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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年11月号

ワールド・ナウ

草の根障害者自助団体のキャパシティ・ビルディングをめざして
―中国四川省成都市ワークショップ報告

秋山愛子

はじめに

今年8月16日から18日までの3日間にわたり、中国四川省成都市において、国連アジア太平洋経済社会委員会(以下ESCAP)と中国障害者連合会(以下CDPF)が共同で「草の根障害者自助団体のキャパシティ・ビルディングに関する視察兼地域ワークショップ(以下ワークショップ)」を開催しました。会議の結果、「草の根障害者自助団体の地域におけるキャパシティ・ビルディングに関する共同文書」が合意され、2007年に予定されている第2次「アジア太平洋障害者の十年(2003年~2012年)」中間年政府間会議に向けての準備資料として活用されることとなりました。今回は皆さんに、この会議の経過と主な内容や論点、課題、そして最後に共同文書の内容を紹介させていただきたいと思います。

会議の経緯と構成

CDPFは、多数の障害者自助団体も傘下に置く障害者団体の全国統一組織で、1988年に創立。第1次・第2次「アジア太平洋障害者の十年」のこれまで13年間、ESCAPと共同で会議開催などの事業を通じ、障害者の機会平等と完全社会参加の実現に貢献してきました。

第2次障害者の十年の政策ガイドライン、びわこミレニアム・フレームワーク(以下BMF)は、自助団体と関連の家族団体が障害者のニーズを最もよく把握し、政策立案者や事業実施主体にそのニーズを伝えていく最適の存在であるとの認識に立ち、これらの団体があらゆる面においてより積極的な役割を果たすよう促しています。さまざまある課題の中でも、特に貧困は、この地域の多くの障害者の前に立ちはだかっています。貧困削減においては、地域に根ざした、草の根自助団体の発展と育成は不可欠である。これまでの会議や現状分析の結果から、ESCAPはこのような認識に立っていました。特に2004年にはCDPFとの共催で貧困削減をテーマに会議を開き、成果文書内の提言のひとつにも、「障害者とその団体のキャパシティ・ビルディングの支援」が盛り込まれました。今回、成都市のワークショップは、これらの経緯を踏まえ、自助団体の果たす役割や課題などについて議論し、実践に役立つ情報を提供することが目的とされました。

ワークショップの対象は、障害者自助団体の運営に関わる人と障害者の政策立案に関わる政府担当者。中国はもちろんのこと、バングラデシュ、カンボジア、インド、インドネシア、ラオス人民共和国、フィリピン、タイ、ベトナムから約20人。さらに日本とニュージーランドからそれぞれ一人ずつ講師が参加しました。自助団体の実態把握を目的に、成都市内の半日視察もプログラムに組み込まれました。

初日の開会式には、成都市長とCDPF副代表の挨拶もあり、地元の関係者等を含め、100人近くが集まりました。中国全体の人口は13億人、内障害者はその約4.6%の6000万人と推定されています。成都市は人口1059万人で障害者はその約5%の53万人。特に2002年以降、障害者支援に力を入れ、毎年3万人が就労支援を受け、これまで4,587人が義務教育を受けられるようになったといいます。経済発展が急速に進むなか、障害者の発展を置き去りにしてはならないとの認識がこの市にはあるようです。今年は市の障害者連合代表毛氏に偉大な貢献者としての栄誉賞が授与されました。

主な論点

ワークショップで参加者が「障害者の自助団体」と言及するとき、それは障害当事者の団体およびその親戚や家族の団体、あるいは皆が一緒になっている団体を指しています。講師の一人は、フィリピンのミンダナオで障害児の親がうまく組織化されたことで障害児の教育率が上昇したという例と、サモアで家族が島の障害者の個人写真付きデータ収集を行った結果、政策立案者に教育の必要性が説得力をもって伝わり、必要な教員養成コースが設置された例をあげ、家族の組織化の重要性を指摘しました。これに対してインドの参加者は、インドでは家族の識字率も低いので、組織化するのは容易ではないこと、国によって事情が違うことを指摘しました。

自助団体の性格やそれを支えるシステムの有無にも違いがあることが明確になりました。中国では、まず中央の組織(■表1■)があり、そこで定められた「障害者のワーク強化」というガイドラインが、省やその他の地方行政区分の組織に伝わり、さらにその下にある社区や村とよばれる身近な地域社会の組織に浸透していきます。ガイドラインは日本の省庁に当たる14の部にも伝えられるため、各地方組織も行政からの側面支援を受けます。社区や村の組織が草の根の自助団体であり、その運営はそれぞれの地域の住民委員会が行います。議長は通常、住民代表で副議長が障害当事者か家族、執行委員は障害当事者や家族が務めます。この団体は地域障害者住民の情報やニーズの把握、各種サービスの提供・仲介、社会参加の促進を主に行います。障害のある人が家々を一軒ずつ訪ねていくことで、家に引きこもりがちで自信のなかった障害者の心が開いていくという事例も紹介されました。

