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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年6月号

施設の解体

船形コロニー解体宣言から2年半…

野内信夫

平成14年11月23日宮城県福祉事業団が発した「船形コロニー解体宣言」、昨年2月浅野宮城県知事による「みやぎ知的障害者施設解体宣言」、そして今年4月宮城県福祉事業団は宮城県社会福祉協議会と統合するなど、目まぐるしい動きがあった。

知事の解体宣言もあり、宮城県内入所施設の一部では入所定員の削減や通所部の併設、分場の設置、通所施設の開設、グループホームの新設・増設、地域生活支援センターの設置など、地域福祉に目を向けた動きが広がってきている。

船形コロニーでは、平成6年から地域移行の取り組みを開始し、7年にグループホームの設置及び自活訓練を開始した。8年から施設のあり方検討を継続的に行う一方で、9年に独自の事業として「障害の重い軽いに関わらずコロニー在籍のまま地域で暮らす」という自立訓練事業を創設、10年には地域生活支援センター「ぱれっと」を設置。自立訓練事業は、現在、地域移行のきわめて有効な手段になっている。

解体宣言は「2010年まで例外なく全員を対象に地域移行する」という内容であり、15~17年度の3か年で150人を目標に掲げ取り組んできたが、この2年間で173人がコロニーを退所し、5月現在、324人となっている。

1 地域移行の基本的考え

地域移行に際して、私たちが大切にしていることが三つある。

(1)故郷に近いところで暮らす

できるだけ家族に近い町(故郷)で暮らすことを基本に、県内全域でのグループホーム設置に取り組んでいる。この場合、コロニーが直接支援することはできないので、その近くにある他法人施設の協力を得ており、知的障害者の入所・通所施設のほか、特別養護・養護老人ホーム、救護施設、NPO法人など、バックアップ施設は多種にわたっている。他法人施設との連携は、これまでグループホームを設置していなかった施設がグループホームを運営することになり、さらに通所施設においてもグループホームの要望があり、コロニー利用者と在宅者が一緒になったグループホームもできている。また、重度・高齢の利用者にとって、介護や医療のノウハウと体制を整えている介護保険施設との連携は、地域で暮らす際にとても心強い味方であり、しかも障害者施設に比べてその数も圧倒的に多い。11か所の知的障害者のグループホームを支援するある特別養護老人ホームでは、この4月にデイサービスセンター機能のついた支援センターを開設した。

また、コロニーのショートステイ利用者についても、すでに認知症高齢者グループホームに移られた方、共生型グループホームへ近く移る方、ショートステイ利用者2人とコロニー利用者2人で6月にグループホームを開設する予定(通所授産施設と連携)など、船形コロニー解体宣言に伴う地域移行は浅野宮城県知事の宣言となり、県内全体の地域移行へと確実に広がりを見せている。

(2)より障害の重い方・高齢者から

コロニーでは、授産施設利用者から地域移行が始まり、9年の自立訓練事業開始を契機に更生施設の重度利用者の地域移行が始まった。

■グラフ1■は、解体宣言後の2年間で地域移行した利用者の障害区分(状況)を表したものである。113人のうち約8割が障害区分A以上で、16年度においては重度重複障害加算該当者8人が含まれている。

全盲、車いすの方はもちろん、寝たきりで電動ベッドとエアマット(床ずれ経験あり)を使用、食事のたびにむせるため吸引機(誤嚥性肺炎経験あり)を準備するとともに、オムツ使用、入浴は2人掛かり、食事形態は刻み・とろみ付きという状況で、昨年5月から地域生活をしている方がいる。引越し早々に肺炎で入院、その後も肺炎の疑いで通院・点滴をするなど心配したが、すぐ近くに高齢の母が住む町で地域生活を送っている。

また、施設での生活では昼夜に関わらず裸足で飛び出し、不眠・興奮、自販機前で座り込んでいた方が、この4月から地域生活を開始した(自宅がグループホーム、両親はすぐ隣で生活)。グループホームでは前記のようなこともなく、落ち着いた生活を送っており、施設での様子はまるで嘘のようである。

■グラフ2■は、グループホーム入居者の年齢状況を表しており、50歳以上の方が63%を占めており、最高年齢は83歳である。介護保険に該当する年齢であるが、まだまだ元気な方たちである。

このように障害の重い・高齢の方の地域移行を中心に展開している。

(3)安心・安全・豊かな地域生活を

障害の重い・高齢な方が安心して地域で生活するため、24時間世話人が常駐するグループホームが基本である。しかも、独自に9年から始めた自立訓練事業は、地域移行するうえで有効な手段になっている。これは、グループホームに切り替える数か月間を自立訓練として、事前に世話人を雇用、入居予定者・世話人・職員が一緒になり地域生活のトレーニングを行い、この期間は、本人はもちろんのこと、世話人の研修・養成期間として重要な役割を果たしている。

安全面では、万が一の火災に備え、台所や茶の間には簡易スプリンクラーを設置している。

豊かな生活という点では、日中活動をどうするかという前に、一人ひとりの生活をどうするかとの視点を大切に考えている。60歳を超えた方が、日中活動として毎日朝から夕方まで通所施設等に通うことが、果たしてよいことなのだろうか。社会資源を有効に活用しながら、もしなければ創り出しながら、ゆったり、のんびり、豊かに生活する、そのようなイメージである。あくまでも選択肢の一つとしての通所施設やデイサービスと考える。

2 地域移行の状況

■グラフ3■は、平成6年度から16年度までの退所者数と地域生活移行者数の推移を示したものである。

グループホーム・自活訓練を開始した(平成6~8年度)地域移行第1期は、毎年10人前後の退所で、授産施設利用者の地域移行に取り組み、独自に自立訓練を開始した平成9年度から解体宣言をした14年度までの第2期は、退所者数も20~30人に増え、更生施設利用者の地域移行が始まった。しかし、この間は入所待機者の受け入れを行い、定員は常に500名であった。

解体宣言後の15年度からは、セーフティネット機能を果たしながら基本的に新規入所者を受け入れず、地域移行を中心に展開し、2年間で173人の方が退所した。家庭復帰や単身生活者を除くと、15年度は13か所のグループホームで45人が、16年度は20か所のグループホームで63人が新たな生活に移行した。

このような取り組みの結果として、今年3月末で授産施設を廃止して更生施設に吸収し、更生施設(定員100名)の一つを閉鎖するとともに、隣接の入所更生施設「船形学園(県立)」の閉園に伴う19人を受け入れる。

3 あらためて解体宣言とは

船形コロニーは開設から32年になる。30年以上コロニーで生活している利用者が59人、毎年10人を超える方が病気で亡くなっている。このまま推移すれば、死亡退所だけで30年後には在籍数がゼロとなり、コロニー解体宣言が完結する。

さて、このまま30年後を待つのか、59人の方に対してこのうえさらに30年コロニーで生活してもらうのか、福祉の専門家として情けないと思うのである。「利用者一人ひとりの幸せの実現」、それが私たち本来の仕事であるはず、それが宣言の目的。そのために、手段としての地域移行・グループホームがあり、その取り組みの結果として施設が解体されていくのである。決して手段としてのグループホームや結果としての施設解体が目的ではない。

重度・高齢者の地域移行を推進するためには、現行のグループホームの制度では限界があり、新たな制度ができることを大いに期待するとともに、年金以外に収入のないグループホーム入居者が、応益負担によって経済的に地域生活が継続できなくなることがないことを願う。

(のうちのぶお 宮城県船形コロニー地域移行推進部)