音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年9月号

報告

日本の人口動向について

―障害のある人たちの社会参加を求めて―

京極高宣

日本は近いうちに超高齢社会を迎えるといわれていますが、単に高齢化が進むということではなく、総人口も減っていくという時代(いわゆる超少子高齢・人口減少社会)を迎えます。私ども国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の予測では、2006年あたりから人口が減ってきて、2100年には4080万人にと、20世紀初頭、1900年の数字よりも下回ると予測されています。そして、仮に現在のような状況が続けば、3300年には人口がゼロになってしまうという推計も出ています(■図1■)。

この一番の原因は出生率の低下です。最近少子化という言葉がよく使われています。少子高齢社会とか少子高齢時代とかいろいろな言葉が使われていますが、少子化という言葉には二つの意味があります。一つは子どもが少なくなる、少なく子どもが生まれるということです。しかしそれだけではなくて、同じ人口を維持する人口置換水準というのがあります。たとえば夫婦から2.07人の子どもが生まれればよいわけですが、それを下回ると現在の死亡率では人口が減っていきます。また、人口減少に伴う市場規模の減少により、とくに過疎地などで過疎化が進行し人がいなくなってしまうという事態も起こりえるわけです。人口置換水準を下回ることを専門用語で少子化と言っています。ここがよく混同されるところですが、少子化の本当の意味は、人口置換水準を下回る、人口を維持できなくなることを言います(■図2■)。

2004年は、111万人の子どもが生まれて、合計特殊出生率は1.29でした。少子化の経済への影響は、まず第一に若年労働力の不足が考えられます(■図3■)。ただその場合に、働く機会がない、あるいは労働力を生かせない障害のある方々、高齢の方々、女性の方々の一部、そういった方々が労働力に加われば状況は変わってくると思われます。特に新しい障害者基本計画(平成14年12月)や障害者自立支援法案(次期国会へ再上程の予定)の成立で、障害のある方への就労支援が進めば、100万人単位での労働力の増強も可能です。

さらには、日本人は世界的にみても大変貯蓄率が高いのですが、長生きをすると老後はその貯蓄を崩しながら年金生活をするという状況になります。そうすると、将来は貯蓄率が落ちていき、さらに担い手減少による社会保障財政の危機など、多くの財政金融的影響が経済社会に及ぶことが考えられます。しかし、今政府も手をこまねいているのではなくて、いろいろなところで改革が行われています。

ところで日本の出生率では、婚姻内出産が圧倒的に多くなっています。ちなみに2003年のデータでみますと98%が婚姻による子どもで、残りの2%(厳密には1.93%)が非嫡出子です。非嫡出子を嫌う傾向は日本の特徴です。ヨーロッパでもかつてはそういう傾向がありましたが、2003年のスウェーデンの統計では56.0%、実に100人のうち56人は結婚していない男女による子どもという数字が出ています。しかし、北欧の子育てに関する社会保障は手厚く、わが国とは大分違うところがあります。その他相続など、日本よりも民法上の非嫡出子への差別がないということもあり、子どもにとっては幸せな社会ということがいえるかと思います。

日本が出生率を上げるためには、第一に結婚する数が多くなれば当然子どもが生まれる可能性が高いということと、第二に結婚した後何人子どもを生むかという、この二つの要因によって出生率が決まってくるという特徴があります。しかし、以前は夫婦が2、3人子どもがほしいと望めば望む人数の子どもが生まれてきましたが、現在はそうはならなくなってきました。もちろん、未婚率や離婚率が増えているということも考慮に入れる必要があります(表1)。

表1.出生率変化の人口学的要因

  1. 出生率は人口全体に対する出生の発生頻度を計る指標である。
  2. 日本のように出生の98%が婚姻内(婚姻届けを出した夫婦)から発生する社会では、結婚の発生頻度が出生率に大きく影響する。
  3. したがって、日本の出生率は
    (1)年齢別の未婚率(いいかえれば有配偶率[既婚者の割合])の変化
    (2)結婚した夫婦の出生率の変化
    以上の二つによって起き、時代とともに両者の影響の程度は異なる。

今年の人口の実態数字ですが、これは社人研ではなく厚生労働省統計情報部の数字ですが、30歳から34歳の方が以前に比べ比較的子どもを生むようになっている、という希望的な直近の記事が載っていました。もちろん20代では出生率が非常に下がっていますので、結果的には子どもが少なくなっているということがいえます。ただ、現代の30代の女性は健康で若いですし、40代で出産する方も多くいらっしゃいます。その点で若干の改善が見込まれるかもしれないということはあります。

子どもが生まれて育っていく環境を考えたときに、やはり女性の働く保障が重要です。現在は女性の再就職が困難な状況です。事務職に就いている方で19.5%の人しか元の職場に戻れていません。早急に再就職を望む女性が働ける就業条件や保育環境の整備を考えていく必要があります。企業サイドにおいても、次世代育成支援という大きな計画が大企業には義務づけられていますので、そういった変化が起きてくるのではないかと期待しています。中軽度の障害のある方については、就職は困難で、再就職は不可能に近い状況です。それと、障害児の出生を恐れる向きが最近の若者にはあるという意見もありますが、母子保健や障害児施策がより手厚くなればそういった危惧も少なくなるでしょう。

最後に特に私個人が注目しているのは、若者の経済社会への参画が困難になり、自分の家族創出が困難になっているということです。ニートやパートタイムで働く若者は増えている状況にあり、非正規の雇用は、20代では男性の35%、女性では何と44%にもなります。20代女性の半数近くが不安定な就労で所得が低い現実にあります。これは2年前に、私が厚生労働省の次世代育成支援施策研究会の座長をしていたときに調べていただいたのですが、高度成長期に比べてはるかに近年の若者の所得水準が落ちているということが分かりました。言いかえれば現代版の「部屋住み」が多く、相対的に結婚できないという状況なのです。特に障害のある方は就労も困難で差別と偏見のある中で、婚姻率は極めて低いのではないのでしょうか。

障害者の労働権と結婚権を保障することは、新しい障害者施策の最重要課題です。そして、若者の働く場を確保するということ、そしてアルバイトやパート労働者等に対する社会保障制度の在り方ももう一度考え直さなければなりません。

ちなみにわが国の社会保障制度は高度成長期に確立されたものですが、その基準はサラリーマン世帯を念頭に働く男性と専業主婦と子ども2人という家族像を典型としていました。これを基準に社会保障制度の設計がなされ、税制体系もそういった形で作られていました。しかし、これらは明らかに今は壊れているわけであり、新しい流動化した超少子高齢社会の中で、相当に思い切った発想転換の社会保障制度改革が必要であると思っています。

(きょうごくたかのぶ 国立社会保障・人口問題研究所長)

【出典】

以上の文章は、平成17年6月30日に新宿厚生年金会館(新宿区)で開催された「京極高宣先生の話を聞く会」主催での講演内容を基に加筆修正したものである。