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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年11月号

列島縦断ネットワーキング

兵庫 新JIS制度で何が変わるか
―新JIS制度における福祉用具―

鈴木寿郎

有限責任中間法人日本福祉用具評価センター(JASPEC)は、安全な福祉用具を安心してご使用いただくために、根拠のある工学的基準に基づく製品テストを行う機関です。福祉用具に関連する多くの企業・団体・学識経験者の協力により、医療産業都市構想を掲げる神戸市に昨年11月に設立しました。

福祉用具にこそ必要な工学的安全基準

福祉用具は、高齢者・障害者の生活環境を大きく広げる道具であり、身体に密着して使用するものが多いため、他の製品にも増して耐久性・安全性を重視した道具でなければなりません。福祉用具を選択する場合、利用される方の生活環境・身体状況への適合性と同様に、機器としての耐久性・安全性が重要な要素となります。

しかし、これまでハードの耐久性・安全性を十分に利用者へ伝達できているとは言い難い現状がありました。製品利用者に最低限の品質特性や安全性を客観的に伝達する制度としては、JISマーク制度があります。製品の信頼を示すJIS(日本工業規格)は、工業標準化法に基づき制定された国家規格であり、主務大臣の認定を受けた製造業者が自己責任で表示するものがJISマークです。このJISマーク表示が適用される品目は、JISが制定されている品目の中から主務大臣が指定していました。車いす、義肢・装具など一部の福祉用具にはJIS規格がありますが、JISマークを表示する指定品目とはなっていなかったため、規格をクリアした製品なのか否かの判断が利用者に伝わらないという現状がありました。

新JIS制度で何が変わるのか

このJIS制度が大きく変わり、新JISと呼ばれる制度になりました。新制度では、主務大臣による製造業者認定がなくなり、国に登録される第三者機関による工場審査・製品認証制度に変わります。JISマーク制度も主務大臣による指定品目がなくなり、基本的にはすべての鉱工業品が表示対象になります。つまり、福祉用具も登録第三者機関で認証された製品には、JISマークを表示することが可能になるということです。これにより、製品の品質保証が見た目でわかるため安心してご使用いただける環境が整うと考えています。

JASPECの役割

新制度では、鉱工業品にJISマークを表示するためには、認証区分ごとに登録された第三者機関での検査・認証を受ける必要があります。JASPECは登録受付が始まり次第、福祉用具を区分とする第三者試験・認証機関としての登録申請を行います。申請後、品質システム・試験機器などが試験を実施するうえで適切であるかどうか、定められたとおり品質システムが運営されているかなどが審査され、その後正式に福祉用具の第三者製品試験・認証機関になる見込みです。

第三者登録機関の役割は、規格に沿った製品の型式試験の実施及び試験結果に基づく製品の認証に加え、製造業者の工場審査、新JISマークの貼付などがあります。また、試験結果・認証製品リストの公表も重要な役割です。

福祉用具選択基準の一つとして、製品の安全性確認の際にJASPECが公表する製品情報や、JASPEC認証に基づくJISマークの有無を参考にしていただければ幸いです。

JASPECで評価する福祉用具

JASPECは、新JIS制度における第三者機関をめざしています。したがって、評価する福祉用具は、JIS規格がある品目が中心になります。現在、規格がある福祉用具は手動車いす・電動車いす・病院用ギャッジベッド・段差解消機などです。まず、これらの用具の評価から始めています。

また、今後規格化が予想される福祉用具も多数あります。現在、規格原案が提案済みで制定待ちの品目として、在宅用電動介護用ベッド・リフトがあります。さらに規格開発中の品目には、立ち上がり補助いす・褥瘡予防マットレス・段差解消スロープ・家庭用階段昇降機・バスボードがあります。これら今後規格化が予想される品目についても、順次評価していく予定です。

安全な福祉用具を普及するために

JASPECは、製品の試験・認証を実施する機関ですが、試験・認証の実施それ自体が目的ではありません。JASPECの目的は、安全性が確保された福祉用具を安心して使用いただくことにあります。試験・認証はその目的を達成するためのひとつの手段であり前提条件です。

この目的達成のためには、製造者・供給者・中間ユーザーと呼ばれる専門職者・利用者それぞれの立場で、福祉用具の安全性に高い関心を寄せていただける仕組みをつくることが必要であると考えています。こうした認識に立ち、JASPECでは、福祉用具の安全性に関連する研修会の開催や認証製品情報出版物の発行、イベント・認証製品展示会の開催などを実施・計画しています。

福祉施策の変化への対応

現在、政府は「改革」の名の下に「応益負担」という考え方を導入し、福祉サービス利用者の自己負担率が高くなる法律成立や制度変更を押し進めています。障害保健福祉施策を根本から変える内容を含んでいる故、慎重かつ当事者の意見にも耳を傾けて審議すべき「障害者自立支援法案」は、現在開催中の特別国会期末には与党の賛成多数により成立する公算が大きいと思われます。

この法案が成立した場合の障害者福祉の今後を考えたとき、そのメリットは利用者自身がサービスの選択を、より「消費者の目」で選択することができる点が挙げられます。一方、デメリットは多々ありますが、大きな点は障害が重いほど自己負担が大きくなることです。メリット・デメリットいずれにも言えることは「サービス利用者は、これまで以上に費用対効果を求めるべきである」ということです。福祉用具といえども社会に流通する商品である以上、お客様(福祉用具利用者)のニーズに対応していくことが重要です。福祉用具利用者の意識が変われば、供給者の意識も変わります。行政や中間ユーザーが選択したモノを利用するだけではなく、利用者自身が福祉用具に対してさまざまな要望を唱えていただきたいと思います。

そして、その要望の第一に「安全性は最低限の条件」と声を挙げて訴えていただきたいと思います。そうした声を挙げていただくことによって、福祉用具の品質はさらに向上するはずです。

(すずきとしろう 有限責任中間法人日本福祉用具評価センター企画管理部長)