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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年9月号

移動・交通のバリアフリーを検証

移動・交通のバリアフリーを検証する
―今秋の交通バリアフリー法改正に向けて―

今福義明

平成12年に成立した「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(以下、交通バリアフリー法)」の目標達成現況を肢体不自由者の視点から紹介します。

鉄軌道駅の段差の解消

代表的なバリアフリー化目安の数値として、鉄軌道駅における段差の解消駅数があります。同法の成立年の平成12年度末1381駅が平成15年度末で2000駅となっています。実に619駅の増加です。毎年206駅増えたことになります。しかし、それでもこのペース増なら、同法のバリアフリー化目標駅数「1日あたりの平均利用者数が5千人以上の駅数」2735駅に達するには、あと4年掛かることになります。国内の鉄軌道駅総数は、9544駅(平成15年度末現在)ですから、すべての駅の段差解消には、あと36年掛かることになります。もちろん、「1日あたりの平均利用者数が5千人以下の駅」は、駅規模が小さい駅も多いことから、バリアフリー化改善が容易に早く進展することは予想できます。同法の目標年次である平成22年までに、100%段差解消をするとしたら、毎年大小合わせた1078駅を段差解消する必要があります。

ノンステップバスの導入台数

第二は、身近な足の代表格である路線バスのノンステップバス台数は、平成12年度末1289台から平成15年度末5432台と4143台の増加、年ペース1381台です。ノンステップバスの国内導入目標台数は、平成22年までに、国内路線バス総台数58404台の20~25%ですから、志を高く持つなら、25%の14601台となります。最新の民間調査によると平成17年度8月のノンステップバス導入総台数は、7700台です。後5年で、目標を達成するとすれば現在の導入台数ペースを維持しなければなりません。

路線バスのバリアフリー化の背後に隠れた問題は、実は、同法の移動円滑化基準で、新規導入する路線バスは、「床高65cm以下」と定めたことです。それは、床高55cmレベルのワンステップバスをも低床バスとして、認めたことです。これは、車いす使用乗客にとって乗降の際、とても危険なことなのです。床高55cmのワンステップスロープ付きバスの場合、スロープ勾配角度が、とても急勾配で、車いす使用乗客が単独自力乗降できる角度ではなく、運転手の接遇乗降介助が必然となります。

この問題の背景に、ノンステップバス価格がワンステップバスよりも高いために、都市部にノンステップバスが集中導入され、地方では、ワンステップスロープ付きバスばかりになるという傾向が歴然としてきました。首都圏・中部圏・関西圏のノンステップバス導入台数が、国内ノンステップバス導入総台数の75%を占めています。沖縄県には、まだ、1台のノンステップバスも運行されておらず、ワンステップスロープ付きバスがわずか2台導入されているに過ぎません。

また、車いす対応バス(ノンステップバス・ワンステップスロープ付きバス・リフト付きバス)の運行方法についての新たなバリアが浮上してきました。それは、車いす対応バスが「いつ、どこに、運行されているのか?」が分からない状態での運行方式です。いわゆる車いす対応バスの時刻非固定・路線非固定・時刻非表示の問題です。国内の多くの路線バス事業者が赤字経営ということもありますが、車いす対応バスの時刻や路線を決めないで、運行するという一般乗客には考えられない車いす使用乗客差別とも解釈せざるを得ない運行方式です。車いす使用乗客にとってみれば、車いす対応バスに乗りたくても「いつ、どこに、運行されているのか?」が分からない状態では、とても使えない、利用できない状態なのです。地方では、車いす対応バス導入台数が少ないうえに、前記のような運行方法をとっているバス事業者が多いことから、二重のバリアとなっています。

鉄道・路線バス以外のバリアフリー化

同法では、鉄道や路線バス以外の公共交通機関にも、平成22年度までに目標数値を設定して、バリアフリー化努力を求めています。

旅客船は、1100隻の50%の550隻。航空機は、420機の40%の180機のバリアフリー化です。しかし、平成15年度末の達成集計によると、旅客船は、4.4%の49隻、航空機は、32.1%の139機がバリアフリー化されたとしています。

この数値を見ると旅客船のバリアフリー化進捗率の低さが目立ちます。旅客船のバリアフリー化目標達成の努力が求められます。

航空機に関しては、目標数値への達成進展度合いは、評価できますが、問題は、航空機のバリアフリー化目標内容が、他の公共交通機関のバリアフリー化内容より、低いレベルに設定されていることにあります。

たとえば、航空機のみ「車いすスペース」設定がありません。最近浮上してきた航空機のバリアとしては、航空機のみが「自らの車いすのまま」搭乗できません。否応なく一般座席へ移乗しなければなりません。自らの障害にフィットさせてつくられた大事な電動車いすを機内に持ち込めず、航空機内保管庫に収納しなければならないことから、電動車いすの破損事故というトラブルの発生や電動車いす自体を収納できない小型航空機の保管ボックスがあり、搭乗を断念せざるを得ないなどの問題が起こっています。

さらに、航空機の問題として、特有な制限がまだ残されています。同一航空機に障害者が乗り合わす際の搭乗人数制限問題。歩行困難障害者は、介護者付きでないと搭乗を認めない航空機事業者がある問題。外国機には、同法が適用されない問題。ストレッチャー型車いすを使用せざるを得ない障害者の座席確保運賃高問題。人工呼吸器等の持ち込み制限問題。

さらに、肢体障害者にとって、実際の航空機利用について、航空機それ自体の問題に加えて、空港までのアクセスの問題があります。地方空港のほとんどの空港シャトルバスが、車いす対応バスではないために、空港へのアクセスが困難なのです。

これら同法の適用内の問題以外に、同法の適用にすべきとわたしたちが求める対象として、タクシー・コミュニティバス・空港シャトルバス・長距離高速バス・観光バス・観光船・路面電車・ロープウェー・ケーブルカーがあります。また、同法の付帯決議とされたSTS(福祉個別移送サービス)を必ず適用対象に含まなければならないと考えます。

市区町村のバリアフリー化整備基本構想の推進

同法の最大の特色は、「1日あたりの平均利用者数が5千人以下の駅またはバスターミナル」を含む市区町村が、同箇所を重点整備地域として、半径500m~1kmのエリア内にある障害者や高齢者がよく利用する公共施設までの道路や歩道を一体的にバリアフリー化整備する基本構想の策定ができる点です。

平成17年度末の調査結果によると、同上箇所を含む市区町村が556あり、うち69%の383市区町村が同構想をすでに策定済みまたは策定予定としています。しかし、策定予定のない市区町村が173もあります。課題としては、すでに策定済みまたは策定予定の基本構想の事業実施に至るまでの障害当事者参画による事業促進と策定予定のない市区町村にいかに早く策定させるかです。

同法の成立後、個別肢体障害者が直面させられた問題として、乗車拒否・諸設備利用時や接遇サービスミスによる事故に遭った時の仲裁・対抗・救済措置が無いことです。これは、同法においては、障害者や高齢者の移動の環境を改善することに事業者や市区町村国等に努力を求めていますが、障害者や高齢者の移動する権利は認めていないために、障害者や高齢者の移動の環境の改善内容や水準は、事業者や市区町村国等の努力の範囲内とされている点にあります。

交通バリアフリー法の見直しのための観点は、障害者や高齢者の移動の権利(乗客性の確立)を認めたうえで、安全で円滑に移動できる広義の公共交通機関のバリアフリー化整備を急ぐべきです。

(いまふくよしあき DPI日本会議交通問題担当)