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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年11月号

列島縦断ネットワーキング

佐賀 点字図書館の巡回移動図書の取り組み

凌かなえ

佐賀県立点字図書館における巡回移動図書の活動についてご紹介します。佐賀県立点字図書館は昭和47年に設立され、今年で33年になります。図書館設立以来利用者からの強い要望があり、巡回移動図書が始まって23年ほど続いています。現在では当館における利用者サービスの大きなウエイトを占めています。

図書館利用登録者の45%が利用

佐賀県は面積が2,400平方キロメートル、人口が87万人ほどの小さな県です。巡回移動図書(私たちは通常「巡回」と呼んでいます)は、この小さな県を7コースに分け、月1回ずつ利用者の家を1軒1軒回る訪問サービスのような形で図書の貸し出しを行っています。巡回では現在1回平均20軒の家を回っています。7コースなので、巡回利用者は150人くらいです。このうち障害者施設等も、5施設ほど回ります。

点字図書館の利用者登録は約350人ですので、その約45%が巡回利用者ということになります。貸し出し数も巡回が占める割合は全体の50%以上です。これでお分かりのように当館は、巡回がなかったら貸し出し数が激減します。巡回利用者の中で、読書量が多い人は郵送と併用して借りています。この巡回時の貸し出し数は上限でテープ20巻、点字図書で5~6冊、デイジー図書(CD版)は2枚くらいとしています。

では、どういうふうに巡回しているかと言いますと、まず職員4名が交替で回ります。午前9時頃点字図書館を出発し、4時過ぎに戻るという1日がかりの行程です。小さな県と言っても県境まで行くコースもあり、遠いコースは1日150キロメートルを1500ccのワゴンタイプの車で走ります。

利用者の方の家の玄関で「点字図書館で~す」と声を掛けることから始まり、その日にお持ちしたテープや点字本またはデイジー図書の著者、タイトル、巻数を読み上げてお渡しします。もちろん利用者からの貸し出し図書の希望もありますが、何でもいいから持ってきてくださいという方も多くいらっしゃいます。また、お持ちした図書の内容を聞かれることがあるので、当館で製作したテープについてはケースに内容を書いています。この時に本の紹介をしたり、利用者からテレビやラジオで紹介されていた本のことを教えてもらったり、情報交換の場にもなります。そして「来月は何月何日何曜日にまた伺います」と言って辞去します。

巡回はこのような感じで進めています。これだけだと1件の所要時間は7~8分なのですが、なかには「針に糸を通して」と言われてまとめて何本か糸を通してあげたり、「このセーター、まだ着てもおかしくないかどうか見てください」と聞かれたり、郵便物を読んであげたりすることもあります。「尺八をやっているんだけど、ちょっと聞いてみてください」などという人もいたり、話し好きな人とは辞去するタイミングを失いかけたこともしばしばです。その他、巡回時に日常生活用具や盲人用具の配達を行ったりもしています。

巡回車は、これまではライオンズクラブからの寄贈によるものでした。だいたい1台で10年以上走行し、年間約1万キロメートルで10万キロメートルほど走っています。現在の車は3代目で15年の4月に入った日産のウィングロードです。この車が来たいきさつは、もうそろそろ車の買い換え時期なのでと、設置主体の佐賀県に再三要望していましたが、なかなか思うようにいきませんでした。結局当館の30周年記念式典に際して、利用者やボランティアに呼び掛けたカンパの余剰金を車購入の資金にさせてもらい、足りない分は利用者団体である佐賀県視覚障害者団体連合会等から支援してもらいました。

車での移動は危険を伴いますので十分気をつけて巡回しています。車のトラブル用にJAFに加入しています。過去私が脱輪やパンクでお世話になったくらいですが、どちらも30分ぐらいで対処してもらい、その後の当日の巡回には支障はありませんでした。

利用者とのふれあいを大事に

新入職員にとってこの巡回は、まず道を覚えることが大変大きな仕事です。最初は先輩職員が運転する車に同乗し、場所を覚えていきます。次の月は先輩職員が助手席で新入職員自身が運転し、3か月目からは一人で回ります。県内の150数か所を覚えるというのは大変なことです。こまめにメモをとりながら、何々の信号機の2つ先を右とか、何々という看板が見えてまもなく左とか、地理的センスがない私にとってもとても大変でした。時々目当ての看板が無くなっていたり、工事中や通行止めになっている時は、丸覚えしている道なのでぐるぐる回ってようやくたどり着いたり、ぼんやりしていると今でも通り過ぎてしまうこともあります。

個人的にはこの巡回は、雨の日も雪の日も炎天下の日も荷物を持って乗ったり降りたり、肉体的にもたしかにきつくなっています。リスクも多い仕事ですが、郵送貸し出しが多い点字図書館にとって、利用者と直接話ができ、じかに反応もわかるので業務がやりやすく、利用者も満足度が高いのではないかと思います。

ITの活用によって、今まで以上にたくさんの情報をいち早く、簡単に手に入れることができ夢のような時代になりましたが、私たちはそれと同時にこの巡回を通して、一人ひとりの利用者の方とオンラインサービスでは得られないふれあいを大事にしていきたいと思います。

(しのぎかなえ 佐賀県立点字図書館)