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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年6月号

障害者自立支援法案をめぐって

施設体系にみる住まい・生活の場

小林繁市

はじめに

「障害者自立支援法案」の国会審議が4月26日より衆議院で始まりました。この理念は、「地域に住む人が、障害者の有無、老若男女を問わず、自然に交わり、支え合うまちづくり」すなわち「地域福祉の実現」をめざしています。

障害のある人たちの「住まい・暮らしの場」についても、「障害福祉サービス体系」の再編が提案されています。この改革によって、障害者の暮らしは良くなるのでしょうか。また最大の課題となっている地域移行は進むのでしょうか。そんな視点から、障害者自立支援法における「住まい・生活の場」について、現場の生活実態と支援実態を踏まえて検証します。

新たな施設体系「住まい・生活の場」の方向

これまで障害のある人たちの生活の場については、更生施設、授産施設、療護施設等の入所施設と、グループホーム、福祉ホーム、生活訓練施設等の居住支援サービスがあり、それぞれが身体障害、知的障害、精神障害と種別ごとに分かれていました。

新たな施設体系においては、これまで別に扱われていた精神障害も含めて、障害の種別にかかわりなく三障害共通のサービスとなります。

入所施設は、「障害者支援施設」として一元化し、障害者の自立支援を目的とした共通の制度となり、昼と夜のサービスを分離しての利用が可能となって、さまざまな事業を組み合わせてニーズや適性に応じたサービス提供を行うことができるようになります。

また居住支援サービスについては、現行の「グループホーム」「通勤寮」「福祉ホーム」の3類型から、新体系として個別給付としての「ケアホーム(共同生活介護)」「グループホーム(共同生活援助)」、地域生活支援事業としての「福祉ホーム(住宅提供)」、「居住サポート事業(障害保健福祉圏域ごとに体制確保)」の4類型に変わります。通勤寮はなくなり、これまでのグループホームは、共同生活を営むのに支障のない人を対象とするグループホームと、入浴や食事などの介護を必要とする人を対象にしたケアホームの二つのタイプに分かれます。またグループホームを出て、地域で一人暮らしを希望する人たちのための住宅対策として福祉ホームが位置づけられ、さらに地域で暮らす精神障害者を支援するための新規事業として、本人や住宅提供している家主からの相談に24時間体制で対応する居住サポート事業が新たに創設されます。

住まい・生活の場の検証~現場の生活・支援実態を踏まえて~

宮城県の施設解体宣言に見られるように、知的障害者の生活の場については、かつての入所施設中心の支援から地域生活へと、大きく流れが変わってきました。また支援費制度によって居宅系のサービスが大きく拡充されてきています。新たな制度改革で、地域移行や地域生活支援の基盤整備はさらに進んでいくのでしょうか。期待と不安が交錯する中で、北海道・伊達市の状況を踏まえて、課題を明らかにしていきたいと思います。

(1)入所施設~新制度による地域移行への不安~

伊達市には、入所定員320人の知的障害者総合援護施設「太陽の園」があります。太陽の園の入所定員は、当初400人でしたが、地域移行の流れの中で、平成16年4月に40人、平成17年4月に40人、計80人の定員減を図り、さらに10月には20人の定員減が予定されています。太陽の園から地域へ移行する人たちのほとんどは市街地のグループホームで生活し、そこから新たに拡充された太陽の園の通所施設等に通うことになります。言わば「職住分離」の方向です。また、北海道ではすぐにグループホームに移れない人たちのための地域移行対策として、北海道特区による施設に在籍のまま地域生活を体験する「障害者入所施設の小規模サテライト」制度を17年4月からスタートさせました。太陽の園では35人がこの制度の対象になっていますが、この期間は3年間が限度ですので、これらの人たちについては3年以内に地域生活に移行するここになり、さらに入所定員を減じることになります。

ところがこのような地域移行の取り組みに対して、自立支援法の中身が明らかになるにつれて、次のような不安や疑問の声が本人や家族から寄せられるようになりました。

◆利用者負担が増えたら、グループホームで暮らせなくなるのではないか

最近の入所施設の重度化、高齢化の中で、地域移行の対象者は、ほとんどが企業就労が困難な通所施設の対象者です。従ってこれらの人たちの収入は、ほとんどが障害基礎年金のみとなっています。生活保護以下の年金収入から、さらにグループホームや通所施設の利用料を負担するという新たな制度を考えると、地域移行を進めるというこれまでの考え方を軌道修正する必要があるのではないか。

◆入所施設の利用料が増えて、地域移行の準備金が用意できない

新たに地域生活を始めるにあたっては、住宅を借りるための敷金や前家賃、また家具や調理器具などを購入する準備資金が必要になります。これまでは、施設に入所している間に、資金を貯めることができましたが、今後の入所施設における大幅な利用料の負担増によって、本人の力で準備金を確保することができなくなります。

◆地域生活費の不足を補うために貯めた預金はすべて利用料負担に

かつての入所施設は利用料負担が低く、長年入所していると一定額の貯金ができました。これまで年金だけの低収入でも地域移行ができたのは、地域生活費の不足分を預金を取り崩して補うことができたからです。しかし、今後は預金があると入所施設やグループホームでの個別減免措置の対象外となり、預金がなくなるまで定額の利用料を払うことになります。地域生活のための預金をもつことは許されなくなりました。

