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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年6月号

施設の解体

長野県西駒郷における地域生活への移行

山田優

長野県西駒郷は、昭和43年に知的障害児施設・知的障害者入所更生施設としての更生訓練部(190名)、翌年には知的障害者入所授産施設として生業部(100名・100名・50名の3寮)、昭和46年には重度知的障害者入所更生施設として保護部(60名)を開設し、長野県全域を対象とした総合援護施設として500名の知的障害者を受け入れてきた。以来、平成17年度までに1486名が入所し1158名が退所した。平成15年度からは新たな入所利用者を引き受けてはいない。

平成14年10月西駒郷改築検討委員会から提言を受け、実施計画となる西駒郷基本構想を発表して2年が経過した平成17年6月現在、西駒郷には314名が暮らし続けている。

提言は、「西駒郷は、ノーマライゼーションの理念に基づいて、知的障害者の地域生活を積極的に支援する施設として改築すべきである。」として、具体的に以下の4点を示した。

  1. ノーマライゼーションの理念から、全県域を対象とした長期入所型の大規模総合援護施設(コロニー)として改築すべきではないこと。
  2. 利用者の居住環境を早急に改善すること。
  3. 地域生活の支援体制を全県的に整備し、利用者の地域生活への移行を促進すること。
    また、地域生活への移行の促進に当たっては、利用者及び保護者の理解を得て進めるとともに、現在の利用者の援護の責任を保護者に転嫁することなく、県が責任を負うことを明確にする必要があること。
  4. 今後、入所施設を設置して直接サービスを提供する主体としての役割は、社会福祉法人に任せるべきで、県は社会福祉法人の支援、調整等の役割を担うべきであること。
    ただし、現在までの経過及び現状を踏まえ、当分の間は、県が引き続き上伊那圏域の入所施設の設置主体としての役割を継続することが必要であること。

これを受けて、西駒郷の基本構想では、

1に対して、利用者の意向・家族の希望を聞きながら、地域生活への移行を積極的に進め、5年間で250人程度の地域生活移行が実現できるよう努め、5年後の在籍者を190名程度とする地域生活移行推進プランを掲げたこと。

2に対して、当面60人程度の地域生活移行を促す機能を有する居住棟1棟を建築して、既存建物の4名定員の解消・改修による居住環境を改善すること。

3に対して、利用者の意向を尊重して、住まいの場であるグループホームへの設備費補助、働く場となる通所施設整備への補助、相談支援体制として障害者総合支援センターを全県域に配備することとし、安心して地域生活が持続されるよう、基盤整備を図ることとした。また、地域生活への移行に際しては、県が責任を負うとしていつでも再入所できることを明示した。

4に対して、県は指定管理者制度に基づき、支援の継続性の観点から社会福祉法人長野県社会福祉事業団に運営の委託を行うこととした。

地域生活への移行の取り組みから

地域生活への移行を進める前提は、利用者の意向が最優先されなければならない。家族の希望はその次に位置すると捉えている。支援費制度から障害者自立支援法へと障害者福祉の大改正が行われようとしているが、サービスの契約の主体は利用者であり続けなければならない。

西駒郷で最初に取りかかったことは、個別聴き取り調査による利用者の意向及び家族の希望の把握である。調査は毎年実施しており、直近の調査結果は、図1、図2のとおりである。

図1 H16.11聞き取り調査(本人の意向)370人のまとめ

図2 H16.11聴き取り調査(家族の希望)370家族のまとめ

推進プラン2年間での地域生活への移行経過は、図3のとおりである。

図3 西駒郷利用者の地域生活移行の状況について

年度 14年度 15年度 16年度 17年度
(予定)
西駒郷基本構想による地域生活移行計画者数 32 65 65  
グループ 人数 11 24 66 65
ホーム か所数 2か所 7か所 27か所 25か所
アパート・生活寮  
家庭  
小計 17 29 71 65
他施設  
その他  
25 35 81 65


  15年4月1日現在 16年4月1日現在 17年4月1日現在 18年4月1日予定
利用者数 441 406 326 261

2年間の経過から浮かぶ課題

これまで、基本構想で策定した地域移行者数にほぼ沿って利用者が地域生活へ移行している。新たな入所者は再入所した1名だけである。

西駒郷では、指定管理者制度に基づく運営移譲と並行して、全体の半数を占めていた県職員を、事業団にノウハウを伝えながら数年かけて引き上げている。こうした職員人事への配慮は、県立だから可能であったとしても、民間法人施設が積極的に地域生活への移行に伴う事業変換には、地域生活への移行と同時に通所授産施設を設置、あるいは通所部の併設等によって職員の配置転換を図るなど工夫が必要になってくる。長野県ではそのための整備費補助も平成16年度に行っている。国がノーマライゼーションの推進を国是として推進するならば、入所施設から地域生活への移行過程への具体的な支援施策が必要になるだろう。

100名を超えた利用者減は、全国の平均的な入所更生施設2か所分の規模であり、その施設職員は約60名である。しかし、定員が減ることで、居室が4名から3名また2名と減少して利用者の居住性は良くなるが、交代勤務を行う施設職員の最低配置数を減らすことはできない。経営的なスケールメリット効果を生かすには、寮を閉鎖して、交代勤務のクルーの編成をしなおすしかない。地域生活移行に伴う入所施設の居住性改善は困難である。

