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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年9月号

フォーラム2005

障害者の就業機会の拡大による職業的自立をめざして
―障害者雇用促進法の改正―

今井明

1 はじめに

障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という)の改正法が国会で成立しました(平成17年6月29日、7月6日公布)。今回の法改正は、障害者の就業機会を拡大し職業的自立を図ることを目的としており、大きく三つの柱からなっています。以下、その概要についてご説明します。

2 精神障害者の雇用対策の強化

障害者雇用促進法は、企業に対して、その雇用する労働者のうち、障害者雇用率(民間企業の場合は1.8%、以下同じ)に相当する人数について、身体障害者または知的障害者を雇用することを義務付けています。この雇用率制度の対象に精神障害者も加えることが長年の懸案となっていましたが、今回の法改正はこれに応え、現行の1.8%の障害者雇用率はそのままに、企業において精神障害者保健福祉手帳を所持している者を雇用している場合に、これをその企業の雇用率の算定対象とするというものです(平成18年4月施行)。

今回の法改正では、このような形で、精神障害者を雇っている企業を雇用率制度上評価することで、精神障害者の雇用に対する企業の理解や雇用管理ノウハウの普及を図り、将来的には、障害者雇用率の算定上にも精神障害者の数を反映させて(即ち、1.8%の障害者雇用率を引き上げて)、精神障害者の雇用義務化を図ることをめざしています。なお、雇用率の算定は、原則として週30時間以上労働の場合に1人分とカウントしますが、疲れやすく長時間働くことが困難な精神障害者も少なくないことから、こうした障害特性を考慮し、精神障害者である短時間労働者(週20時間以上30時間未満)についても、雇用率の算定上、0.5人分にカウントすることとしています。

精神障害者の雇用を実際に進めていくためには、以上のような雇用率制度上の評価に加えて、雇用支援策の充実が重要であり、企業に採用されて以降、気分障害などで精神障害者になり休職された方の復職の支援をはじめ、実際の職場で働いてみる機会を提供する委託訓練やトライアル雇用、精神障害者の特性に合わせた短時間労働やグループ就労への支援など、本人、企業に対する各種の支援策の充実を地域障害者職業センター等において実施することとしています。

また、雇用率制度の適用に当たり、企業内において精神障害者を把握・確認する過程で、本人の意に反して執拗に追及がなされたり、手帳取得の強要が行われるようなことが生じないようにする必要があります。そこで、当事者をはじめ関係団体、企業関係者、学識経験者等に参集いただき、個人情報保護法をはじめとする法令等に留意しつつ、プライバシーに配慮した対象者の把握・確認のあり方についての企業向けガイドラインを作成したところです。

3 在宅就業障害者に対する支援

近年、IT等の進展により、通勤等移動に制約を抱える障害者がインターネット等を活用して在宅で就業するケースが増えており、こうした就業形態は、障害者の就業機会の拡大をもたらすことが期待されています。今回の法改正では、在宅就業障害者(自宅等で仕事を請負って就業する障害者)に対して支援を行うこととしており、具体的には、在宅就業障害者に仕事を発注する企業に対して、障害者雇用納付金制度において、特例調整金・特例報奨金を支給することで、企業の在宅就業障害者に対する仕事の発注を奨励することとしています(平成18年4月施行)。

また、在宅就業障害者に対して直接発注を行う場合だけでなく、在宅就業支援団体を介して在宅就業障害者に仕事を発注する企業に対しても、これらを支給することとしています。在宅就業支援団体とは、一定の要件を満たして厚生労働大臣の登録を受け、在宅就業障害者と発注元企業の間に立って、障害者に対しては仕事の受注、知識技能の習得機会の提供、基本的な労働習慣の付与や技術上のトラブルへの相談支援等の役割を果たし、企業に対しては納期、品質に対する保証を行う等の役割を果たす団体です。

以上のような在宅就業支援策の対象となる業務は、IT関連業務だけでなく、物品の製造・加工やサービスの提供等、知的障害者が多く従事する業務も含まれています。また、既存の授産施設や作業所を運営する法人も一定の就職実績を有する等、在宅就業支援団体としての要件を満たして登録を受けることも考えられるところであり、当該法人にとっては、企業から仕事を受注するための手助けになることも考えられます。

