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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年10月号

列島縦断ネットワーキング

滋賀 障害のある人の「働きたい」を応援する滋賀県の取り組み

上田重和

就労支援をめぐる滋賀県の取り組みと課題

滋賀県の障害者福祉は、糸賀一雄氏の「この子らを世の光に」の言葉に代表されるように、どんなに重い障害があっても、地域の中でごく普通にいきいきと生活できるよう、できるだけ身近なところでサービスの提供が受けられる体制や活動できる場を整備し、積極的に地域福祉を推進してきたことが特徴としてあげられます。

地域における就労支援についても、共同作業所や授産施設等の整備を進めるとともに、平成12年度から障害のある人の「働く」部分に着目した「事業所型共同作業所」や、障害の重い人の創作活動や自己実現に向けた取り組みを行う「創作・軽作業型共同作業所」を整備し、社会参加や経済的自立を支援してきました。

しかしながら、障害のある人の「働く」環境は大変厳しい状況であり、授産施設等の平均工賃が1万5千円程度(平成12年滋賀県調査)、通所授産施設から企業への移行が0.25%(平成15年滋賀県調査)、障害者雇用率が1.68%(平成16年)などとなっており、地域において「働く」ことを支援する仕組みをいかに構築するか、障害のある人の経済的自立をどのように実現するかが大きな課題となっています。

「滋賀モデル」報告

こうした課題に対応するため、平成16年6月に「障害者の就労支援に関する検討委員会」を設置し、同年12月に検討委員会報告書「障害者の就労支援に関する今後の方向性―共に働き、共に暮らす『滋賀モデル』の創造―」(※1)が取りまとめられました。

報告書では、「地域における就労支援」「新たな雇用の場の創出」「共同作業所体系の見直し」を今後の就労支援策の三本柱と位置づけ、福祉圏域ごとに生活支援と就労支援を一体的に行い、就労支援のワンストップサービスの機能を有する「(仮称)働き・暮らし応援センター」や、障害のある人全員と雇用契約を締結し、障害のある人もない人も共に働く「(仮称)社会的事業所」制度、障害者雇用を進めるための企業ネットワークの必要性などが提案されるとともに、共同作業所制度を現在の3類型(事業所型、創作・軽作業型、従来型)から4類型(賃金確保型、就労支援型、創作・軽作業型、日中活動型)とすることなどが提案されました。

そして、今後の就労支援は、障害のある人がいかにノーマルな環境でノーマルに就労するかを追求することが必要であり、障害のある人もない人も共に働き、共に暮らすような社会の実現には、いかに福祉が変わっていくか、企業が変わっていくか、社会が変わっていくかが問われることになる、と報告されました。

障害者の「働きたい」を応援する滋賀共同宣言

こうした報告書の考え方を積極的に社会に発信するとともに、行政だけでなく、障害者団体や経済団体が一緒になって障害のある人の「働きたい」という思いを応援していこうと、平成17年2月に開催された「アメニティーフォーラムINしが」において、県、障害者団体、経済団体の8者による「障害者の『働きたい』を応援する滋賀共同宣言」(※2)を発表しました。どんなに重い障害があっても、身近な地域でいきいきと暮らしたいという思いを実現するため、障害のある人の「働きたい」を積極的に応援することとし、就労支援と生活支援の両面から働きたいという意欲を支えることや、働く場の拡大を図ること、さらには、働く意欲を持ち、自立して生活することをめざすことなどが宣言されました。

「滋賀モデル」の実践

滋賀共同宣言にも象徴されるように、滋賀県では、「福祉は福祉、雇用は雇用」という縦割りではなく、双方が一体的に支援を行うとともに、双方のすき間を埋める独自の制度を設け、障害者の「働きたい」を応援しています。具体的には、次の2つの事業を平成17年度から新たに展開しています。

(1)働き・暮らし応援センター事業

障害者の就労ニーズと企業の雇用ニーズを把握し、地域に密着した就労支援を進める拠点として、「働き・暮らし応援センター」を順次7つの全福祉圏域に整備することとしています。働き・暮らし応援センターには、障害者就業・生活支援センターの「雇用支援ワーカー」「生活支援ワーカー」に加え、就労先を開拓する「職場開拓員」、就労後の職場定着を支援する「就労サポーター」の2名を県独自に配置します。

また、障害者就業・生活支援センターに指定されていない圏域では、県独自に4名を配置し、実績を上げることで障害者就業・生活支援センターの指定をめざします。本事業は、県の福祉行政と労働行政、県と市町が共同して予算化するなど、地域行政が一丸となって取り組んでいます。

(2)社会的事業所

障害者の就労継続のための機能を有しつつ、障害のある人全員と雇用契約を締結し、最低賃金を保障する新たな就労の場として「社会的事業所」制度を創設し、障害のある人の社会的自立に向けて取り組んでいます。事業所型共同作業所制度では、雇用契約の締結が障害のある人全員ではなく、共同作業所という福祉の枠組みにとどまるものであり、また、福祉工場などの制度は一定の定員要件等が必要であり、小規模な事業主体による継続的な障害者雇用を支援する仕組みがありませんでした。そこで、福祉の枠組みを超え、地域に根ざした小規模な事業所の仕組みとして、県独自に「社会的事業所」を制度化し、障害のある人もない人も共に働くことを支援しています。

障害者福祉先進県として

滋賀県の障害者施策は、地域の多様で先進的な実践を評価し、制度化するなど、地域と行政が連携しながら取り組んできました。また、行政はあくまで黒子であり、障害のある方が主人公として、地域の中で輝きながら自分の夢や希望に向かって自分らしく努力できるよう、多様な支援の仕組みづくりを進めてきました。

滋賀県の國松知事も、常々、障害のある人もない人も共に地域で生活し、働き、活動することが本来の風景(原風景)であるという強い思いを持っており、平成13年度から県庁の職場に知的障害のある方を実習生として受け入れ、企業就労をめざす方に就労につながる知識や経験を身に付けていただく職場実習推進事業や、知的障害のある方を対象とした3級ホームヘルパー研修などを全国に先駆けて実施しています。

今後も、障害のある方の思いを大切にしながら、滋賀県らしい、全国のモデルとなるような取り組みを積極的かつ着実に進めていきたいと考えています。

(うえたしげかず 滋賀県健康福祉部障害者自立支援課)


 滋賀県障害者自立支援課ホームページ
 (http://www.pref.shiga.jp/e/shogai/)参照