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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年1月号

自治体の取り組み事例

長野県の障害者(児)地域生活支援の取り組み
「西駒郷」から地域生活移行に向けた障害者自律支援室の取り組みから

大池ひろ子

はじめに

長野県では、現在、「どんなに障害が重くとも、自分が住みたい地域で人間として当たり前の普通の暮らしができるような社会」を実現するための一つとして、県立の知的障害者総合援護施設「西駒郷」利用者(定員500人)の地域生活移行を進めています。平成15年度から17年12月26日までに140人の方が西駒郷を退所し、地域で暮らすようになり、西駒郷の入所者は現在277人となっています。

長年、施設に入所していた方が、「施設ではなく身近な地域で普通の生活を送りたい」という、その願い、希望に応えるために長野県では、16年3月に「西駒郷基本構想」を策定し、さまざまな県単独事業を立ち上げ地域生活移行に積極的に取り組んでいます。

長野県の西駒郷利用者の地域生活移行の取り組みは、施設解体自体が目的ではなく、必要な施策を整え、障害のある方が身近な地域で安心して暮らせるような仕組みをつくることを目指しています。そのような仕組みができれば地域で生活できる方が増え、結果として「施設が縮小」していくことになるものと考えています。そのために16年度、障害保健福祉圏域ごとに身体・知的・精神に障害のある方を総合的に支援する「障害者総合支援センター」を設置するなど、障害のある方々の生活や就業支援施策を充実、強化し障害者が地域で安心して生活できる体制づくりに取り組んでいます。

新たな組織~「障害者自律支援室」

これらの、施策を推進している部署が長野県社会部障害福祉課障害者自律支援室です。西駒郷は昭和43年に開設しましたが、施設が狭隘・老朽化するとともに、障害者を取り巻く状況も施設から地域へと大きく変化してきている中、これらに対応した西駒郷の今後のあり方を検討するために「西駒郷改築検討委員会」が平成13年7月に設置されました。7回の委員会開催を経て、平成14年10月に知事に次のような提言がなされました。

  1. 長期入所型の大規模総合援護施設(コロニー)として改築すべきではない。
  2. 利用者の地域生活の支援体制を全県的に整備し、地域移行を促進する必要がある。
  3. この地域移行は、利用者及び保護者の理解を得て進め、利用者の援護の責任を保護者に転嫁することなく、長野県が責任を負うべきである。
  4. 入所している利用者の居住環境の早急な改善が必要である。

県では、この提言を具体的に進めていくために「西駒郷基本構想」策定に取りかかることになりました。当時、障害福祉課でこの作業を進めていましたが、入所施設から地域生活への移行という全国に先駆けた大きな取り組みは、地域の資源や支援体制などの条件整備、住民の理解などが不可欠です。このようなことから、県として専任の部署の設置が必要になったわけです。

このような経緯の中で障害者自律支援室は、平成15年4月に室長以下5人で障害福祉課に新たに設置されました。また、同時に西駒郷にも利用者の地域生活移行を具体的に推進するために自律支援部(部長以下3人 現在は地域生活支援センターに名称変更)を設置しました。

またこのような組織と同様に重要なのが、障害のある方々を長年にわたり実際に支援してこられた地域生活支援の実践家を要所に登用したということです。

障害者自律支援室には、長野県北信圏域の地域生活センター所長として活躍しておられた福岡寿さんを障害者自律支援専門員(週2日)として、また西駒郷自律支援部長には愛知県知多地域で地域生活支援センター「らいふ」所長であった山田優さんを迎えての強力な体制でスタートしました。室長になった私も、昭和47年に県に福祉職として採用されて以来、障害者の地域生活支援、特に精神障害者の社会復帰、地域生活支援の推進に取り組んできておりました。障害者自律支援室においての知的障害者の地域生活移行の取り組みを機に身体、知的、精神に障害がある方の地域生活支援施策を積極的に推進したいとの強い気持ちをもっての着任でした。

平成17年度については、■資料1■のとおり充実した推進体制になりました。

また、西駒郷へは県内全域から入所していますので、各地域において地域生活に必要な受け皿を用意しなければなりません。そのための体制として、地方事務所厚生課が事務局となり、10の障害保健福祉圏域ごとに設置されている圏域調整会議を活用することとしました。この結果、15年度の圏域調整会議の開催回数は例年の2倍の108回(10圏域、専門部会を含む)と充実しました。

このように、長野県の取り組みは、障害者自律支援室と西駒郷「地域生活支援センター」、各圏域の市町村等と連携しながら地域生活移行を進めるとともに、地域生活に必要な社会資源の開発や調整を行っているのが特徴といえます。

具体的な成果~新たな支援施策の立上げ

西駒郷利用者の地域生活移行を主たる業務とする自律支援室は、1年目は日常のルーチンワーク的な業務はもちませんでしたので「西駒郷基本構想」策定に向け全精力を注ぐことができました。西駒郷基本構想策定という作業は、策定そのものが目的ではありませんし、西駒郷利用者が地域生活に移行していくためだけのものでもありません。これからの長野県の障害者福祉施策を推進していくための支援体制の整備や支援施策全体を見直し強化していくことを大事に考え、ワーキンググループの開催や基本構想策定委員会の開催を経ながら策定作業を進めました。

障害のある方が、地域生活移行後に安心して地域生活を過ごすためには、地域に「生活の場」、「日中活動の場」、「在宅福祉サービス」、「相談・支援体制」等、さまざまな社会資源が総合的に整備される必要があります。

これらの施策、事業を16年度に新たに立ち上げることが、自律支援室の大きな仕事でもあるとの認識のもと、少ない職員体制ではありましたが総力をあげて取り組みました。その結果、財政難の折ではありましたが、平成16年度に多くの県単独事業を立ち上げることができ、障害者の地域生活支援関連予算は前年に比べてほぼ倍増し充実しました(■資料2■)。

おわりに

地域生活移行に取り組み始めて2年半が経過し、重度障害者の地域生活移行や地域生活移行していった方々の権利擁護を中心とするサポート体制の充実などさまざまな課題がありますが、今のところほぼ順調に推移しています。これは、県として地域生活移行のために、専任の部署を設置して推進してきたことによるものと考えております。

また、障害者自律支援室は今年度、就労支援ユニットを新たに立ち上げるなどして現在、室長も含め9人の体制となっています。来年度は、基本構想見直しの年でもあります。障害者自立支援法を始めとする国の施策や動向を見据えつつ、民間入所施設からの地域生活移行や、精神に障害のある方の退院促進、重度障害者の生活の場や日中活動の場の確保等も積極的に進めていきたいと考えています。

課題は多いのですが、これからも障害のある方たちが、地域社会で当たり前に、そして安心して暮らせる社会を実現するために、在宅福祉施策を一層充実させ、市町村、社会福祉法人等と連携しながら、社会全体で障害のある方を支えるシステムの構築を図っていきたいと考えています。

(おおいけひろこ 長野県社会部障害者自律支援室長)