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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年11月号

発達障害者支援法の概要及び発達障害支援の体制整備について

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課

1.はじめに

わが国では、発達障害についての全国的な実態調査がなされていないため、発達障害のある人の正確な数は分かっていませんが、文部科学省が平成14年度に実施した調査の結果において、小・中学校の通常の学級に在籍する児童生徒のうち、学習障害、注意欠陥/多動性障害、高機能自閉症により学習や行動の面で特別な教育的支援を必要とする児童生徒数について、その可能性のある児童生徒が約6%程度の割合で在籍していることが示されているなど、発達障害は頻度の高い障害であると考えられます。

しかしながら、これまで、1.発達障害のある人に対する支援を目的とした法律がなく、障害者法制における制度の谷間に置かれており、従来の施策では十分な対応がなされていないこと、2.発達障害は、障害としての認識が必ずしも一般的ではなく、その発見や適切な対応が遅れがちであること、3.この分野に関する専門家が少なく、適切な対応がとりにくいこと、といった問題点があったことから、発達障害のある人やその保護者は大きな精神的負担を強いられており、その支援体制の確立は喫緊の課題となっています。

このような状況のなか、平成16年12月3日に議員立法により成立した「発達障害者支援法」が平成17年4月1日に施行され、発達障害に対する国民の理解の促進や、発達障害のある人に対する包括的な支援体制の構築などに向けた本格的な取り組みがスタートしました。

本稿では、発達障害者支援法の主な内容と、今後の発達障害者支援の体制整備に向けた取り組みについて説明します。

2.発達障害者支援法の主な内容

(1)法律の趣旨

発達障害のある人については、症状の発現後できるかぎり早期の発達支援が特に重要であることから、発達支援を行うことに関する国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、発達障害のある人に対し学校教育等における支援を図るものです。

(2)発達障害の定義

この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものとされました。発達障害の定義が定まったことにより、支援の対象が明確になりました。

【参考】

政令で定める障害は、「脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもののうち、言語の障害、協調運動の障害その他厚生労働省令で定める障害」とされ、さらに、厚生労働省令で定める障害は、「心理的発達の障害並びに行動及び情緒の障害(自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、言語の障害及び協調運動の障害を除く。)」とされている。

これらの規定により想定される、法の対象となる障害は、脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもののうち、ICD―10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)における「心理的発達の障害(F80―F89)」及び「小児・児童・期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(F90―F98)」に含まれる障害である。

なお、てんかんなどの中枢神経系の疾患、脳外傷や脳血管障害の後遺症が、上記の障害を伴うものである場合においても、法の対象とするものである。

(3)地域における一貫した支援

国及び地方公共団体は、発達障害のある児童に対し、発達障害の症状の発現後できるだけ早期に、その者の状況に応じて適切に、就学前の発達支援、学校における発達支援その他の発達支援が行われるとともに、発達障害のある人に対する就労、地域における生活等に関する支援及び発達障害のある人の家族に対する支援が行われるよう、必要な措置を講じるものとされています。これにより、発達障害のある人のライフステージにおいて、児童の発達障害の早期発見、早期の発達支援、保育、教育及び放課後児童健全育成事業(学童保育)の利用、発達障害のある人の就労支援、地域での生活支援及び権利擁護並びに家族への支援など地域における一貫した支援の流れが明確にされるとともに、これにかかる国や地方公共団体の責務が明らかにされました。

(4)一貫した支援のための関係機関の連携

国及び地方公共団体は、発達障害のある人の支援等の施策を講じるに当たっては、医療、保健、福祉、教育及び労働に関する業務を担当する部局の相互の緊密な連携を確保するとともに、犯罪等により発達障害のある人が被害を受けること等を防止するため、これらの部局と消費生活に関する業務を担当する部局その他の関係機関との必要な協力体制の整備を行うものとされています。多岐にわたる各関係機関の連携やネットワークを構築して発達障害のある人への支援体制を整備していくことが一層重要になっています。

(5)専門家の確保

国及び地方公共団体は、発達障害のある人に対する支援を適切に行うことができるよう、医療、保健、福祉、教育等に従事する職員について、発達障害に関する専門的知識を有する人材を確保するよう努めるとともに、発達障害に対する理解を深め、及び専門性を高めるため研修等必要な措置を講じるものとされ、発達障害に関して専門的知識を有する人材をさまざまな形で確保していくことが求められています。

(6)発達障害の理解

国民は、発達障害のある人の福祉について理解を深め、発達障害のある人の社会参加に協力するように努めなければならないとされ、理解されづらい障害といわれている発達障害について社会の理解が求められています。また、発達障害の理解のためには、国及び地方公共団体は、発達障害に関する国民の理解を深めるため、必要な広報その他の啓発活動を行うものとするとされており、理解促進のための計画的な取り組みが必要です。

3.発達障害支援の体制整備について

発達障害者支援法の制定を機会として、今年度より、発達障害のある人の乳幼児期から成人期までの各ライフステージに対応する一貫した支援体制の整備を図るため、保健、医療、福祉、教育、雇用などの関係者がチームを組んで問題を解決する、「発達障害者支援体制整備事業」を実施し、地域における発達障害者支援の体制強化に取り組むこととしたところです。当事業の実施に当たっては、文部科学省の実施する「特別支援教育体制推進事業」と協働して実施することとしています。

「発達障害者支援体制整備事業」の具体的な内容は次のとおりです。

(1)都道府県等における支援体制の整備(都道府県等支援体制整備事業)

都道府県・指定都市において、医療、保健、福祉、教育、雇用など部局横断的施策を構築するために、発達障害にかかる関係者からなる「発達障害者支援体制整備検討委員会」を設置し、都道府県等内の支援体制整備の実態を把握したうえで、支援のネットワークの構築等、今後の都道府県等の発達障害者支援体制整備等について検討することとしています。

当委員会では、県内のニーズや体制整備の状況等を勘案し、(2)の圏域支援体制整備事業を実施する圏域を指定するとともに、その成果を検証のうえ、都道府県等内の望ましい支援体制の在り方について検討し、都道府県等内の全域に対してその成果を波及させることをめざしています。

また、発達障害に関して、各都道府県等の住民の理解を促進するため、パンフレットの配布やセミナーの開催等により、地域における広報・啓発活動を行うこととしています。

(2)圏域における支援体制の整備

(圏域支援体制整備事業)

支援体制整備をモデル的に実施することが有効であることから、(1)の発達障害者支援体制整備検討委員会で指定した圏域(障害保健福祉圏域等)において、発達障害のある人の乳幼児期から成人期までの各ライフステージに対応する一貫した支援を、個々の発達障害に応じたきめ細かな個別支援計画の作成に基づき、関係機関が連携して発達障害のある人への支援を実際に行うこととしています。

(3)発達・相談支援等のモデル事業の実施

発達障害については、自閉症はもとより学習障害や注意欠陥多動性障害等の障害の範囲に及び、その支援ニーズも医療、保健、福祉、教育、雇用等の広範囲に及んでいますが、このような広範囲にわたる発達障害のある人の支援ニーズやサービスモデルについては明らかになっていないのが現状です。このため、どのような人にどのような支援が必要なのかを検証するため、障害児施設等において、発達障害のある人に対する専門的な発達支援や相談支援等を実際に行うこととしています。

今後、これらの事業結果も踏まえ、発達障害のある人にふさわしい福祉サービスの在り方について検討するとともに、地域における発達障害者支援の中核機関である「発達障害者支援センター」等を通じた支援の充実強化に取り組むこととしています。