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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年8月号

無年金障害者救済法の評価

障害があるすべての人たちの所得保障運動―司法、立法、行政に働きかけて

田中昭二

2005年4月1日より「特別障害給付金制度」は、待ったなしで始まりました。本稿では、この社会保障給付制度の性格と生い立ち、課題と提案を、早期救済の立場から改めて振り返ってみます。

救済法の性格

高藤昭氏は、障害年金について「85年立法」により「『無拠出年金化』し、拠出制である老齢年金と性格を異にする」とし、「拠出の有無により支給を差別する理由は消滅し、『福祉的措置』とされるべき道理はなくなった」(注1)と「無年金障害者救済法案の課題」と標題した論評の中で述べています。

その財源は「稼得能力のない障害者の生活は、国民の生活保障責任者たる国家と、一般国民の拠出する保険料負担の形で社会が支えるという考え方に立つ」(注1)のが自然としています。

国が障害年金による救済の道を選択しないために、この救済法の性格は、後に見るように、拠出制に頑なにこだわる厚生労働省年金局が所管する一般財源による社会手当方式の社会保障給付制度であるとわたしは考えます。

救済法は救済制度確立の一里塚

救済法は、「特定障害者」(学生、主婦)だけを救済対象としているため、約12万人いるといわれる障害無年金者の約2割だけを救済するという限界があります。そのうえ制度施行4月の請求者は全国平均で18.76%にとどまりました。

しかし救済法は、20年近くにわたる全国脊髄損傷者連合会や無年金障害者の会、広島の無年金障害者をなくす会などをはじめとする各地の運動、障害年金改正をすすめる会などの運動団体によって、政府・国会・自治体などへ請願・要請・陳情を繰り返してきた障害がある人たち自身、家族による社会保障運動の大きな成果ではあるのですが、そこにとどまるだけではなく、すべての無年金障害者救済の第一歩としての過渡的制度でもあります。

全国9地裁提訴に伴い弁護団は次々と地裁ごとに結成され、裁判の勝利と無年金障害者の解消を目的に学生無年金障害者訴訟全国連絡会が結成(2001年)されるなど弁護、支援する組織も広がりました。

無年金障害者問題を考える議員連盟は、2002年に発足しています。

救済訴訟と救済法

社会保険労務士金井恵美子さんは「本法律は公的年金に関する学生無年金障害者救済訴訟の過程で成立したものである」(注2)と述べています。

東京地裁判決(04年3月24日)は「1985年の年金改正法で実現した20歳前での障害者に対する無拠出で満額の障害年金支給制度と対比して、無年金状態は憲法十四条の法の下の平等に違反し、その放置は立法不作為に当たると国に損害賠償を命ずる画期的な判決」(注1)でした。

しかし東京地裁判決に対し国は、4月6日「拠出制の仕組みをとる年金制度において、任意加入の時期のこととはいえ、制度に加入せず、保険料を納めなかった方々の障害について、国の法的責任を認めることはできない」(坂口厚労大臣談話)として無拠出を最大の理由として控訴しました。

東京地裁判決後、政府与党は、通常国会会期末ぎりぎりの6月10日に「救済法案」を衆議院に提出しました。また、幻となったすべての無年金障害者を救済することを目的とした「民主党案」は、前日の6月9日に提出されています(注3)。

高齢化した親や障害がある人の立場を配慮し、司法の場で長く争うことを止め、当事者との協議の場を早期に開催するようわたしたちは繰り返し国に求めています。

漏救(ろうきゅう)なく早期救済のための課題と提案

法成立12月3日以後、全国連絡会は、30数次におよぶ国会行動、厚生労働省・社会保険庁行動をしながら、1.給付金法の簡易で迅速な「手続き的権利」の確保のために法、政令、行政手続諸法に基づき窓口対応において障害を配慮し改善すること、2.漏救のないように行政へのアクセスが困難な障害がある人たちすべてへの執行責任者として国は広報周知の徹底を尽くすこと、3.請求権者が病気や障害などにより手続きをとり得なかった場合には、手続き上の効力が発生する時点まで遡及支給すること、4.平成17年度請求はすべて4月遡及とすること、という早期救済の課題と提案を現在も行っています。

また、今後1.要保障事由発生時点にさかのぼって救済すること、2.すべての障害者を対象とすること、3.障害基礎年金の引き上げとそれと同額にすること、4.広報周知を尽くさなかったときには国は損害賠償を支払うことを、日本における障害がある人たちの所得保障運動は求めているとわたしは考えています。

(たなかしょうじ 学生無年金障害者訴訟全国連絡会事務局)

注1 「福祉新聞」2004年7月12日号

注2 「『法』についての私見」『特別障害給付金とは』全国連絡会学習資料、2004年12月10日

注3 民主党は、「15日、国民年金に未加入で無年金となった障害者の救済制度を見直し、在日外国人と在外邦人、学生と主婦以外の未納・未加入者も救済対象に加えるための改正法案を衆院に提出した」と、7月16日付「朝日新聞」は報道しています。