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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年10月号

知っておきたい海外旅行の知識

今西正義

障害者が個人で海外旅行をするようになってあまり年数が経っていない。14~15年前は、海外のバリアフリー状況も今ほど進んでなくバリアを覚悟のうえで旅に出ていた。その当時と比べると環境は随分変わったといえ、旅に出れば予期せぬトラブルやアクシデントは付きものである。障害は個々に違うためすべてをカバーすることは不可能に近く、バリアフリー整備がどんなに進んだとしてもトラブルは尽きることはない。だからこそ事前の準備に時間をかけ、出発までにひとつでも多くの不安を解消させて、日本を離れたら旅を徹底的に満喫できるようにしておきたいものである。今後、ますます障害者の海外旅行への機会が広がるなか、初めて旅行を計画したり重度の障害者が旅立つときに、準備することや気をつけること、知っておきたいことなどを紹介する。

旅に向けた準備

障害があっても「旅行してみたい」「いろんな国へ行ってみたい」など、夢を実現したいという気持ちは障害がない人たちとまったく変わらない。その夢の実現に向けて十分な準備をしておこう。

(1)どこに行くか?(方面、時期、目的を決める)

はじめに、旅行を計画するにあたっては「どこの国で何をしたいか」、有名な観光地へ行くのか、遺跡・美術館めぐり、自然を満喫、スポーツや体験などをするのか、目的をはっきりさせること。時期によっては目的を達成できなくなることもある。たとえば、日本が夏の時期には南半球の国は真冬の季節であったりする。また行き先の国や都市によってバリアフリーの整備状況に差があり、全く整備が整っていない場所もたくさんある。準備期間はおおむね3~4か月くらいの余裕をもって準備することをすすめたい。

(2)だれと行くのか?(人数の確定)

次にだれと旅行に行くか、一人の場合には身の回りのことが最低限自分でできることが求められる。行く場所によっては、現地で介護やガイドヘルプ等のサポートを支援するところもがあるが、まだまだこうしたサポートができるところは少ない。なおADL(日常生活動作)が自立していなくても夫や妻、親、兄弟、気の合った友だち同士、またヘルパー等と一緒に行けば十分に旅を楽しむことができる。

(3)旅の予算を決める

行き先や時期、旅行の内容によっても旅行費用は大幅に異なってくる。特に年末・年始、ゴールデンウィーク、春休み、夏休みの時期は飛行機やホテルの料金も高くなるので時期を考えること。なお特別な手配、たとえば車いすを使用している場合、バスや鉄道が使えない地域で専用車やリフトタクシー等をチャーターしたり、荷物を運ぶポーターや専用ガイドなどを頼むと、さらに通常の旅行費用に加え代金がかさんでくる。

(4)どのような旅行をしたいのか?

旅行の形態は大きく3つに分けられる。1.旅行会社がバリアフリーに配慮したツアーを企画し参加者を募集するパッケージ旅行(募集型企画手配旅行)、2.旅行する人の希望や障害に応じて旅行会社がバリアフリーに配慮して作るオーダーメード旅行(受注型企画手配旅行企画)、3.航空券やホテルなどの旅のパーツのみを扱う手配旅行である。

どの形態を選ぶかは目的や内容によっても違うが、ともかく旅先で自由に動きたい人は2.3.の個人旅行になる。なお都市や乗り物、ホテル等のバリアフリー情報などを調べる方法や時間のない人はオーダーメードの旅行を旅行会社に頼むとよい。

(5)転ばぬ先の情報収集と提供

旅先では、どんな出来事に遭うか計り知れない。そのためできるだけ情報を集めておくことは事前の対応と心構えができる。情報の収集では、都市や観光地、ホテルのバリアフリー状況を把握する、またバリアに対する対応策を調べておくことが狙いである。

1.情報はインターネットで

最近ではインターネットを活用した方法が最も効率的である。ネット上には実際に旅行に行ってきた障害者の体験記や写真、また公的機関、商用のホームページなどが数多く載せられている。こうした情報を丹念に検索していくと、思いがけない情報にぶつかることがある。情報探しも旅行をするうえでの楽しみの一つといえる。

