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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年7月号

ほんの森

峰島厚・白沢仁・多田薫編
障害者福祉制度改革 なにが問題か

評者 松本誠司

20世紀最後にある障害者福祉の関係者は、その書の中で「霧の中の障害者福祉」と表現していた。さて、新世紀になって、霧は晴れたのだろうか。

福祉の「基礎構造改革」によって、措置制度が廃止された。障害者福祉の制度を介護保険と統合への動きが強まった。しかし、被保険者拡大にはいろいろな立場からの反対の声が大きく、それは先送りとなった。04年10月12日社会保障審議会障害者部会に「今後の障害保健福祉施策について~改革のグランドデザイン(案)」が発表され、議論どころか周知すらされない翌05年2月10日には「障害者自立支援法案」が国会に上程された。そして、5月の連休の前後より、審議が始まると同時に本書が刊行された。

本書を一言でいうと「障害者福祉制度改革なにが問題か」の名が示すように、20世紀から世紀をまたぐかたちですすめられている今回の「改革」を「私たちのねがい」というスケールで検証しているといえるだろう。

本書は、大きく3部構成となっている。1では、障害者自立支援法で『何がどう変わるのか』と『公費負担医療見直し』という総論的な問題点と課題が明らかにされている。

2は、『日中活動の場、就労支援体系』『暮らしの場、居住支援体系』という働く場と暮らす場における支援について、制度改革の課題を明らかにしている。私は、『「脱施設」は、「施設解体」ということばと結びつけて考えがちですが、「施設から出せばいい」「施設はなくせばいい」というような短絡的で破壊的な施策ではなくて、地域に暮らしの場と生活支援の機能を質量ともにきちんと準備し、財政的・現実的裏づけをともなう、「ていねいな移行」であるべきです。』という一文に感銘を受けた。

3は、『「三位一体」改革と障害者福祉改革』『今、障害者・家族が求める社会的支援』『障害者福祉施策の必須課題と障害者運動の今後』と、改革の背景と当事者のねがい、その実現の運動の課題が網羅的に書かれている。

私は、本書を制度改革への賛否の議論への参考書としてでなく、21世紀の日本における障害者・家族の置かれた実態と解決すべき課題を再確認する一つのツールとして一読を奨めるものである。

(まつもとせいじ 高知市・あさひ共同作業所)