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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年8月号

無年金障害者救済法の評価

「学生・主婦障害者無年金110番」を通して特別障害給付金を考える

伊藤たてお
永森志織

北海道難病連の30年にわたる相談活動の中で、障害年金は重要な分野の一つとなっています。障害年金の申請に市町村や社会保険事務所の窓口に行ったところ、用紙を渡してもらえなかったり、年金は該当しませんと言われた患者さんでも、受給要件を確認し、障害の程度をよく聞いて書類を作成して申請してみると、かなりの比率で、障害基礎年金を受給することができています。ちなみに、北海道で学生無年金障害者訴訟の提訴をした時、ニュースを見て60人ほどの障害をもつ方から問い合わせや相談があり、その中で7件について障害年金の申請を進め、6件が受給することができたという実績もあります。

これらの経験から、特別障害給付金の手続きやそのPRは私たち障害者の側が積極的に展開しなければならないと、早くから対応を開始しました。行政は絶対に一定以上のPRもしなければ積極的に手を差し伸べる親切心は持ち合わせないことを知っていたからです。

また、前回の提訴時の経験から、PRをすると相談が短期日に集中すること、援助や相談にはかなりの知識と経験を要すること、また障害年金の受給に関する専門職としての社会保険労務士の存在を積極的に広めるべきであると考え、特別障害給付金法が成立した2004年12月中に社会保険労務士会の役員の方々と相談し、その後社労士4名が「無年金障害者問題サポートグループ」として積極的にご支援いただくこととなりました。

PRの方法としては「学生・主婦障害者無年金110番」として新聞社、テレビ局、難病連機関誌、北海道・無年金障害者をなくす会会報、小規模作業所へのFAX、インターネットのHP等で周知しました。マスコミの積極的な支援で、用意した4台の仮設電話は開始前から鳴り続け、社労士3名、難病連相談員6名、原告3名がかかりっきりになり、全く電話が空くこともなく相談に応じました。急遽翌日も実施し、その後仮設電話を撤去した後も難病連相談室に相談が相次ぎました。

1日目の相談者は115件、2日目は21件、計133件となりました。疾患、障害としては精神疾患が圧倒的に多く39.0%、ついで関節リウマチ25.0%、脳血管障害14.0%、人工透析10.9%などでした。

これらの方々が無年金になった理由というのは実にさまざまで、最も問題となるのは、役所の窓口で加入の必要はないと言われた、障害年金の対象にはならないと言われた、あるいは用紙をもらえなかった、というものが実に多いことです。

相談の中で特別障害給付金の対象となると思われるケースは20%、障害基礎(厚生)年金の受給可能と思われるケースは8%もありました。しかし逆に70%は、やはり特別障害給付金の対象にもならない無年金障害者である、ということも明らかになりました。

この原稿を書いている7月中旬にも1人、社労士の支援で障害基礎年金が認められた、という連絡が入りました。私たちは今までの経験から、これは決して稀なケースではないこと、つまり障害年金をめぐる問題・課題は実にたくさんあることを改めて実感しました。

今回、給付金を請求するために社労士が市区町村の年金課窓口に出向いた際、「社会保険労務士とか名乗る人が来てますが」といった対応をされたり、障害者の家族や難病連相談員など代理の者が行くと「本人でなければ書類を渡せない」と言われたりもしました。仕事を持っている障害者が平日に窓口に何度も足を運ぶのは大変なことです。障害者の実態を考慮しない硬直した窓口対応の一端がうかがえます。早急な改善を望みます。

「学生・主婦障害者無年金110番」の相談の中では、どうしても障害年金も特別障害給付金も該当しない人がかなりいました。たとえば、20歳を過ぎて外国に留学している間に事故にあって障害者になった場合。主婦が精神疾患を発症し、夫と不仲になって離婚し、その後病院を受診した場合。また主婦の方で夫が留学中で年金未加入の間に事故で障害をもった場合も対象外でした。季節労働者として数か月ごとに違う職場で働いていた男性で、たまたま仕事と仕事の合い間の年金未加入の時期に障害をもった人もいました。同様に季節労働者として働いていた方で、事業所が厚生年金に加入していると偽っていたために年金も給付金も対象外となった例もありました。このような所得保障を必要とする重度障害者のうち、障害年金も特別障害給付金も受けられない人は全障害者の5.6%もいる、ということが厚生労働委員会(※1)で報告されています。

この給付金制度でも今の無年金障害者のすべてを救済することにならないのは明白です。社会保険庁、厚生労働省年金局の全力をあげての実態調査を求めたいと思います。この特別障害給付金の制度の評価が定まるのは、5年後、10年後ではないかと思います。

(いとうたてお(財)北海道難病連代表理事・ながもりしおり(財)北海道難病連相談室、共に北海道・無年金障害者をなくす会所属)

※1 2005年7月6日衆議院厚生労働委員会第32号における泉房穂委員の質問に対する尾辻秀久厚生労働大臣の答弁より