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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年6月号

わがまちの障害者計画 埼玉県新座市

新座市長 須田健治(すだけんじ)氏に聞く
すべての市民が積極的に社会参加できるまちづくりの実現

聞き手:小野隆(おのたかし)
(日本障害者協議会事務局長、本誌編集委員)


埼玉県新座市基礎データ

◆面積:22.80平方キロメートル
◆人口:152,527人(平成17年4月1日現在)
◆障がい者の状況(平成17年4月1日現在)
身体障がい者手帳保有者 3,252人
(知的障がい)療育手帳保有者 519人
精神障がい者保健福祉手帳保有者 413人
◆新座市の概況:
埼玉県の最南端、地域の半分が東京都に接し、都心から25キロメートルに位置する住宅都市。野火止用水・雑木林などの自然を保全し、自然環境と都市環境が調和したまちをめざす。
◆問い合わせ:
新座市福祉健康部障がい者福祉課
〒352―8623 新座市野火止1―1―1
TEL 048―477―1111(代) FAX 048―479―1600

▼新座市はどのようなまちづくりを基本に据えながら、「障がい」のある人の地域生活支援をお考えでしょうか。

障がい者に対する地域生活支援への取り組みは、まず、地方自治体として市民の皆さんにこのまちに住んで良かったと思えるまちをつくることが第一の目標だと思っています。市政を預かる責任者として、市民の皆さんからお預かりした税金をどう活用して、施策を展開しまちづくりをしていくか、このことに尽きると思います。教育、福祉、文化、都市計画、地域安全、市民参加、コミュニティなどさまざまな分野がありますが、特に福祉の分野に関しては、少子高齢社会への対応が急務だと考えています。

障がい者施策に関しては、「新座市障がい者計画」を策定しています。これは障がい者施策における市の行政基本計画であるとともに、市民・企業・各種団体等にとっての取り組み指針です。基本目標は「たとえ障がいがあっても分け隔てられることなく、すべての市民が、このまちに住み続け、そして積極的に社会参加できる地域社会の実現」をめざしています。

▼4月から「共に暮らすための新座市障がい者基本条例」を施行されましたが、施行に至る経緯、目的、内容などについてお聞かせください。

平成13年度から17年度までの5年間、市の障がい者計画を策定し、それに基づいて施策展開を行ってきました。「共に暮らすまちづくり」を具体化するものとして、「新座市障がい者基本条例」を制定しました。

策定に関しては、広く関係者の意見を反映するために、障がい者、学識経験者、施設関係事業者などで構成される「新座市障がい者計画推進協議会」を昨年の2月に立ち上げて、検討・意見交換を重ねました。この条例は市の障がい者支援に対する基本的な姿勢を示すものです。市では平成14年に全国で2番目に、「新座市パブリック・コメント手続条例」を制定していましたので、この条例に基づいて市民の方々の意見などを経て、今年の3月に市議会で議決され、4月1日から施行しました。

▼「共に暮らすための新座市障がい者基本条例」は、国の「障害者差別禁止法」よりも進んだ「障がい者の範囲」を具体的に明記して、「身体障がい、知的障がい、精神障がい、てんかん、自閉症、その他の発達障害又は難病に起因する身体若しくは精神上の障がいがあるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう」と規定されていますね。

地方からの発言は特に福祉行政では大切です。「霞ヶ関」での協議内容と実際に地域で生活している人との間で意識などがかけ離れていてはミスマッチを起こす、これでは困ります。「現場の状況を認識する」現場主義は大切で、市民がどういう問題に悩み、課題は何か、どういう形の支援を行ったら「共に生きる地域社会」ができるのかの視点が必要です。私たち行政側もそのために、現場での問題・課題の解決に向けて障がいのある方の声をくみ上げているところです。そのうえで市民の意識を高め、障がいをもつ人の支援を考えています。現在、国がどのようにして障害者自立支援法等でこれらの声に耳を傾け、声をくみ上げていこうとしているのか関心のあるところです。現場の声を吸い上げた法律にしてもらいたいという願いがあり、その実践例としてこの「条例」をつくりました。

内容は新座市の地域性や障がい者支援施策、計画等の進捗状況を考慮して、障がい者の支援について、基本的な理念を定め、市、市民及び事業者の責務を明らかにし、市が実施する施策の基本的事項を定めることにより、障がい者の自立と社会参加を促進できる地域社会の実現をめざすことを明文化し、盛り込みました。

