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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年11月号

民間団体による支援

みどりっこ親子の居場所「はなまる」

松岡美子

はじめに

横浜市は県内18区、人口約364万人という巨大都市です。それ故同じ市内でも地域によるさまざまな格差があります。子育て支援にしてもその地域によって求められることには違いがあると思われます。私の住んでいる横浜市北部はニュータウン等があり転入者が多く、子育て世代が多い地域です。結婚して、あるいは子どもが生まれてこの地域に来た、という方も多く、近くに知り合いもなく、まして子育てのことを相談できる人もいない、という親が多い地域だと思います。

ただでさえ子どもを初めて育てることは不安だらけです。まして発達に遅れがあるのでは、ということを健診等で指摘された時に相談できる場や人が少ない現状では、どんなに心細いかと思います。

最近、高機能発達障害児がテレビ等で取り上げられ、少しずつ認識がされつつあると思いますが、しかしほとんどの方はこの障がいを知りません。また、親自身も障がいという認識がまだ持てない時に、育てにくい、周りとトラブルばかり起こすわがままな子、あるいは一緒に何かをすることができない協調性のない子、というように感じてしまうのではないでしょうか?また、この子がこうなのは親のせいというような目にさらされ、また親自身も子どもが何かするのではとビクビクしながら生活している、そんな姿が目に浮かびます。

そんな時に、地域に自分が不安に思うことを話せる友人や、相談できる先輩お母さんがいたら、どんなに心強いことでしょう。そんな居場所が地域にほしいという声が、たくさんの方から出ていました。

親子の居場所とは

横浜市は児童館がなく、親子が自由に過ごせる居場所が非常に少ない状況です。また公共の施設にプレイルームのようなところはありますが、子どもの声や動きに対して、厳しい声もあり、親子が主役でいられる場所は特に乳幼児にはありませんでした。

市民団体や公共の施設でも月に何回か、そのような親子のための広場を行っており、多くの親子連れが参加しています。ただ、常設ではないため、いつでも行きたいときに行ける場所、という訳でなく、またイベント性も強く、ここで親同士がお友達をつくる、という場にはなりにくいように思われます。私は以前、横浜市と協働で親子の居場所を調査したことがありますが、そこでも常設の親子の居場所を求める声が多く上がっていました。

そのような折、横浜市の協働モデル事業の一つとして、区との協働事業で、常設の居場所を作るというお話があり、設立準備委員会の段階から参加し、どのような居場所が求められているかを行政と共に考えて、作り上げていきました。そして昨年の10月に常設の「みどりっこ親子の居場所はなまる」が誕生しました。

企画・運営は子育て中の母親たちのグループで、親子のための広場活動を行っていた「グリーンママ」が公募により決まりました。

「はなまる」は平日の10時から16時まで、主に乳幼児親子が自由に過ごせる所です。この居場所は、子育て真っ最中の母親たちが企画・運営することで、ニーズに合ったものができています。また運営していく中で、もっと必要なことがあるのでは、と思ったら、それをすぐに実行に移すというフットワークのよさは、行政ではなかなかできないことであり、市民運営ならでは、と思います。ここで生まれた企画が、障がいや発達の遅れに心配がある親子のための「土曜広場」で、月に一度開催するというものでした。

「はなまる」はすべての親子の居場所であるので、たくさんの親子に来ていただきたいと思っているのですが、なかには大勢子どもがいる環境が苦手なお子さんや、わかりにくい障がいであるがために、集団に入ることにお母さん自身が躊躇されるということを聞いて、では気兼ねなく来れるようにと、土曜日に行うことにし、小学生のお子さんまで受け入れることにしました。

地域の中に居場所があることの重要性

この居場所「はなまる」の子育てアドバイザーにもなっていただいている、東洋英和女学院大学教授の石渡和実先生から、スタッフも障害福祉に関する勉強会をし、先生のゼミの生徒さんたちがサポーターとして子どもたちと遊んだり親御さんと話をしたりしています。また、このような居場所を開いていることを、近隣の大学の保育科や社会福祉の専門学校等に広報し、広く学生のボランティアを募っています。子どもたちはお姉さんやお兄さんたちと遊んでもらい、親御さんからはいつも子どものことが気になって、ゆっくりすることができないけれど、ここではゆっくりと話をしたり、本を読むことができたということをお聞きし、子どもたちもここを気に入って、本当に楽しそうにしているので、私たちもうれしく思っています。

また、学生さんにとっても実際に子どもや親と接することで、わかること、感じることが多くあったという感想があがっています。現在は、小さな子どもたちと触れ合うという経験ができないなか、継続的に実践できる場があることは、学生さんにとっても、意義あることと思います。

この居場所の見守りをしているのは、子育て中の母親や、地域の年配の方ですが、その方たちがまずこういった親子と知り合うことで、子どもの特性を理解し、また母親同士子育てのことを話すなかで、自分たちと何ら変わりないということをお互いが感じ取ることが大切だと思います。ともすると、障がい児親子で固まってしまいがちですが、子どもはさまざまな子どもたちの中にいることで成長しますし、母親もいろいろな方とお話しすることで自分自身の友人をつくれると思います。そして、その子が成長するだけでなく、周りの子どもたちもその子のおかげで成長していくと思います。

私自身、次男が自閉症であるとわかったのが保育園に入園した4歳の時でした。しかし、それまで長男の友達や私自身も友人に恵まれ、孤独な子育てでなかったこと、また次男も保育園に入り、そこで多くの友だちと共に生活をし、先生方に見守られて過ごすことができ、安心してお任せできる場所があったことが幸いでした。

しかし、これが初めての子で、子どもや私自身いろいろ話せる友人がいなかったら、どんなに辛かったかと思います。自分を受け入れてくれる場所がある、このことは、子どもにとっても大人にとっても大切なことだと思います。「はなまる」をすべての親子にとって居心地のいい居場所にする、これが大きなコンセプトであり、そのためには何をすべきかを常に考えていきたいと思います。

おわりに

私たちは保育の専門家でも、障がい児教育の専門家でもありませんが、目の前にいる子どもをよく見ることで、この子が何を望んでいるかを感じることはできると思います。また親御さんと話をすることで、お互い共有の悩みを話したり、少し先輩なら大丈夫と肩の荷を降ろすお手伝いはできるかもしれません。

専門性を求めるのであれば、情報をお伝えし、その橋渡しをすることが行政と協働で行っている私たちができることだと思います。そして親同士の情報交換の場としても大いに利用してほしいと思います。そしてさらに、すべての親子が生きやすくするためにはどうすべきかを、市民、行政、教育、関係機関がこの場を通して集い、共に考え実践する場にしていきたいと思います。

多くの大人が子どもの成長を見守る、そんな場にこの「はなまる」がなれるよう、そしてこのような居場所がもっともっと増えるよう、これからも頑張っていきたいと思っています。

(まつおかよしこ みどりっこ親子の居場所「はなまる」)