2.信頼度の高い情報確保

情報は信頼性が一番である。情報が更新されていない古いままのものもあるので気をつけること。その点、各国の政府観光局や航空会社などの公式サイトに載せられているバリアフリー情報は、比較的新しく信頼性が高い。たとえば香港政府観光局、オーストラリア政府観光局、オアフ観光局などがある。直接メールや電話などで最新情報を得るとよい。

3.情報のうのみは禁物

ホームページや雑誌などの情報は一方的に発信されるものが多く、バリアフリーに対する考え方や基準もまちまちで、そのまま情報をうのみにするのは禁物である。障害により対応は個々に違い、使い勝手も異なるので必ず確認を取ることをすすめる。また問い合わせをした時に「大丈夫」「ノープロブレム」という言葉がよく使われるが、非常に便利であるとともに曖昧な言葉なので注意が要る。

(6)快適な旅行をするための情報提供

安心感を得るためにはいろいろなチャンネルを活用して情報を集めておくことは言うまでもない。同様に航空会社やホテル等に、自分の障害について最低限の情報を提供していくことも安心感と快適性を得るうえで必要とされる。

1.航空機利用

予約の際に自分の障害について、また配慮してほしいことをきちんと伝えておくこと。たとえば、車いすや電動車いすを利用していること、人工呼吸器や酸素ボンベ等の医療機器を持ち込むなどである。配慮についても飛行機のドア近くまで自分の車いすで行きたいことや、足元の広めの席や通路側の席の指定、食事には“刻み食”を用意することなど具体的なリクエストをしておくとよい。なお視覚や聴覚に障害がある人では、搭乗までのガイドヘルプや筆談による説明・案内等、機内でのサポートなどを伝えておくといい。航空会社には専門の窓口があり、日本航空ではJALプライオリティゲスト予約センターが、全日空ではANAスカイアシストデスクが設けられている。また外国の航空会社では、アメリカン航空、ユナイテッド航空、ニュージランド航空などホームページで案内がされている。

2.ホテル利用

ホテル予約でも、車いす利用、視覚や聴覚に障害があることを伝え、建物の入口のアクセス、館内の導線、客室の作りを、また最近はセキュリティーが厳しく、客室へのエレベーターに乗るにも部屋のカードキーを差し込まないと動かないものもあるので十分確認しておくこと。なお配慮をしてほしいものがあればリクエストしておくといい。滞在期間がどんなに短くてもトイレや入浴、洗面、就寝などは毎日のことなので不便を感じないようにすることである。欧米のホテルでは、車いす障害者や配慮が必要な人たちへのアクセシブルルームを持つところが多い。また、一般客室も日本のようにバス・トイレの入口に段差があるユニットタイプのところは少なく、障害程度によっては十分に使えるところもある。バスルームはバスタブがあるか、シャワーしかないのか、入口の段差やドア幅、ハンドシャワーや手すりの有無などを、ベッドの高さについても車いすからよじ登るようなものもあるので、自分の車いすの幅や座面の高さ等を伝え調べてもらうとよい。

3.乗り物への乗り継ぎ

旅先では、観光地や都市の移動で飛行機以外のバスや列車、船などさまざまな乗り物を利用することが多い。しかし、バリアフリー設備が整ったものは少なく、特にこうした移動手段で困難になるのが車いす障害者である。またオプショナルツアーに参加するにしても車いすで参加できるものは少ない。現地に行ってからでは対応できないものもあり、事前に探し、情報を流しておくこともスムーズな旅行を実現させるうえで大切になる。

旅をするうえでの注意

(1)自分の能力を過信しないこと

旅に出ると日常の規則正しい生活から開放され、チャレンジ心も高まってくる。国によっては、障害があってもパワーボートやパラセイリング、バンジージャンプなど危険なものにまでチャレンジすることができる。国内のレジャー施設では、乗り物や遊具に乗る際に細かな規則で制約されていたものが一気に解放され、やる気があれば快く手伝ってもくれる。しかし万が一、ケガをした時のリスクは選択した本人が負うこと、つまり自己責任が問われるので十分に注意すること。こうした意味では自分の障害について、また残された能力をきちんとつかんでおくことが求められる。