なお、本条例では「障害者」の「害」の字を「がい」と表記しました。これは人権尊重の観点から考えて、市が率先して少しでも「障がい者」に対して不快感を与えないように配慮したものです。

▼「新座市障がい者就労支援センター」は、市独自の取り組みが生かされているようですね。

本市の「障がい者就労支援センター」は平成12年12月にスタートしました。公設公営で職業訓練施設をもたない支援センターで、市庁舎の1階に設置し庁舎内職場実習を行っています。市役所は毎日いろいろな市民の方がいらっしゃいますから、あいさつをしたり、お客さんが来た時の接し方など、社会性の常識を身に付ける機会にもなっています。また、市民の方々には障がいのある方の働く姿を見ていただくことで、理解や関心をもっていただいたりすることができます。このようなかたちの「就労支援センター」は埼玉県下では初めての試みであり、全国的にも珍しいと思います。障がい者への就労支援と同時に市内事業者の理解と協力を求め、さらには障がいのある方の働く力や意欲を知っていただくための啓発活動にもなっていると思います。

本市の「新座市障がい者就労支援センター」の運営については、共に暮らすための障がい者基本条例の『社会参加の推進』『バリアフリーの推進』などにあたります。

また、行政だけで地域生活支援のしくみをつくるのは困難です。市民や事業所の方々にも協力していただき共につくりあげる地域づくりが大切だと考えています。

障がいのある方自身もできる限り自分の力に応じて社会参加を果たしていくことが大切だと考えています。そのために、どんなことが可能かを市民や事業者の方の協力を得ながら探していくことも大切なことです。みんなで力を合わせて、「共に生きる地域社会」をつくることに、この就労支援センターは大きな啓発の役割を果たしていると思います。

▼就労支援センターに登録されている方は、どのようなところで働いているのですか。

就労支援センターに登録されている方の中には、企業や事業所で就労している方、市内の授産施設等に福祉的就労として通所されている方がいます。

企業や事業所での就労については、就労支援センターの運営において難しい面もありますが、市内事業所への雇用に結びつく例も増えていますので明るい展望を持ちつつ行っています。さらに、就労支援センターから仕事に就いたものの上手く定着できない人もいるのは事実ですが、これは失敗ではないと思います。そこで得た社会経験がのちの生活にプラスとなり、さらに違うチャンスに取り組むための動機になると考えています。

また、授産施設等へ福祉的就労されている方には、市内での公園施設の清掃等の仕事をしていただいています。

地域生活を送るうえでの所得保障は働くことで生活の糧の一部を得ていくことも大切と考えまして、国に最低賃金の適用除外を柱とした雇用を進めていく経済特区の申請をし、障がい者の働く場の拡大を考えました。残念ながら申請は却下されましたが、障がい者と最賃問題は再考に値する課題だと思っています。働くことには賃金を得る以外に社会生活のために得がたいものがあるのですから。

▼就労支援のほかにはどのような施策がありますか。

今後さらに充実したいと考えているのは、「障がい」をもつ人に対する相談機能の充実です。親亡き後の問題と言われますが、成年後見制度や権利擁護事業の支援体制づくりや地域社会との連携を図りながら、心配のない安心して住めるまちづくりも求められます。また、行政の目の届かないところは、地域の力を借りてきめ細かい支援を行うことが必要になってきます。

これは、障がい者だけでなく高齢者の方の問題も含めていますが、地域の人たちが互いに支えあおうという意識を持っていただくことになり、本当の地域社会づくりのひとつの基礎になるのではないかと考えております。

▼障がい者施策を含め福祉施策の大きな転換期にあたりこれからの市政の在り方について、市長のお考えをお聞かせください。

地域社会づくりが大きなテーマになりますが、その課題は「少子高齢社会」へのソフトランディングをどうするか、ということでしょう。税負担者が減り、福祉や年金・医療サービス等を受ける人が増加しますが、税収の伸びはあまり期待できません。本市としては、税収の増加をはかるためにも豊かなまちづくり「観光都市新座のまちづくり」をすすめることを考えています。厳しい財政の中にあっても、人間の生活の基となる福祉施策の充実はないがしろにできない大きな課題であり、行政の舵取りは難しいところに来ています。高齢者福祉、障がい者福祉の充実を図りながら、都市基盤整備作り、地域コミュニティでのふれあいの輪を広げ、新座に住む約4200人の障がい当事者の方々が、「新座市に住んで良かった」と思っていただけるやさしいまちづくりをめざしていきたいと思っています。

▼今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。