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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年6月号

民間における実践

家族と暮らす障害のある人のグループホーム

松田裕次郎

『体験型グループホーム』がめざすのは「家から地域へ」という取り組みです。今まで、本人の意志にかかわらず、家庭で面倒を見ることができなくなった後、一番安心して暮らせる場所は入所施設であると考え、入所施設しか選択肢がありませんでした。本人がどこで生活したいのかを考えた時、ほとんどの家族の方は本人が家で生活することが一番だと考えています。しかし、家族という支援者のいない家での生活はおそらく想像できなかったと思います。障害のある人が地域の中で暮らすための制度があり、支援者がいる中で地域生活が思うように進んでいかないのは入所施設という箱があり、その箱には安心という宝が入っているという思い込みがあるからです。地域で生活するためのグループホームにも入所施設と同じように、箱があり専門のスタッフが支援している状況の中で地域福祉が進まないのは、箱の厚みや敷地の広さの問題だけではない。もっと障害のある人が地域で生活するために必要なスタッフの専門性とか、個別支援計画とか、どんな支援をするとその人らしく生活することができるのかを考え、議論する必要があるのではないかと考えます。入所施設と地域生活が同じ土俵で考えられるようなムーブメントを起こすのがこの事業の取り組みです。

「家から地域へ」の取り組みの一つとして、平成13年から滋賀県社会福祉事業団企画事業部が甲賀福祉圏域で実施した『地域生活体験モデル事業』は、家族と暮らす障害のある人がグループホームや一人暮らしなどを始める前に、地域の中で自立した生活を実際に体験してもらう機会を1泊2日から用意し、本人がグループホームなど地域生活を営むうえで、どのような援助がどれだけ必要かを見極め、その検証を行うことにありました。また、この地域生活体験事業は県内の草津市育成会、守山市・野洲市体験事業運営委員会、東近江体験モデル事業運営委員会などを運営主体として県内各地で事業展開されています。また、全国各地でこのような取り組みがなされています。

『体験型グループホーム』は、これまで甲賀福祉圏域で実施してきた『地域生活体験モデル事業』をバージョンアップさせ、3か月の入居期間、世話人を中心とした支援、支援費での事業ということを柱に、障害のある人の自立意欲と生活技術を高め、地域生活に移行するための準備と経験を積む事業です。入居期間中に、障害のある人がグループホームの生活を経験すると同時に、家族も本人が家にいない生活を体験してもらうことで、将来、家族で面倒を見ることができなくなった時、障害のある人の生活の場としてグループホームが選択肢として具体的にイメージできるのではないかと考えます。この体験型グループホームのスタッフは、直接支援する世話人と個別支援計画の作成やグループホーム全般のコーディネートをするバックアップ支援スタッフ、宿直や世話人補助としてかかわるボランティアスタッフがいます。3か月間のグループホーム生活の体験をするために、個別支援計画を作成し、どこまで支援できるのか、どのような支援が必要なのかを考えます。入居当初は、バックアップ支援スタッフが入居者の生活を把握するために朝、夕ホームを訪問し、世話人と支援方法を検討し、場合によっては専門家や関係機関と連携しながら個別支援計画の修正を行い、その後は1か月ごとに個別支援計画を見直していきます。

体験型グループホームの一番多い利用は、平日はグループホームから職場や作業施設に出勤し、土日には自宅に帰り家族と暮らす、というパターンです。家族はグループホームで暮らしている本人の様子を土日に家庭で確認でき、平日の様子をうかがい知ることもできます。また、本人も土日に自宅で過ごすことで自宅に帰ることができるという安心感をもつことができます。グループホームの生活に慣れてきたら、土日もホームで過ごすという利用もあります。もちろん、初めから土日もグループホームで過ごされる場合もあります。あくまでも本人の希望や状況により利用方法を考えていきます。体験型の利用方法も含め、個別支援計画を作成して、3か月間グループホームで暮らせることができるよう支援をします。

この3か月の体験型グループホームの入居後には、障害のある人が家族と生活できなくなった時、どこで生活すると本人らしく生きられるのかを考えて生活の場を選択できるようになると考えています。グループホームで暮らした経験を積むことで、家族が入所施設にしか安心感を求められないという状況から、グループホームなどで暮らす地域生活に現実味のある一つの選択肢として存在することを体で感じてもらうことができるのではないかと思います。

(まつだゆうじろう 滋賀県社会福祉事業団企画事業部)