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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年10月号

私流、旅の楽しみ方

出会い探しの修行の旅

大久保健一(おおくぼけんいち)

行き当たりばったりの貧乏旅行

僕の旅行はバリアフリーとかを度外視したとにかく貧乏旅行である。限られた費用の中で先着限定の一番安い格安航空券を朝から旅行会社に並んで取り、そして、現地のホテルはほとんど予約せずに行き当たりばったりで安い宿を探す。こういった海外旅行は日々の食費などを削りながら、年に2、3回の海外旅行でドバッと使うのが基本的な僕の楽しみ方だ。だからよく海外にばっかり行ってうらやましいと言われるが、日々の節約の努力と格安航空券の情報収集があってこその海外旅行である。今まで行った国々はアメリカ、韓国、中国、タイ、ベトナム、パキスタン、イギリス、オランダ、プエルトリコといった感じだ。

ロスのダウンタウンで

生まれて初めて行った海外は19歳の頃でアメリカのロサンゼルスやラスベガスに行った。この時は団体旅行だったのだが、自由行動も多くてロスのダウンタウンに夕暮れ近くに行き、路上生活者たちに囲まれて「マネー! マネー!」とせがまれたのは海外の怖さと反面、面白さ(障害者をどこでも受容する雰囲気)を教えられた。その後、自立生活センターの先輩に修行として一人で海外に行ってこいと言われ、21歳の時に海外一人旅を初めて経験した。ある情報でカリブ海にあるプエルトリコはミスインターナショナルになった人が多いということを知り、「小さい島の中には美人がいっぱいいるだろう!」と幻想を抱いて行くことにした。それもロサンゼルス往復のみの格安航空券だけを日本で買って、あとはアメリカでどうにかしようと短絡的に旅立った。

会話帳を頼りにジェスチャーでアタック

僕自身は外国語を話せないので、辞典や本などを頼りに後はジェスチャーでコミュニケーションをとるわけだ。そのような言葉の壁もあり、ロスからプエルトリコへの航空券をとるだけでも3日間くらいかかってやっと着いたのだが、間違って電動車いすで高速道路を走ったようでポリスに呼び止められ、現地の日本人会に紹介された。そこは日系企業の現地法人の役員さんばかりでホテルや食事など丁寧に案内された。一番の目的である美人探しのことを聞いてみたところ、「そんな理由でここまで来た日本人も初めてだし、美人は養成学校にはいるが、街にはいないよ」とあっけなく目標は打ち破られた。でもこれで海外でも何とかなるんだという度胸がつき、旅は何があるのか分からない(障害者は余計にハプニングも多い)という面白さが病みつきになったのだった。

「美人と出会いたい…」

中国をはじめ、アジアはバリアだらけで障害者ももの珍しく、屋台で飯を食べているだけでも数十人に囲まれて、腕を組んで僕の食べている姿を見ているので最初は恥ずかしいのだが、現地人と何でも話せるきっかけを作れて、それは得なことだ。アジア慣れしていない障害者が初めてそのような場面に出遭えば、日本以上に視線が多くて歩きにくいかもしれないが、僕の場合は言葉が分からないせいもあって、堂々とスター気分で闊歩している。それが病みつきになるのだ。もちろんバリアやスリルや入店拒否などの差別もめちゃくちゃあるが、いろんな出会いやおいしいものを食べられたり、いわばハイリスクハイリターンの旅行が僕の基本スタイルだ。それに加え、「観光はしない」「美人と出会いたい」というのも基本だ。昼間は安宿に寝ていて、夜な夜な街に繰り出して客引きがあれば怪しいと思っても、まずは行ってみるようにしている。それが上手くいけばいいホテルを取るし、失敗したら空港や駅に野宿する。言葉は分からないものの、指差し会話帳があれば何とかなるし、びっくりするくらいの美人に出会えたり、どこよりもうまい家庭料理を振舞われたりする。

気になる途上国の障害者

こうして遊び感覚で旅行を続けているのだが、どうしても当事者として、その国の障害者の状況が気になることも多くて、少ないながら車いすが手に入りにくいアジアの障害者に車いすを贈りながら交流をさせてもらっている。絶対に日本より厳しい環境の中で暮らしている障害者なのに、ハングリー精神が多くて逆に僕らがパワーをもらっている。発展途上国では脳性マヒの人自体を見るのが珍しいようで、「積極的に受け入れる人」と「消極的に関わらないようにする人」にくっきり分かれる。日本でも何となくあることだが、その人が醸し出している雰囲気で分かるものだ。たとえば僕が握手しようとして手を出すと、抱擁してくれる人もいれば逃げて行ってしまう人もいる。それは不快ではなくて、いろいろな人がいるのだなと、勉強させられる。僕の好みの女性は大体、逃げちゃうんだよなぁ(ボヤき)。いずれにしても、僕にとって海外一人旅は、趣味というより、出会い探しを含めた修行であり、この旅行癖は一生治らないであろう。

(障害者生活支援TIJ)

◆僕の旅行必需品◆

必需品1:「変圧器」 電動車いすの充電のため。
必需品2:「指指し会話帳」 僕の唯一のコミュニケーション手段。
必需品3:「使い捨てカメラ」 美人とのツーショット用。