全国の村レベルで総計40万の自助組織があるという、数の膨大さに参加者は圧倒されましたが、ベトナムからは、活動の財源はどうなっているのかとの質問がありました。上部組織と行政からの支援、地域の寄付と雇用割り当て制度を満たさなかった企業からの罰金による雇用安全基金によるとの答えが返ってきました。中国の例は制度の中に自助組織が組み込まれているため、行政の側面支援も受けられ、財政面の持続性もあります。

しかし、ワークショップ参加国の多くはそうではありません。バングラデシュもカンボジアも、自助団体の多くが自力100%で活動資金を捻出しなければならないNGOであるため、国際・開発NGOへの事業申請に関しては並々ならぬ努力と苦労を重ねています。他社との競争原理のなかで障害者支援を行っていかなければならないという事情があります。また、事業資金提供者も永続的に援助できるという保障もありませんし、支援対象のテーマも時代に合わせて変化します。資金提供者に依存することなく、地方政府からの支援を引き出す努力を時間をかけて行うべきでないか。あるいは自らのもつ価値、たとえば、バングラデシュであれば、最貧国における開発のプロ、という点を生かした先進国からの開発に興味のある生徒を受け入れるプログラムなどで、資金を捻出する方法を考えてもよいのではないかとの案も出されました。

さらに、自助団体のリーダーシップに関する課題も出されました。まず、全国的な自助組織のリーダーが草の根のニーズを理解しなくなってしまう危険性があるという点。これに関してはリーダーを定期的(たとえば2年)に選挙で選出する制度を整えて、リーダーとしてのアカウンタビリティ(責任性)を高めることなどが提案されました。次世代のリーダーがなかなか育たない中で、経験あるリーダーは若いリーダーを国内外の議論の場にもっと参画させ、うまく育成すべきではという指摘もされ、自助団体内の人材育成の現実的な問題が浮き彫りになりました。また、カンボジアからは、自助団体がアドボカシーを行うのはいいが、実際の生活の課題である収入確保を実践的に支援する活動もおざなりにはできない、両者の均衡を保つ必要性があると感じているとの発言がありました。

視察では中国の地域レベルの自助団体を大面鎮と長寿社区で訪問。各地域の障害者のデータがインターネットのパスワードを通じてアクセスできる状態になっていること、地域センター内にリハビリ施設が併設されていることなどを学ぶと同時に、支援を通じて街頭でお店を開いている障害者との出会いなどがありました。

成果文書の提言
ワークショップの成果文書「草の根障害者自助団体の地域におけるキャパシティ・ビルディングに関する共同文書」の提言は、要約すると以下のようになります。

地域内の政府への提言

  1. ミレニアム・ディベロップメント・ゴール、特に貧困削減と教育に関して障害者を明確な対象とする行動。
  2. 草の根自助団体のエンパワメント(特に意思決定への参画を念頭に)必要な財政・技術支援を提供。
  3. 都市部と農村部両方において障害横断的な団体と障害種別の団体両方の育成を推進。
  4. 地域開発のプログラム(貧困削減など)に障害の視点を明確に反映。

自助団体と障害者団体、他の市民団体への提言

  1. 女性障害者、知的障害者、精神障害者、重複障害者、重度障害者などを活動の意思決定過程に参画させることを推進。
  2. 農村部において、貧困と障害の関係性に留意し、収入確保とローンへのアクセスを改善する。
  3. アカウンタビリティ、資金捻出などの技術を伝えることで若いリーダーの育成を推進。
  4. 農村部で、既存の社会資源を生かして自助団体の育成およびCBRや自立生活など自助団体を巻き込んだ地域に根ざしたアプローチを強化する。

今回のワークショップを通じて、参加者は、身近な地域の自助団体の重要性を再確認し、その育成の方法を考えていくことに新たな意欲を燃やしたように思われます。視察によって、中国の自助団体の現場を味わえたことも大きかったようです。会議の詳細はhttp://www.worldenable.net/cdpf2005/をご覧ください。ESCAPでは、来年も自助団体をテーマにした会議を行う予定です。

(本稿の見解はESCAPではなく、筆者個人の見解であることをご理解ください。)

(あきやまあいこ ESCAP・障害プロジェクト専門家)