こうした意見が多くなるにつれて、地域移行に対する不安が広がってきています。自立支援法の施設体系・事業体系の見直しの最大のテーマは、入所期間の長期化を解消し、就労移行支援や地域生活への移行を実現することにあるはずですが、こうした現場の状況をみると、明らかに理念に逆行しているのではないか、そんな思いが強くなります。

(2)通勤寮~制度がなくなって、この機能をどこが引き継ぐのか~

伊達市には入寮定員20人の知的障害者通勤寮「伊達市地域生活支援センター」があります。この4月に、センターは高等養護学校より4人、入所施設より3人、在宅より1人、計8人の新規入寮者を受け入れました。入寮期間は2年間が原則です。

制度改革によって、通勤寮は平成18年10月より、概ね5年間の経過期間をもって、他の居住支援サービスに移行することになります。通勤寮がなくなるということを聞いて、あわてて最初に飛んで来たのが高等養護学校の進路の先生方でした。全国の高等養護学校卒業生のうち約2割の人たちは、一般企業に就職しています。一般の高校生であっても、3年以内に7割が離職するという実態の中で、知的障害のある人たちの18歳での就職は、あまりにも苛酷な状況です。それだけに一定期間の生活と就業の一体的支援を行う通勤寮のような場が絶対に必要なのです。また入所施設から地域生活への移行、家庭から独立するための自活訓練、さらに地域生活者の支援拠点として、これまで通勤寮の果たしてきた役割は極めて大きいものがあります。通勤寮がなくなって、今後これらの機能をどこが担っていくのか、関係者の不安が大きく広がってきています。

(3)グループホーム・ケアホーム~程度別に分けるよりも、共に支え合う方向で~

伊達市には、全部で32か所のグループホームがあり、190人が生活しています。このうち、宿直を伴う24時間対応型グループホームは12か所、宿直を伴わない通勤型グループホームが20か所です。宿直型グループホームは障害の重い人たちが多く入居していますが、必ずしも重い人たちだけで生活しているわけではありません。障害の程度ではなく、気の合った仲間同士で暮らすということが重要なのです。しかし、今度の制度改革によって、平成18年10月から原則的には障害の軽い人はグループホーム、重い人はケアホームに分けられることになりました。

障害者自立支援法は、年令や障害程度、種別を越えた「障害保健福祉の総合化」を基本としています。にもかかわらず、グループホームだけは障害の程度によって、グループホームとケアホームの2種別に分けられます。これは明らかに自立支援法の理念に反しており、障害の重い人も軽い人も共に助け合って暮らせる、これまでのグループホームの良さを絶対に残すべきだと思います。

伊達市では、グループホーム生活者の55%が通所施設に通っています。これまでのグループホーム入居者の、利用料負担はありませんでした。しかし、応益負担によって、今後はグループホームも利用料を負担することになり、さらにグループホームから通所施設に通っている人たちは、通所施設の利用料と昼食代が加算されることになります。障害基礎年金だけで暮らしている人たちにとって、これらの負担は極めて厳しいものがあり、地域生活そのものを断念して、再び施設に戻らざるを得ない人も出て来ると言われています。低所得者や手厚いケアの必要な人たちに対しても、安心して地域生活が継続できるよう、利用料の減免や補足給付など、徹底した配慮が必要です。

(4)単身生活者や結婚生活者の暮らし~生活支援ワーカーがいなくなることへの不安~

伊達市地域生活支援センターは、アパート等で暮らす単身生活者44人、結婚生活者26人、計70人を生活支援ワーカーが中心となって支えています。ところが新たな制度になると、生活支援事業制度はなくなるといわれています。

グループホームを利用している人たちの中には、一人暮らしや結婚生活を望んでいる人たちも数多くいます。しかし自立後の暮らしを支える仕組みがなくなれば、グループホームからの自立は完全にストップしてしまいます。

これらの人たちの支援について、新たに創出される居住サポート事業へ位置付けるということも考えられますが、この事業の守備範囲が障害保健福祉圏域と広範囲であり、身近な日々の相談や支援は困難であると思われます。現行の通勤寮等を地域生活支援の拠点に位置付け、生活支援ワーカーや就労支援ワーカーを配置して、24時間にわたって暮らしや就労を支援するサポート体制の確立が必要だと思います。

さいごに

今回の改革の最大の欠陥は、「所得保障がないままに応益負担が導入される」ことにあります。一般就労の困難な障害の重い人たちの多くは、収入のすべてを障害基礎年金に頼っています。しかもこの年金額は、生活保護基準にも満たない実態です。こうしたことから2000年の社会福祉法改正当時の検討によって、「障害者の所得・就労状況を踏まえて必要なサービスが受けられる」ように応能負担が採用された経緯があります。ところが、当時の状況と全く変わらないままに、応益負担が導入されようとしています。制度改正によって、地域生活の継続が困難になって再び入所施設に戻らざるを得なくなったり、生活保護者が増加したり、家族からの自立が阻害されたり、施設から地域への移行が困難になるとすれば、これはだれのための、何のための改革なのでしょうか。自立支援法は、障害者が地域で自立して生きていけるように支援するのが本来の趣旨のはずです。それが、かえって自立を阻害するということになるのでは、まさに元も子もなくしてしまうのではないか。不安や疑問が広がる現場の状況をみて、そんな思いが日増しに強くなって来ています。

(こばやししげいち 伊達市地域生活支援センター所長)