(2)入国での注意

旅行中障害によっては、毎日常用しているクスリを大量に持参することもある。その際、クスリについては英文で薬剤名(商品名ではなく)や服薬量、回数などの情報をまとめておくとよい。外国の通関では、麻薬、覚醒剤を厳重に調べる国が多く、薬を誤って没収されてしまうトラブルもあるので注意が必要である。また人工呼吸器や在宅酸素療法など医療機器を利用している人では、英文の診断書を主治医に書いてもらうことをすすめる。現地で状態が急変した時に、病院で説明や検査にあまり時間を掛けないためにである。

(3)病気、ケガ等の保険

海外旅行では海外旅行傷害保険に必ず入ることをすすめる。旅先では何が起きるか予想することができない。事故やケガ、病気や他人をケガさせたり物を壊したり、盗難に遭うことも珍しくない。障害や病気があっても加入することができるが、告知事項の欄に病気の種類や症状を記入しておくことを忘れずに。何も書かずに加入し、後で保険金が出ないこともある。保険会社は告知事項の内容を見て補償の範囲を判断し、補償額や保険料の再計算をしてくれる。大手の保険会社では東京海上火災保険株式会社、JI傷害火災保険株式会社、AIUなど3社があるが、どの保険会社を選ぶかは、日本語によるサービスが現地でどのくらい受けられるかなどを目安にするといい。主要な都市には、現地の総合病院や一般病院と提携し治療や処置を行ったり、なかには日本語の話せる医師やスタッフのいるところもあり、こうしたサービスを提供してもらえるところを調べておくこともひとつである。緊急の場合には、日本大使館や領事館で病院を探してもらうこともできる。

知っておくと便利なこと

(1)福祉用具の活用

1.電動車いす

観光地では歩く距離が長くなり、杖等を利用する人には予想以上に足腰の負担が大きい。こうした歩行に障害がある人たちを補助する道具として電動車いすは大きな力になる。ただ従来型の電動車いすはスピードとパワーがあり、初めての人には不向きである。その点、簡易電動車いすは軽量で折りたたみもでき、スピード(時速2~4km)も抑えられているので、比較的初めての人でも扱いやすい。坂道や軽い段差などでも力不足を感じない。旅行の期間だけのレンタルもでき、事前に空港などへの宅配もしてもらえるので便利である。

2.手動式車いす

リフト付きバン等の移動手段がない地域へ普段利用している電動車いすで行く場合には、折りたたみができる簡易電動車いすに代えていくか、手動車いすを別に持っていくと便利である。重量の重い電動車いすでは、段差の多い歩道やお店の入口の階段で身動きがとれなくなってしまう可能性が大きい。こんな時、軽量で折りたたみができる車いすがあれば、タクシーのトランクに簡単に積み込めるので、使い分けをしながら旅行を楽しむことができる。

3.パンク修復剤

海外では車いすのタイヤがパンクしても簡単に修理することは難しい。修理をしてくれるお店を探すだけで貴重な時間を費やしてしまう。そのため、普段から利用している電動車いすや車いすのタイヤにパンク修復剤を入れておけば、いざというときに困らずに済む。

(2)移動手段の確保

ヨーロッパやアメリカ、カナダ、オーストラリアでは、車いすで路線バスや鉄道を利用して動ける都市が多くある。しかし、必ずしも観光地まで交通機関の整備が進んでいるとは限らないので勘違いすることがある。でもおおむねこうした都市の多くにはリフトやスロープ付きのバン、また手で運転操作ができるハンディコントロールカーのレンタカーもあるので上手に調べ活用するといい。一方、タイやインドネシア、ベトナムなどバリアフリー整備が途上の国々では、公共交通はもとより福祉車両など車いすで乗れる移動手段を探し出すことは至難の業である。そこでアジアを旅行する時には普通のバンの座席を外しておいて、2枚の板を渡してスロープ代わりにするなど工夫をすれば決して不可能ではない。

