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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年8月号

無年金障害者救済法の実現のまとめ

八代英太

私が参議院議員に初当選した1977年当時は、まだ障害者の所得保障問題は、政治の場ではほとんど議論がされていなかった。当時は、障害者の生活手当てとして福祉年金があり、障害者等級、1級に月額3万円、2級に2万円が決められていた。これでは、所得保障にはほど遠く、障害者福祉全体が施設収容中心でもあり、自立への道は険しい時代でもあった。

私は1979年に「ノーマライゼーションの理念」を参議院の代表質問で発表し、障害者が自己の決定によって、社会で生きて行くために、年金・就労・教育・障壁の除去など、健常者中心社会から、万人の社会への移行を訴えた。1986年、年金法が改正され、その折に、障害者の所得保障の視点から、基礎年金制度が誕生したことをきっかけに、党内議論でも強く訴え、障害福祉年金が廃止されて、障害基礎年金が導入され、1級月額8万6000円プラス重度加算、2級6万4000円の支給が決定された。1級3万円が8万6000円になったことで、多くの障害者は喜び一杯であったし、この新たな所得保障によって、新しい障害者の自立への意欲が始まった思いもあり、これでノーマライゼーションへの第一歩と、メディアも高い評価を報じていた。振り返ると、その新制度への移行に関係した者として、感慨深いものがある。そして、併せて、すべての国民が年金に加入する新制度もスタートしたが、それまでの任意加入の制度の狭間で、多くの無年金障害者、無年金主婦などが置き去りにされる結果ともなってしまった。

自民党の年金調査会では、会合のたびにこの問題に触れながら、なんとか無年金障害者を救済しなければの思いが、強くなった。国会で年金問題が俎上に上るたびに、障害者団体からの意見や要望も多くなり、国会への請願活動も活発になって、たとえば、平成6年の年金法改正時には、付帯決議を獲得するまでに運動は盛り上がりを見せた。「無年金である障害者の所得保障については、福祉的措置による対応を含め速やかに検討すること」のこの付帯決議が、大きな存在となってゆくことになった。平成10年の年金審議会でも、「年金制度に加入しなかったり、保険料を納付しないことによる無年金者の問題は…今後障害者プランを踏まえ、適切な検討が必要である…」あと一押しの思いが、この問題を考える人々の心に火がついて、無年金障害者の問題は、最早政治が避けることができない状況まで膨らんでいった。

かくして2002年に、議員有志で無年金障害者問題の勉強会が開催され、議員連盟へと繋がっていった。その年の12月には、超党派による「無年金障害者問題を考える議員連盟」が正式に立ち上げられ、不肖私が会長としての重責を担うことになった。

この問題には、私以上に強い関心を持っていた、参議院議員の黒岩宇洋君が事務局長を担当し、歴代厚生大臣、とりわけ自民党の年金調査会長の津島雄二元厚生大臣を顧問に据えて、各党の福祉担当議員が議連幹部になって、勉強会を含めた会議を開催し、問題点の整理、無年金障害者がなぜ生まれてしまったのかを検証し、厚生労働省の年金局の幹部も呼んで、議連としての行動も積極的に展開していった。無年金障害者の皆さんも、次々に各地で訴訟を起こし、私たちと連携しながら1日も早い解決をめざしてと頑張った。当時任意加入であった頃、学生であった無年金障害者が、9か所の地方裁判所で10件の訴訟を提起し、政府へのプレッシャーを喚起した。平成14年7月、坂口厚生労働大臣が「無年金障害者について福祉的措置により、解決する必要がある…」と発言し、その発言を担保にして、議連の行動はさらに活発となり、各党、厚生労働省など関係機関への早期解決への陳情行脚が始まった。

平成14年12月、与党の障害者基本計画発表の折「拠出制の年金制度を始めとする、既存制度との整合性などの問題を留意しつつ、福祉的観点からの措置で対応することを含め、幅広い観点から検討する」と明記され、念願の無年金障害者問題の解決への光が差し込んだ思いだった。

昨年、立法措置へ…となり、与党の議員立法で解決しようとまとまり、「特定障害者に対する特別給付金の支給に関する法律案」が国会に提出され、民主党も独自に「無年金障害者に対する障害福祉年金の支給に関する法律案」を提出して、形式的な審議をして、昨年の秋の臨時国会において与党案が成立した。

民主党案もあったが、衆参で全会一致となり、長い苦難の無年金障害者の問題は、一応の決着を見たが、これですべてが解決したわけではない。在日外国人は対象から外れているし、月額5万円は、まだ異論が多い。議員連盟は、引き続き障害者の所得保障を考えつつ、在日外国人にも拡大すべく努力をしなければならない。

今年4月から法律によって支給されているが、支給決定された人は600人程度なのだ。どうして? の思いがあるが、まだ周知徹底されていないのかもしれないし、年月が掛かりすぎて、自分はどうなのかの戸惑いも受給者の心にあるのかもしれない。当時、任意加入であった時代、加入しなかったがために障害を負って無年金になった人、学生、専業主婦、折角の勝ち取った権利法であれば、堂々の申請をしていただきたいものである。

(やしろえいた 衆議院議員・無年金障害者問題を考える議員連盟会長)