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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年8月号

無年金障害者救済法の評価

無年金障害者問題解決に向けての課題―当事者運動の原点に立ち返って

磯野博

はじめに

2004(平成16)年12月3日、議員立法によって提出された「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」(以下、特別障害給付金法)が参議院において全会一致で可決・成立した。この歴史的瞬間に同席した当事者たちは、これまでの長い運動の経緯と、一緒に闘ってくれた仲間の姿が走馬灯のようにめぐったという。

本稿においては、今回の特別障害給付金法の成果を評価しつつ、今後の無年金障害者問題の解決に向けての課題を、当事者運動の原点に立ち返りながら模索していくこととする。

当事者運動の原点に立ち返って

無年金障害者問題に関する運動は、全国脊髄損傷者連合会によって1970年代から継続的に取り組まれているが、無年金障害者の会は1989年8月に兵庫県下の無年金障害者3人が中心となり、すべての無年金障害者問題の解決を目的として結成された。

無年金障害者という言葉は当事者団体が作った言葉である。そこには、無年金障害者問題は年金制度そのものが生み出していると言っても過言ではない。しかし厚生労働省は厚生省時代を含めて、無年金障害者という言葉は極力使わず、「公的年金に未納・未加入であったことによって、障害年金が受給できない障害者」というような表現を使っている。これは、無年金障害者問題の要因の多様性や、その要因の社会性には目が向けられてこなかったことを示している。そのため無年金障害者の会では、結成当初より潜在化している当事者を発掘することに努めると同時に、新聞や当事者の声をまとめた手記集を通して世論に訴えたり、「障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会」などとともに、国や地方自治体に対して、無年金障害者問題の要因の社会性と早急な問題解決の必要性を訴えてきている。また1992(平成4)年には第1回無年金障害者実態調査を行った。

学生無年金障害者問題と無年金障害者問題

そこで無年金障害者の会としては、審査請求による問題解決を模索するようになり、学生無年金障害者問題、とりわけ1991(平成3)年以前の国民年金への加入が任意であった時期の問題に絞り込んだ。

その後の経緯は、1998(平成10)年に裁定請求、1999(平成11)年に審査請求、2001(平成13)年に全国9地裁に提訴と推移している。その結果、2002(平成14)年には坂口試案が示され、厚生労働大臣の私的な提案ではあるが、初めて国により無年金障害者問題が、国籍要件により国民年金に加入できなかった在日外国人、国民年金に任意加入であった専業主婦・学生、そして国民年金への未納・未加入者にカテゴリー化された。併せて坂口試案は、すべての無年金障害者を福祉的措置としての社会手当によって救済する必要性を訴えている。

多様な無年金障害者問題

特別障害給付金法は、坂口試案によって未納・未加入問題とは別途カテゴリー化された無年金障害者問題を視野に入れていると言ってよい。しかし未納・未加入問題にはより広範な無年金障害者問題が潜在している。これらを新たな形態の無年金障害者問題と呼ぶのであれば、特別障害給付金法によって視野に入れられたのは従来からの形態の無年金障害者問題でしかないと言える。この未納・未加入問題の中に潜在している無年金障害者問題の実態は、2003(平成15)年、無年金障害者の会が関西5府県の精神障害者家族会連合会とともに実施した第2回無年金障害者実態調査にも現れている。

実態調査では「無年金障害者となった理由」のうち「未納・未加入」が23.0%を占めている。「未納・未加入」の理由としては、「障害になるとは思わなかった」が65.1%と突出している。しかしこれは日常感覚としては至極もっともなことである。国民の意識としても、公的年金制度は老齢による稼得の喪失を念頭に置いており、障害による稼得の喪失を念頭に置いていないことを反映しているからである。

一方「手続きが複雑で分かり難かった」「療養中で手続きに行けなかった」などの手続き的な理由によるものが50.6%、「失業中で支払うことができなかった」「保険料が高くて支払えなかった」などの経済的な理由によるものが46.5%に至っている。これら手続的な理由や経済的な理由の背景には複数の社会的要因や制度的要因が絡んでおり、自己責任原則によってひとくくりにすることはできない。

また「制度に疑問があった」と制度不振による理由が4.7%に過ぎず、被保険者全体よりいわゆる「自発的未納・未加入」の割合が低いことにも注目しておく必要がある。

おわりに

無年金障害者問題には多様性と社会性があり、特別障害給付金法によって無年金障害者問題の社会的解決が終わった訳ではない。

今後もより一層の当事者の発掘と無年金障害者問題の実態の解明を行い、それらを世論に訴えていくことを通して、すべての無年金障害者問題のより現実的な解決策のあり方を模索していかなくてはならない。

(いそのひろし 無年金障害者の会)