(3)ホテル内のバリアは工夫で解決

障害が重く車いすからベッド、トイレなど自力で乗り移りができない場合でも旅行を諦めることはない。海外でリフターが設備されているホテルを時間と労力を掛けて探しだすより、ホテルのスタッフやポーターにお願いすれば乗り移りなど気軽に手伝ってくれる。また設備でも、シャワーチェアがなくてもデッキチェアなどを代用したり柔軟な発想と工夫で乗り越えよう。

おわりに

旅先ではいろいろな出会いがある。日本では観ることのできない風景や建物、自然、食べ物や文化など限りがない。なかでも人との出会いは最も印象を強く残す。人との出会いによってその国が身近に感じられて第二の故郷になってしまう人もいる。

私自身もオーストラリアの小さな街が好きになった。そこは交通の便があまり良くないため観光客も少なく、雰囲気も落ち着いている。洒落たコロニアル風の街並みを電動車いすで散策、店やレストラン、建物は、意外なほど整備が進んでいる。近くにある島に渡ればシュノーケリングもでき、遊んだ後は冷えた体をワインで温める。フィッシュアンドチップスをつまみながらくつろぐ。海から吹き寄せる熱帯の風が心地よく酔わせてくれる。ひたすらのんびりと過ごす――それがここでの一番の楽しみ方だ。この街を教えてくれたのは、地元で長くバリアフリーの活動に取り組んでいる女性だった。彼女の強い誘いで出かけてきたのがきっかけで、その後も体と心をリフレッシュするため何度もこの地を訪れた。

人とのふれあいが、こんなにすてきな時を楽しませてくれる。旅先では、出会った人々が、バリアを取り除いてくれることも少なくない。世界は広い。思いがけないところに、安心して旅行ができるところがある。

(いまにしまさよし 合資会社ウエストナウ代表)


表 海外バリアフリー情報一覧

航空・空港 url
ANA スカイアシストデスク http://www.ana.co.jp/share/assist/index.html
JAL プライオリティ・ゲストサポート http://www.jal.co.jp/jalpri/
ユナイテッド航空 http://www.unitedairlines.co.jp/jsp/ja/support/customers_with_disabilities.jsp
ニュージーランド航空 http://www.airnewzealand.jp/travelinfo/travelsupport/special_assistance/default.htm
アメリカン航空 http://www.americanairlines.jp/content/jp/onboard/support.jhtml
エア・カナダ http://www.aircanada.jp/ja/special-services.htm?cLoc=jp
成田空港(おからだの不自由なお客様へ) http://www.narita-airport.jp/jp/bf/index.html
関西国際空港 http://www.kiac.co.jp/


乗り物 url
客船クルーズネット http://www.hi-ho.ne.jp/cruise/index.html
ハーツ http://japan.hertz.com/
ユーロスター http://www.railpass.com/dtravel.htm


政府観光局 url
香港政府観光局 http://www.discoverhongkong.com/jpn/news/hkmap/index.html
オアフ観光局 http://www.visit-oahu.jp/
オーストラリア政府観光局 http://www.australia.com/


現地情報 url
ハワイのバリアフリーホテル http://www.visit-oahu.jp/themes/barrierfree_hotels.php
車椅子ハワイ ドットコム http://www.kurumaisuhawaii.com/price.htm
ニュードリームケア NDC(日本とハワイの医療の架け橋) http://www.newdreamcare.com/
アクセシブルイタリア http://www.tour-web.com/accessibleitaly/geninfos.html
点字海外旅行ガイドブック ダウンロード http://www.coreroom.gr.jp/tour/tour.htm


旅行会社 url
JTB バリアフリープラザ http://www.jtb.co.jp/bfplaza/
近畿クラブツーリズム http://www.club-t.com/theme/barrierfree/index.htm
日本旅行 赤いうさぎ http://www8.nta.co.jp/akai-usagi/
チックトラベルセンター http://www.tictravel.co.jp/heart/index.html
HIS バリアフリートラベル http://www.his-j.com/tyo/barrierfree/barrierfree_index.htm