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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年8月号

特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律について

鈴木暢介

1 はじめに

国民年金制度は昭和36年の創設以来、原則として、20歳以上60歳未満の自営業者などを対象にしてきましたが、制度創設時から、学生と被用者の被扶養配偶者については、収入が無いことなどを考慮し、任意加入の対象としてきました。これらの方々については、その後の制度の発展に伴い、現在は強制加入とされていますが(図参照)、それまでの加入が強制されない時期に、未加入のまま病気やけがなどで障害を負っても障害基礎年金などを受けることができませんでした。こうした国民年金制度の発展過程において、制度の対象としつつも強制加入ではなく任意加入とされていた結果として、加入していなかったために年金を受給していない障害者の方々に対し、福祉的措置として特別障害給付金を支給することを内容とする「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」が、今年の4月1日から施行され、いわゆる「特別障害給付金制度」が始まりました。

2 法律の成立に至る経緯

年金を受給していない障害者の方々の所得保障の問題については、平成6年の年金制度改正の国会審議の際にも、衆議院厚生委員会で「無年金である障害者の所得保障については、福祉的措置による対応を含め検討すること」(平成6年10月)、参議院厚生委員会で「無年金障害者の所得保障については、福祉的措置による対応を含め速やかに検討すること」(平成6年11月)という附帯決議が採択されるなど、その解決に向けた取り組みの必要性が指摘されるようになりました。また、平成12年の年金制度改正に向けての年金審議会の意見書(平成10年10月)では、「年金制度に加入してなかったり、保険料を納付していないことによる無年金者の問題については、社会保険方式をとる現行の年金制度では、年金給付を行うことは困難である。今後、障害者プランを踏まえ、適切な検討が必要である」とされ、これによって福祉的な措置を中心に検討が加えられるようになりましたが、具体的な制度改正、あるいは新たな制度創設の動きに至ることはありませんでした。

そのような中、平成14年7月に、坂口厚生労働大臣(当時)が、いわゆる「無年金障害者に対する『坂口試案』」を公表し、福祉的な措置による新たな制度創設の必要性を指摘されました。さらに、立法府におけるさまざまな検討も本格化され、平成14年12月には「無年金障害者問題を考える議員連盟」が発足し、超党派議員による議論が活発化し、年金を受給していない障害者の方々への救済策について具体的な議論が進められました。

同時に、与党(自由民主党、公明党)の年金制度改革協議会においても検討が重ねられました。その結果、平成16年4月6日には、「学生等の国民年金制度の発展過程で生じた特別な事情を考慮して、福祉的な観点から適切な措置を講ずる方向で、立法措置を含めた具体的な検討を行い、速やかに成案を得る」旨合意され、さらに、同年6月8日には、「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律案について速やかに成立を図り、平成17年4月1日から確実に施行する」旨合意されました。

この合意に基づき、平成16年6月10日、「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律案」が議員提案により、第159回通常国会に提出されました。その後、継続審議になりましたが、第161回臨時国会において、修正ののち、平成16年12月3日、全会一致で可決、成立しました。なお、附則には検討規定が設けられ、日本国籍を有していなかったため障害基礎年金の受給権を有していない障害者などの特定障害者以外の障害者の方々に対する福祉的措置についても、今後引き続き検討していくことになりました。

【参考】

特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律

附則
(検討)
第2条 日本国籍を有していなかったため障害基礎年金の受給権を有していない障害者その他の障害を支給事由とする年金たる給付を受けられない特定障害者以外の障害者に対する福祉的措置については、国民年金制度の発展過程において生じた特別な事情を踏まえ、障害者の福祉に関する施策との整合性等に十分留意しつつ、今後検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて所要の措置が講ぜられるものとする。

3 法律の主な内容

(1)対象者

前述のように、障害基礎年金は、原則として、公的年金(国民年金、厚生年金、共済年金)の加入者が病気やけがなどで障害を負い日常生活に支障がある場合に支給されるものです。ただし、障害を負ったときに未加入であったり、保険料の未納が続いていると支給されません。任意加入であった時期でも、加入していない時期に障害を負われた場合は支給されないことになります。

特別障害給付金制度は、このような任意加入であった時期に加入せず障害を負われた方で、障害基礎年金などを受給することができない方々を救済することを目的としています。つまり、国民年金制度の発展過程において制度の対象としつつも、強制加入ではなく任意加入とされていた結果として、加入していなかったために年金を受給していない障害者の方々を、福祉的措置によって救済するために創設された制度です。したがって、次のどちらかに該当し、障害基礎年金などを受給できない方が対象になります。

