った。延べで148人の方が利用されている。この関わりにより、多くの方が新しい事業に関心を持ち、結果として体験事業の申し込みは80人の方から寄せられた。この方たちの中からご本人の意向を重視したうえで、家族の理解を調整し、今後の移行の可能性に向けても配慮しながら、12人の方を新たな利用者として迎えることとした。

新体制は10人の職員を中心に、昼間の関わりに4人、宿直に14人、計18人の非常勤の方との協働で、地域移行に向けて住まいの場を提供するようになった。3か所の事業所は3キロメートル四方の範囲の中に分散されている。それぞれのたたずまいの中で、それぞれの暮らしが新たに始まり、昼間は、すべての方がのぞみの園にある作業支援部に通っている。

今後は、体験事業の生活の質を維持向上させながら、それぞれの方の出身地周辺によりよい暮らしの場を探して事業所を求めていくことになる。現在、数人の方が具体的な移行先との情報交換を行っている。出身地が群馬県の方も数人おり、その調整にも取り組み始めている。

今後に向けて

今後行われる障害福祉制度の大幅な改正に伴って、現行の障害保健福祉サービス体系の再編が行われる見通しとなっている。当法人としても、引き続き「重度の知的障害者の自立支援」に軸足をおいた展開が要請されている。利用者にとって真に幸せにつながる地域生活への移行に向けて、新たな方向性に沿った役割や、機能を果たせるよう工夫と実践を重ねていく必要がある。どこまで辿り着けるかは未知数であるが、一人ひとりの幸せを考えた着実な歩みを進めていきたい。

(たなかまさひろ 国立のぞみの園地域支援部地域移行課長)