「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年1月号
自治体の取り組み事例
保健・医療・福祉の新システムづくり
―三重県紀南県民局の取り組み―
上野敏彦
紀南地域は、三重県の最南端に位置し、熊野市、御浜町、紀宝町、鵜殿村の4市町村からなり(12月20日現在)、奈良・和歌山両県に接する地域にあります。三重県庁よりは遠く、紀南県民局保健福祉部がある熊野市で約150km、県境まではさらに20km近くあります。
人口は約4万5千人で、面積は、約540km2です。三重県でも最も過疎高齢化が進んだ地域であり、高齢化率は20%にもなります。
紀南地域の東側は太平洋に面して、平地は少なく、ほとんどが交通不便な山間部になっています。
みかんの栽培の他めだった産業もありませんが、最近は「熊野古道」を生かした観光に力を入れています。
保健・医療・福祉の新システムづくり
このような紀南地域で、保健、医療、福祉の関係機関が連携することにより、地域課題を克服していこうという取り組みが始まったのは、紀南地域の振興を図るため、地域住民と行政の協働で組織する「紀南地域活性化検討委員会」が、平成15年2月にとりまとめた『紀南地域の振興策』に、一つの取り組みとして、「保健・医療・福祉の統合連携による新しいシステムづくり、住民の立場に立ったサービス提供システムの構築」が提言されたためです。
これを受ける形で、平成15年7月に、県、市町村、地元医師会、地元歯科医師会、紀南病院、社会福祉協議会、三重大学医学部などの保健、医療、福祉の関係機関を構成員とする「紀南地域における保健・医療・福祉分野の新システム検討委員会」が立ち上がり、現状への認識や先進地域の取り組みに学びながら、平成16年4月に、次のようなアクションプランを作成しました。
1 住民の立場に立ったサービス提供システム
1.住民総合相談窓口の創設
市町村に、高齢者、障害者、母子等の分類にとらわれない、対象者や家族を、問題を抱えるケースとしてトータルにとらえ、ケアマネジメントできる体制を整えた総合相談窓口を創設する。そこに、保健師、社会福祉士等のコーディネーターを配置するとともに、ケア会議等を通じて、保健、医療、福祉の関係機関との連携を図ります。
2.地域医療体制の整備
地域の中核病院である紀南病院に、地域の診療所や保健、福祉との連携を密にするため、地域連携室を設け、メディカルソーシャルワーカー、保健師等を配置します。紀南病院を地域医療に独自の特色ある魅力をもった病院にしていきます。
2 基幹保健福祉サービスセンター(仮称)の設置
市町村の保健福祉のバックアップと連絡調整機能を持った紀南地域の広域のセンターを設けます。療育、健康づくりの拠点機能の整備を図ります。
1.新たな展開
平成16年度、アクションプランの具体化に向け、委員会で検討を重ねていましたが、介護保険法の改正、障害者自立支援法の制定、児童福祉法の改正等大きな制度改正の動きが明らかになってきました。これまで検討してきた総合相談窓口や広域のセンターのあり方と重なってくる部分も多く、法を踏まえたものに変えていく必要が出てきました。
そこで、それまでの委員会を一旦廃止し、平成17年7月14日新たに「保健・医療・福祉の新システム推進委員会」を設置しました。
介護保険法の改正による新しい仕組みづくりは、紀南介護保険広域連合を中心に検討していくこととし、障害者自立支援法や改正児童福祉法等に対応した紀南地域の広域の仕組みづくりについては、この委員会に障害者及び児童の部会を設け検討していくことになりました。
一方、アクションプランの取り組みの一つである地域医療体制の整備については、平成17年4月に紀南病院に地域連携室が設置され、紀南病院の内科医師不足が現実の問題となるなか、病院と診療所の連携や地域の保健、福祉機関との連携強化に動き出しました。
また、紀南病院を魅力ある病院にするためのプロジェクト委員会が平成16年12月に、地域医療に活躍されている医師を委員長に迎え、検討が始まりました。
2.現在の取り組み状況
保健・医療・福祉の新システム推進委員会障害者部会では、紀南県民局保健福祉部、市町村、公共職業安定所、社会福祉協議会、民間の知的障害者施設、精神病院の職員を構成員にして、三重県が各障害保健福祉圏域に設置を進めている障害者総合相談支援センターの紀南版の検討を行っています。
このセンターは、障害のある人が地域で安心して生活できるよう、年齢、障害種別等を越えて総合的な相談支援を行うとともに、市町村における地域生活支援体制の構築に向けて必要な支援を行うためのものです。
先行している長野県の障害者総合支援センターの取り組みを視察し、障害児者に対する取り組みの弱い紀南地域では必要なものだという認識をもって、検討を進めています。
児童部会では、紀南県民局保健福祉部、市町村、児童相談所、教育事務所、養護学校等の職員を構成員に、児童福祉法で設置を進めている要保護児童対策地域協議会の設置について検討をしています。
日頃から連携の弱い教育と保健、福祉とのつながりをどう強化していくか、また、個人情報の保護の問題などもあり、児童及び保護者にかかわる関係機関の連携の仕組みが必要ということで、紀南地域の広域で要保護児童対策地域協議会の設置を検討しています。
3.今後の課題及び取り組み
アクションプランで計画している広域のセンターについては、市町村の財政が厳しいなか、一度にすべてを進めていくのは難しいということで、法改正に対応したところから進めていますが、人、金の問題をクリアすることは容易ではありません。専門的な人材や社会資源が不足する地域で、どうやって新しいサービスを展開していくのか大きな課題です。
紀南地域では、療育センターもなく、専門の小児科医は病院に一人だけという厳しい現実がありますが、問題のある子の2次検診の体制が市町村の保健師の努力でようやく整ってきたところです。
今後、療育から保育所、学校、卒業してからの就労、地域での生活に至る一貫したケアの体制や複合的な問題をもっている人、家族に対する障害種別や年齢にとらわれない統合したケアマネジメントの体制を整備していく必要もあり、既存の関係機関の連携を強化することによって、大きな力を発揮できるようになればと思っています。
(うえのとしひこ 三重県紀南県民局保健福祉部)