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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年10月号

1000字提言

盲導犬のトイレについて思うこと

西政宏

私は、親愛なる盲導犬と別れてから約1年半になるが、そのパートナーの献身的な付き添いのおかげでいろいろな道を覚え、さまざまな催しに参加し、多方面の方々と交友を深められた。その時育んだ人の和や歩行テクニックは、白杖歩行をしている今もかけがえのない財産である。その私が、盲導犬と共に歩いていて、最も苦労したのは、盲導犬の排泄場所を見つけることであった。土日の休暇に全盲一人で外出するたびに、街中で排泄場所を手配する困難を感じたものだった。私を含め盲導犬使用者は視力に大きな制限があるので、盲導犬にトイレをさせても、周囲の人にできるだけ迷惑や不快感を与えないという場所を選定するのが難しい。

この問題を解消するために、個々の使用者が種々のアプローチを取っている。一つは、長時間の移動の際には水やフードをできるだけ控えさせて、排泄の頻度をコントロールするやり方である。この方法は、他のあらゆる方法が利用できない時のために知っておく必要はあるとして、盲導犬の心身の負担を考えると、極力使いたくない方法である。第二に、便や尿をビニール袋などで受ける対処法である。課題は、あのカサカサと音のするビニール袋をお尻にあてがわれた時に、多少違和感のようなものを示す盲導犬がいることである。また、袋のあて方が適当でない場合は、排泄物が外にこぼれることもありうる。私の盲導犬の場合、ビニール袋でする時は、いつもより便が小さかった。地面にする時に比べると多少緊張していたようであった。

他にも、通りがかりの人に、トイレ場所として適当な場所を尋ねるという使用者もあるかもしれない。この方法の難しい面は、トイレ場所としてどんなところが適当なのか知らない人にとってはアドバイスに困ることもありうることと、人によっては野外の公共の場所で犬が排泄をすることは、たとえ排泄物を持ち帰る等の処置を行ったとしても受け入れられないという人もいるかもしれないという点である。

これらの思案の末、私が数年前から要望していたことは、街中で安心して盲導犬が排泄できる場所を設けることであった。その限られた空間だけは、だれにも邪魔されずに排泄ができるという、人間ではごく当たり前の権利を、盲導犬にも与えてあげられたらと願ってのことである。私を含め多くの使用者のこのような願いを受けて、福岡市では、多数の支援者の皆さんの働き掛けにより、2003年に盲導犬のトイレが設置された。

工事費をどのように確保するかなどこれから解決すべき問題はたくさんあるが、まずその必要性について多くの人が共通理解を持つことが大切ではないだろうか。

(にしまさひろ 福岡県立福岡高等盲学校(英語科)教諭)