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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年8月号

無年金障害者救済法の評価

精神障害者の生活を保障できる年金制度をめざして

田所裕二

はじめに

精神障害者には、病気や障害の状況が個々人によっても異なるばかりか、同一人においてもその波(変化)があり、なかなか一定のスケールのみによってその生活のしづらさを普遍化し難いという特性があります。そのことが、社会的な偏見・差別・誤解などとともに、一般就労や社会参加を困難にする、大きな阻害要因となってしまっているのです。

精神障害者は、今回の障害者雇用促進法改正により、ようやく法定雇用率の“みなし”対象者に含まれることができましたが、現実的には、働くことで定期的に一定水準の所得を得ることは、大変厳しい状況にあります。このように考えると、精神障害者がより健康で普通の地域生活を送れるための数少ない公的な所得保障制度として、「障害年金」は、大変重要な制度と言えます。

学生無年金障害者救済の運動をサポート

本会では、これまでも平成3年に20歳以上の学生が年金の強制加入となる以前に障害を負って、無年金障害者となってしまった人たちの救済活動を支援してきました。たとえば、本会相談室において、複雑な年金制度に精通した専門員による障害年金に関する相談の実施などです。精神障害においては、20歳前後により多く発病をするという疾病特性から、20歳前に発症しながら、精神疾患であるという判断が遅れ、受診が20歳以降となり、障害基礎年金が受けられないという人々が全国的に顕著に見られるのです。

こうした人々の救済を求めて、一昨年頃から全国各地で、無年金障害者救済のための民事訴訟が起こされ始めました。そして、昨春3月の東京地裁判決を皮切りに、救済請求が認められる判決が多く出されるようになってきました。本会としても、全国の無年金障害者支援活動と密な連携を取るとともに、要望活動も展開しています。このような活動をより充実することで、精神障害分野における課題の解決に向けた一助となることを願っています。

無年金障害者救済法の施行を評価

このような社会状況の中で、国会では超党派による「無年金障害者問題を考える議員連盟」が発足し、昨年の12月3日に「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」が成立し、同月10日に公布、本年4月1日に施行されました。この法律により、4~5万円という額ですが、給付金を受けることができるようになり、切り詰めた生活が救われた人々も少なくはありません。また、初診日認定が第三者複数人証明で可能となるなど柔軟な解釈も導入され、さらにマスコミ等への認知度も高まるなど、新法施行には一定の評価ができると思います。

しかしながら、新法の対象者が限定されており、在日外国人や未納・未加入者などが救済されないうえに、今回の対象となる障害者の全体把握が不十分なことと広報活動が徹底していないことから、実際に給付金を申請する件数が著しく少ないという現実が示されています。さらには、窓口対応も不徹底で結果的に規制がかかったり、何よりも給付金額が不十分であるという声が多く聞かれます。

障害年金制度の根本的な見直しが急務

こうした不十分ながらも新法による救済策が動き出したことは、これまで大変な努力と苦労を重ねてきた障害者とその家族にとっては、大きな希望となりました。こうした動きをステップとして、私たちはこれから障害年金制度の根本的な見直しを求めていきたいと考えています。精神障害の特性がきちんと反映する障害認定基準の策定、年金申請を地域で支援するネットワーク(専門家等による)の構築、そして、障害者が地域の中で安心して安全で安定した生活を送ることのできる、所得保障の重要な「核」と成り得る制度にしていく必要があると思います。

精神障害者は、障害年金の申請以外にも、「障害者手帳」の申請、「通院公費負担制度」の申請など、定期的に病態像や障害の程度を医師により証明をしてもらわないといけない場面が多々あります。こういった制度においても診断書等の相互活用や生活のしづらさに注目をした障害認定基準作りなど、さまざまな改善を求めていきたいと思います。

こういった活動を具現化するために、現在本会の専門委員会である「施策推進委員会」(池末亨委員長)に『所得保障』施策を担当するワーキンググループを設けて議論をスタートしました。他の福祉制度等と同様に、精神障害者がより暮らしやすくなるための制度のあり方に提言をしていこうとするものですが、その中心課題の一つが、障害年金制度ということになっています。

おわりに

先にも述べましたが、障害者が安心して地域生活を送れるための重要な制度の一つがこの年金制度です。社会情勢の変化やその時代の必要に応じて、障害者も地域の一員という「共生社会」(支え合いのまちづくり)の精神に基づき、何かと生活のしづらさを抱える障害者を、社会が国民全体がサポートするしくみを求めていきたいと思います。

(たどころゆうじ 財団法人全国精神障害者家族会連合会)