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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年10月号

私流、旅の楽しみ方

どきどきわくわく感を楽しむ旅

二羽泰子(ふたばやすこ)

毎日が小さな旅

「旅」と言って皆さんは何を思い浮かべますか? お金のかかる旅、時間のかかる旅、疲れそうな旅…。ここで、「私は毎日旅をしてますよ」などと言おうものなら、「なんて暇でお金持ちで物好きなのか!」と言われてしまいそうですね。もちろん一般的に想像されるような、学生時代にしかできなかった時間のかかる旅、大枚をはたいて行った海外の旅、のような経験もあるのですが、いくら私でも毎日そんな旅はしてられません。時間やお金や体力に物を言わせなくても十分に楽しい旅がいくらでもあるのです。

私は昔から、冒険を好む傾向にあったような気がします。いつもと違う道を通ってみたり、普段行かない店に入ってみたり、どこかで興味のあるイベントがあると、そこまでどのようにしてたどり着くかを考えてわくわくしたり、子どもの頃から探検好きで、それはいまだに変わっていないようです。「そんな無駄な時間はない」「そんなことくらいでわくわくするのか」と冷静な皆さん、これがなかなか楽しいんですよ。普段と違う道を通るだけで、いつもと違う店で買い物をするだけで、新たな出会いや発見が待っているのですから。

たまには、海外に行ったりすることもあります。特に、大学生の時は、レポートの山を前にしながらも、長期休みに行く旅のプランだけは、俗に言う現実逃避なるものに動かされて、着々と進めていました。格安航空券の相場をインターネットで検索して、良さそうな旅行会社に電話して空き状況や値段を比較する、現地に着いてからの状況をあれこれ思い浮かべて情報を集めておく、そうしていると「絶対行かなくちゃっ!」と意気込んできて、レポートなどは気合いで終わらせ、後は休みに向かってまっしぐらでした。

何でも楽しみに変える

私は、人とのふれあいからその土地の文化を味わうのがとても好きです。海外でも、観光旅行などはほとんどしたことがありません。海外の現地NGOにお願いして、夏休み中ずっとインターンをさせてもらったり、学生で何もわからないのに「オブザーバーですから」と言い訳して国際会議に行ってみたりしながら、現地の方と繋がりをつくり、その土地ならではの旅を満喫してきました。

海外でも国内でも、たとえ近所の散歩でもそうですが、新しい場所に行くというのはとにかく楽しいものです。いえ、期待してはいけません。「すばらしい人に出会うだろう。きっと親切な方が案内してくれるだろう」などという平和な予想をしていると、2回に1回はがっかりしたりショックを受けたりしてしまいます。そうではなくて、「今日はどんな事件が起こるだろう…! いったいどんな変な人に会うことだろうか…」と、不安と期待の入り交じったわくわく感を楽しむことが重要なのです。とんでもなく理解のない人に出会うこともありますし、相当に道に迷ってさんざん歩き回ることだってあるでしょう、でもそれが旅の楽しみなのです。「ああ、今日はさんざんだった。疲れた」と終わらせてしまうのはあまりにももったいないではありませんか。「ああ、今日は迷ったおかげで知らなかった道を発見した」「今日会った変な人の話を明日友達に伝えなきゃ」と、何でも楽しんでしまえばいいのです。極端な話、旅をするつもりはなく、バスの停留所を間違えて降りてしまったような時でさえ、「ちゃんと家にたどり着けるだろうか!」というわくわくする旅に変えてしまえば毎日幸せになれます。

視覚障害ならではの楽しみ

私は旅をする時、視覚障害があってよかったと思うことがよくあります。「えっ、見えなかったら危ないだけでしょう!」などと注意されそうですが、そんなことはありません。もちろん、最低限の安全確保は心掛けていますが、見えないおかげでいろいろな人に出会えるというのは本当に幸せな話です。孤独に何時間も乗り物に乗ったり、さまよい歩いたりしていたら、いくら私が物好きでもたまりません。でも、「大丈夫ですか」などと声をかけてくださる方はたくさんいるもので、実際には全くもって「大丈夫」であったりするのですが、ちょっと手引きしてもらったりする間に、話に花が咲くような楽しみというのは、視覚障害でもなければなかなか味わえないのではないでしょうか。

私にとって、旅をするということは、近所で散歩するのも、電車でちょっと足を延ばしてみるのも、海外も変わりません。いえ、通勤帰りに「今日はちょっと遠回りして帰ろうかな」というのだって立派な旅だと思っています。また、障害が大きいかどうかも問題ではありません。「今日は何が起こるだろう…」というどきどきする感覚、それがまさに旅のおもしろさだからです。

この原稿を頼まれた際に、「最後に旅の必需品は何か教えてほしい」という話だったのですが、正直困ってしまいました。なぜかって、海外に行く時でさえ、私の荷物の準備は相当にいい加減なんです。「とりあえずお金とパスポートと白杖さえあれば、何の問題もないし」ということで、前日の数十分で、必要そうな物を思いつくままに鞄に投げ込んで終わり(笑)。一応、一度行ったところであれば、必需品がないこともないですし、迷いそうな場所では、インターネットから地図を印刷して持っていくぐらいの準備はしますが、それも毎回というわけでもありません。唯一、本当に必需品なのは白杖ですが、そんなことをこの場で宣言しなくたって暗黙の了解というものでしょう。

そこで、「必需」だと思われる旅への態度を3つ挙げてみます。

  1. とにかく前向きに
  2. 好奇心を持って
  3. 何でも楽しんでしまう気合い

です。もう説明は要りませんね。これまで行ったこともない場所に行き、これまで味わったことのない経験をし、これまで見たこともない人々や風景に出会う旅に、皆さんもぜひこれから、出かけてみてください。

(元JICA専門家)