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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年9月号

自治体などの取り組み

人にやさしく、地域に根ざした福岡市営地下鉄七隈線
―トータルデザインによるノーマライゼーションへの取り組み―

牛尾博和・大城欣彦

1 はじめに

平成17年2月福岡市に3番目の市営地下鉄「七隈線」が開業しました。この地下鉄は、ビジネス色が濃い「空港線」「箱崎線」と異なり、福岡市西南部の住宅街と都心部を約12キロ16駅で結ぶ生活色の濃い路線です。鉄輪式リニアモーターシステムのコンパクトな車両が導入され、トンネルや駅舎の断面が小断面で計画されました。

2 トータルデザインの経緯

この地下鉄の空間づくりのプロセスは約10年前に遡ります。最初に行ったのは、既設線や他都市の事例調査に加え、市民へのアンケート調査、障がい者や妊産婦を対象としたヒアリング調査でした。調査の結果、数百もの検討すべき課題が浮き彫りになり、多くの人が快適で使いやすい地下鉄の誕生を待ち望んでいることが明らかになりました。

そして、各分野の技術の垣根を越えて横断的に検討する組織「福岡市地下鉄デザイン委員会」を立ち上げ、「だれもが使いやすく地域に親しまれる地下鉄」をめざしてデザインポリシー「ヒューマンライン」を掲げ、さらに、デザインコンセプトを設定しました。

1:「ヒューマンマインド」人にやさしく快適で使いやすい地下鉄
2:「コミュニティーマインド」個性的で地域の人々に親しまれる地下鉄
3:「アドバンストマインド」21世紀に向けた新しい価値観と技術による、先進的な地下鉄

このポリシーとコンセプトが、土木、建築、設備、電気、車両、営業など、事業に関わるすべての人の気持ちを一つの方向へと導きました。その結果、お互いが深い関係性を持って機能する「トータルデザイン」が実現しました。

3 トータルデザインによるノーマライゼーションへの取り組み

トータルデザインによる空間づくりは、次の4つにまとめられます。

デザイン目標1:明るい空間の実現
デザイン目標2:見通しがよく、広がりのある空間の実現
デザイン目標3:移動しやすく、使いやすい空間の実現
デザイン目標4:だれにでもわかりやすい情報提供の実現

ここでは、ノーマライゼーションと特に深い関わりがあると思われる、デザイン目標の3と4について代表的なものを紹介したいと思います。

デザイン目標3:健常者と同等の利便性を移動制約者(車いす利用者、荷物を持った人、妊婦など)にも提供しようと考えました。

○バリアフリー動線の短縮(■写真1■)
全駅共通のルールとしてバリアフリー動線が最短になるように、車いす対応の車両を降りると正面にエレベーターを配置し、コンコース階においても改札口とエレベーターが近くになるようなレイアウトとしました。
○車いす利用者への配慮
改札口や券売機、エレベーターの押しボタンなどの幅や位置や高さを車いすに乗ったままでも使いやすいよう配慮しました。
○隙間をなくす、段差をなくす
ホームと車両の間は、土木による全駅の直線ホーム、軌道と建築の仕上げ精度、そして車両の油圧コントロールにより、隙間は基準の最小寸法で、段差はほぼフラット化を実現しました。

デザイン目標4:健常者と同等の利便性を情報制約者(視聴覚や知覚障がい者、外国人、子どもなど)にも提供しようと考えました。

○空間の記号化(■写真2■)
駅舎内部は白を基調とした色づかいをしています。その中で利用者の行動となるポイント部分(出入口、券売機、改札口、階段、昇降装置、車両乗降口など)には、壁の形態や色彩、照明計画などにより、空間の視覚的な記号化を行うことで、遠くからでも認識できるよう配慮しました。
○各駅の個性化
各駅の区別と地域の人々に親しんでもらえる個性をもたせるため、場所柄を反映した各駅独自のシンボルマークと個性化素材(壁の一部に使用)を設け、アイストップとなる部分などに展開しました。
○ユニバーサルデザインのサインシステム
従来の視覚や点字や触知という手法に加え、音によるサインシステムを取り入れました。今回特に配慮したことは、動線に沿って情報を連続して提供するサインシステムの構成です。

4 むすび

七隈線の計画を通して貫かれたのは「人間基準」です。人のさまざまな特性を考慮し、調査や実験を繰り返し、弱い部分を補い合いながら、たくさんの知恵を盛り込みました。そして、パブリックデザインのスタンダードとして、統一感があり普遍性と地域性を強く意識した施設が実現できたと思います。

(うしおひろかず 交通局技術部施設課・おおきよしひこ (株)ジーエータップ)