こうした移行過程に対する支援費は、移行前段階では敷地内外での自立支援事業を活用することで有効に機能すると思われるが、移行後の支援施策は退所時特別加算は移行に伴う相談・調整1回と移行後30日以内の支援1回、各2万2000円でしかない。西駒郷でのアフターケア事例では、移行期には受け入れ法人施設・地方事務所・市町村・総合支援センターなど関係機関と数回の調整が必要であり、移行後のアフターケアでも数回現地まで出向いている。こうした支援が長期間必要とは思わない。移行期に集中的に手厚いフォローアップが必要なのである。地域生活が安定する3か月から半年程度の地域生活移行期援助加算など地域生活への安定化誘導施策を求めたい。

西駒郷がこれまで地域生活への移行が進んだ背景には、県が全面的に責任を負う裏付けとなる具体的な予算措置を講じたことにある(図4)。

図4 グループホーム整備・運営に関する 平成17年度施策の一例

障害者グループホーム等整備事業

地域での生活を望む障害者の自律生活を支援するため、グループホームの新設や改修に係る費用に対して助成します。

【精神】
補助率 県1/2 市町村1/4 設置主体1/4
補助基準額 157,800円×23.3㎡×定員
   対象経費上限 新築2,000万円 改修1,000万円
   環境改善 100万円
【知的】
補助率 県1/2 設置主体1/2
(一部 県2/3 設置主体1/3)
補助基準額 157,800円×23.3㎡×定員
(定員5人の場合の県の補助額は9,191,000円)
   対象経費上限 新築2,000万円 改修1,000万円

重症心身障害者等グループホーム運営事業

重症心身障害者等、重度の知的障害者がグループホームで生活するために必要な職員が配置できるよう、支援費基準額に加算して運営費を助成します。

補助率 1/2 (県1/2 市町村1/2)
対象者 (A)歩行不能の肢体不自由とIQ35以下の重度知的障害の重複障害者で、医療的ケアを必要とする者
(B)ナイトケアなど手厚い支援が必要な重度知的障害者
補助額 (A)入居者一人につき126,160円/月
(B)入居者一人につき 85,790円/月

また、当初西駒郷の取り組みが民間入所施設のあり方にも影響を及ぼすのではないかと想定していたものの、予想以上に民間施設でも地域生活への移行が広がった要因は、グループホーム整備費補助金と考えられる(図5)。

図5 県内の入所施設からの地域生活移行の状況

区分 16年度(見込) 17年度(予定) 備考
西駒郷 71 65 他の施設の状況についてはH17年2月に調査
他施設 67 51  
138 116  

長野県でのここ数年のグループホーム設置数は図6のとおりである。西駒郷の取り組みが急激なグループホーム設置増加の誘因となっている。

図6 グループホーム年度別設置数

年度 10 11 12 13 14 15 16 17(予定)
指定数 24 48 48
累計 23 25 28 32 38 62 110 152
定員 95 104 118 138 166 275 495 684

※ H14年度 施設整備補助事業創設
※ H15年度 支援費制度

地域生活への移行は長野県全下に及ぶことから、移行段階・移行後のフォローを含めた支援体制を張り巡らす必要性があった。

長期間入所し続けた利用者が、念願のグループホーム暮らしを確保したとき、「夢がかなう」ことと「現実の生活」との乖離は、自活訓練事業(数週間~1年以上)や自律生活体験事業(数日間グループホームに同居する人たちと共同生活体験をする・県単独事業)という移行ステップを踏んだとしても、すぐに解決されるものではない。ヘルプコールに迅速に対応するために、障害児・知的・精神・身体各コーディネーター、生活支援ワーカー、就労支援ワーカーを揃えた三障害の相談窓口である障害者総合支援センターを、長野県10圏域すべてに配置したのは平成16年10月だった。

動機付けは西駒郷であっても、結果的に在宅障害者の相談支援機能として手厚い支援体制を配置することになった。

地域生活への移行111人の障害程度は、重度39人・中度46人・軽度26人となっているが、最重度といわれる常時支援が必要な人たちの実績はまだない。

これまで地域生活への移行対象としてきた利用者約250人は、「西駒郷を出たい」と意思表示した人たちである。では、最重度の利用者「意思表示困難」約120人に対する地域生活への移行アプローチをどのように進めていけばよいか。

今年度から4名入居の自活体験棟を用意して2週間程度の体験を行っている。どの程度の支援スタッフが必要か。日中活動はどのように用意していくか。何よりも、本人の意向をどう受け止め、この成果をどのように生かしていくか。家族にどのように伝え理解を促していくか。この領域は未知数であり、普遍化にまで至っていない。

しかし、最重度の人たちに、「故郷に帰っておいで」と受け皿となるグループホームを新築し、支援を名乗り出る団体・職員にも出会うとき、改めて、最も基本的な支援理念は、個別支援からの積み重ねであると再確認せざるを得ない。

地域生活支援に取り組もうとする者は、30数年間の閉ざされた時間を直視すれば、条件が整っていないという言い訳や他力に依存するのではなく、自力を含め作り出す工夫と行動しか許されていない。

(やまだまさる 西駒郷地域生活支援センター所長)