  1. 20歳以上の学生は現在では強制加入の対象ですが、平成3年3月までは任意加入の対象でした。この時期に未加入で障害を負った方
  2. サラリーマンの夫を持つ専業主婦など被用者の被扶養配偶者は、現在は第3号被保険者として強制加入の対象ですが、昭和61年3月までは任意加入の対象でした。この時期に未加入で障害を負った方

なお、特別障害給付金は障害基礎年金を補完する福祉的な措置としての性格も有しているため、障害基礎年金の要件と同様に、65歳までに、障害基礎年金1級、2級相当の障害の程度に該当していることが必要です。法律上、これらの要件に該当し特別障害給付金の対象となる方々を「特定障害者」と呼んでいます。

(2)支給額

支給額は月額4万円で、障害の程度が障害等級の1級に該当する場合は5万円になります。この額は毎年度物価の変動に応じて改定されますが、ご本人の所得によって、支給が全額または半額、制限される場合があります。また、経過的福祉手当を受給されている方は、特別障害給付金を受給されると経過的福祉手当が支給停止になります。さらに、老齢基礎年金、老齢厚生年金、遺族厚生年金、労働者災害補償保険法による給付など他の公的給付を受けることができるときも、他の給付に相当する額が支給停止になります。

支給額が障害基礎年金(1級が月額で約8万3000円、2級が同じく6万6000円)よりも低い額になっているのは、先ほどの年金審議会の意見書にもありましたように、任意加入とはいえ年金制度に加入されていなかった方と加入され保険料を払ってきた方との均衡を考慮したことによります。しかしながら、国民年金制度の発展過程で起きた特別な事情を考慮して、支給額が障害基礎年金を下回るのはやむを得ないにしても、特定障害者の方の生活に少しでもお役に立てる水準ということを考慮して額が決められました。

なお、特別障害給付金の支給に必要な費用は全額国庫から支払われます。

(3)手続きなど

また、特定障害者の方が特別障害給付金の支給を受けようとするときは、受給資格や給付金の額について、65歳までに社会保険庁長官の認定を受ける必要があります。ただし、施行日(平成17年4月1日)において60歳以上の方については、施行日からおおむね5年間は認定の請求ができるように配慮されています。認定の請求は市区町村が受け付け、認定と支払いは社会保険事務局(社会保険事務所)で行います。

特別障害給付金は、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の6期に、それぞれ前月までの分が支払われます。また、給付金の支給は、認定の請求をした日の属する月の翌月分から、給付金の支給をすべき事由が消滅した日(死亡した日など)の属する月分まで行われます。なお、特別障害給付金を受けている方が死亡した場合、まだ支払っていない分があるときは、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順位で、生計を同じくしていた方が受け取ることができます。

また、特別障害給付金を受けている方は、その受けている期間、国民年金の保険料については、ご本人、配偶者及び世帯主の所得について考慮せず、特別障害給付金の支給を受けているということにより申請免除(全額免除、半額免除の選択)することができます。したがって、申請することにより、国民年金保険料が免除になります。

最後に、注意しなければならないことですが、前述のとおり、特別障害給付金は請求月の翌月分から支給されます。たとえば、平成17年9月にご請求いただいた場合には翌月の10月分から支給になります。請求にあたっては必要な書類がすべてそろわなくても、まずは請求していただき、後日必要な書類を追加して提出していただくことが可能です。請求が遅くなると、その分支給が始まるのも遅くなりますので、給付金の支給を受けられるのではないかと思われる方は、まずは遠慮なく住所地の市区町村、あるいは社会保険事務所、社会保険事務局にお問い合わせいただければと思います。

(すずきようすけ 厚生労働省年金局年金課企画法令第1係長)

図 国民年金の適用の推移

  昭36.4 昭57.1 昭61.4 平3.4
厚生年金などの加入者   厚生年金などに加入   強制加入(※)
その配偶者(専業主婦など)   任意加入   強制加入
学生   任意加入   強制加入
在日外国人 加入できない 強制加入    
在外邦人   加入できない   任意加入

※ 厚生年金などの加入者は、昭和61年4月から国民年金の「第2号被保険者」になりました。