4 障害者福祉施策との有機的な連携

授産施設等の福祉施設や作業所の利用者の多くは、企業に雇用されることを望んでいるものの、実際に企業に就職する障害者の割合はごくわずかとなっています。こうした現状にかんがみ、障害者自立支援法案は、授産施設や作業所等の施設体系を機能別に見直し、就職を希望する障害者が福祉的就労から一般企業への雇用の促進を図ることとしていますが、雇用施策においても、就職後の準備段階から就職後の職場定着まで、各地域において福祉関係機関等との連携を図りながら、支援を行っていく必要があります。今回の法改正においては、このような考え方に基づき、国、地方公共体の努力義務として、雇用施策を福祉施策との有機的な連携の下で実施する旨を規定しており、併せて、本年度予算等において、各地域において雇用施策と福祉施策の連携を充実するための事業の充実、強化を図ることとしています。

具体的には、ハローワークが事務局役となって、福祉施設や養護学校、福祉事務所といった関係者からなる就労支援のためのチームを作り、就職を希望する障害者一人ひとりに応じた支援計画に基づき、就職の準備段階から就職後の定着まで一貫して支援を行う事業をモデル的に実施することとしています(地域障害者就労支援事業)。また、企業への就職に実績を有する福祉施設が地域におけるネットワークの要になるなど、実績のある福祉施設のノウハウを活かして地域における就労支援機能の強化に取り組んでいくことも重要であり、障害者就業・生活支援センターのさらなる充実(80か所から90か所に)を図ることにしています。さらに従来からある協力機関型ジョブコーチ(福祉施設のスタッフがジョブコーチとして企業に出向く事業)を見直し、就労支援に実績のある福祉施設の裁量性を高めてより効果的に職場適応援助を行うことができるようジョブコーチ助成金(第二種)を創設することとしています。企業内において障害者の雇用管理に経験を有する人材を育成し、ナチュラルサポートの体制を築いていくことも重要であり、企業内ジョブコーチの助成金(第三種)も創設することとしています。

5 改正の意義を踏まえて(管見)

今回の法改正により、長年の懸案であった精神障害者への雇用率適用が実現し、精神障害者の雇用をめぐる制度環境は大きく前進することとなります。今後は、多くの雇用事例を積み重ね、精神障害者の雇用に対する企業の理解を進めていくことが重要です。企業に在職している精神障害者の支援、生活面と一体になった支援など、精神障害者の就労支援に携わる関係者の皆様への期待と役割は極めて大きいものがあります。

また、障害者雇用促進法が雇用以外の就労形態である在宅就業の支援を行うことなったことも制度的には大きなエポックです。今回の在宅就業支援策の創設が、移動等に制約を抱える障害者の就業機会の拡大に寄与するであろうことはもちろんですが、障害者の職業的自立のための方途として、雇用以外の就労形態にも着目し、制度的評価の裾野を広げたことは、授産施設等における福祉的就労から企業における常用雇用に至るまでの就業形態の連続を意識した支援策の展開を予感させるものであり、さらには障害者雇用という限られた分野を越えて、就業率の向上を意識した新たな政策の萌芽ともなり得るかもしれません。

ジョブコーチ助成金の創設や障害者就業・生活支援センターの整備をはじめとする福祉との連携施策の充実は、障害者の就労支援の担い手となる人材を福祉施設、企業内にも広く育成していく、あるいは、地方単独事業はもとよりそれぞれの地域における身近な社会資源を就労支援のために活用していく呼び水であり、持続可能な就労支援に向けての地域づくりの営みにつながっていくことが期待されます。

研究会から審議会、そして国会における審議と、今回の法改正の検討過程においては、発達障害者への支援や教育との連携など、さまざまな課題も浮かび上がってきました。今後、改正法の着実な施行と合わせ、これらの課題にも取り組み、障害者が働きながら、地域において自立して生活をすることができるような社会をめざしていく必要があります。

(いまいあきら 前厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課調査官(現公害等調整委員会審査官))