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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年11月号

親の立場から

自閉症の子どもと初めて出会った時に

氏田照子

イギリスの精神科医ローナ・ウイング博士の「自閉症スペクトラム概念」の提唱により、1990年代は、日本でも高機能自閉症やアスペルガー症候群などの知的遅れのない自閉症の存在とその生活の困難さが明らかになりはじめました。全国47都道府県に49の支部を持つ日本自閉症協会の会員も、それまでの知的障害合併群に加えて、近年、高機能自閉症やアスペルガー症候群のお子さんを持つご家族の入会が急激に増えています。

最近では、「自閉症」という言葉についてはようやく広く世間一般に知られてきてはいますが、自閉症の中でも高機能自閉症やアスペルガー症候群についての認知度はまだまだ低く、支援体制も未整備なままです。また高機能自閉症と判明しても、実際にどのように育てていけばよいのか、その先の方法が示される訳ではなく具体的な支援がないのが現状です。

「発達障害者支援法」が4月1日にいよいよ施行されました。支援法では、国や地方公共団体、国民の発達障害に対する責務が課されていますが、その中に「早期発見、早期の発達支援」の重要性が明記されています。次頁のグラフは、現在、乳幼児健診に関わっている保健師さんに対して自閉症への理解度や受講されている研修などについて18項目の質問紙により調査をさせていただいたものです。

83人の保健師さんからの回答結果について報告をいたしますと、「自閉症とはどういう障害だと思いますか?」という設問における正解率が35%というとても低い結果が出ています。また「自閉症の診断に関して、診断に必要な知識やスキルの研修を受けたことがありますか?」の問いに対しては、このような研修を受けた方が、わずか4分の1(25%)に過ぎないということがわかりました。また研修を受けている群と受けていない群とで比べてみたところ、自閉症の理解度に有意差がないということもわかりました。研修の内容を早急に充実させる必要があります。

発達障害者支援法は、市町村で行われる健診などの際に、「児童の発達障害の早期発見と早期の発達支援」について必要な措置をとること、十分留意しなければならないことなどを規定しています。この健診にあたって、あるいは日常的に母親が育児不安を抱えたときなどに頼りになるのが、それぞれの町にいる保健師さんです。

実は、今回のアンケート結果を見るまでもなく、これまでも自閉症などの発達障害について、正しい知識を持っていない保健師さんたちは残念ながら少なくありませんでした。たとえば、母親が子どもの異常に気づいて相談に行っても「お母さん、考えすぎですよ」とか「もっと話しかけてあげて」など、的外れな指導を受けた家族の話は少なくありません。保健師さんは、初めて子育てにのぞむ母親にとって身近な存在ですし、これからはぜひこの最初の出会いをする場のスペシャリストたちに自閉症などの発達障害についての正しい知識を持ってほしいと思います。また、今も昔も変わらないこの状況を改善するためには、専門家の養成が不可欠です。有効性のある研修を実施し、自閉症がわかるスペシャリストたちを早急に養成してほしいと思います。

最新のアメリカのデータでは、今日生まれる赤ちゃんの166人に1人がこの障害をもっていると言われています。発達障害者支援法の施行によって、今まで発達障害に気づかれずに苦労してきた多くの人たちが社会から理解され、また、今、成長しつつある子どもたちやこれから生まれてくる子どもたちの一人ひとりが、十分な理解のうえに必要なサポートを受けて健やかに育つことができる社会になることを願ってやみません。

(うじたてるこ 社団法人日本自閉症協会副会長)